第68話 借りた時間の中を走っている
先生が目を閉じた。
光の膜が、わずかに揺れた。魔道デバイスの画面が一瞬明滅した。零司はデバイスを確認した。監視の反応が、止まっていた。
「……今、止めた。早く行って」
先生の声は小さかった。でも確かだった。
「先生、必ず戻ります」
「いいから、行きなさい」
楓が光の膜の前で一瞬立ち止まった。何か言おうとして、言葉が出なかった。それでも頷いて、踵を返した。
四人は走った。
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星冠の塔を出た。
外の空気が冷たかった。夜になっていた。王都の灯りが遠くに見えた。
監視が止まっている。その事実が、足の裏から伝わってくるような感覚があった。これまでとは違う緊張感だった。追われているというより、借りた時間の中を走っているという感覚だった。
「神殿の地下への道、分かりますか」
零司が楓に聞いた。
「マッピングで確認します」
楓がデバイスを開いた。これまで歩いてきた道の記録が画面に現れた。神殿の地下へ続く入口の位置が、おおよそ把握できた。
「こっちです」
四人は走り続けた。
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神殿の裏手から地下へ続く通路へ入った。
儀式が行われた表舞台とはまるで違った。装飾が何もなかった。石造りの壁に術式が刻まれていたが、光が弱かった。薄暗かった。空気が冷たく、湿っていた。
足音が響いた。声を出せなかった。
「魔力の流れが……深くなるほど濃くなってる」
瑠奈が小声で言いながら先へ進んだ。
楓がマッピングを更新し続けた。地下の構造が少しずつ画面に現れてきた。複雑に入り組んだ通路が続いていた。
澪が後ろと左右の気配を探りながら歩いた。零司は前方を確認しながら進んだ。
誰も話さなかった。でも四人の動きが自然に噛み合っていた。
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どのくらい時間が経ったか、零司は意識していた。
先生の力がいつまで保つか分からなかった。そう長くは保たないという言葉が頭に残っていた。急がなければならなかった。でも音を立てることもできなかった。
瑠奈が立ち止まった。
「この先……何かある」
小声だった。でも確信のある声だった。
零司は前を見た。通路の先が、薄く光っていた。
楓がマッピングを確認した。
「広い空間があります。この先です」
四人は息を潜めて、前へ進んだ。




