第64話 手が届かなかった
光が溢れていた。
最上階は広かった。天井まで続く壁に術式が刻まれていて、全体が青白く光っていた。床には巨大な魔法陣が描かれていた。その中心に、光が浮かんでいた。
楓は息を呑んだ。
光の中に、人影があった。
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近づいた。
一歩、また一歩。光が強くなるにつれて、人影の輪郭が見えてきた。
膝を抱えて丸くなっていた。
楓はその顔を見た瞬間、足が止まった。
五十嵐先生だった。
言葉が出なかった。召喚された日から、ずっと会いたかった。でも今目の前にいる先生は、楓が知っている先生とは何かが違った。細くなっていた。表情がなかった。意識があるのかどうかも分からなかった。
「先生っ」
声をかけた。反応がなかった。
「五十嵐先生、聞こえますか」
澪が続けた。先生の目がかすかに動いた。でも焦点が合っていなかった。
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「九十九くん、外を見ていてください」
楓は零司に向かって言った。
「……わかった」
零司が扉の方を向いた。
楓は先生に近づこうとした。手を伸ばした。でも光の膜に阻まれた。手のひらが透明な壁に当たるような感覚があって、それ以上入れなかった。
「触れない」
澪も試みた。同じだった。瑠奈が杖を向けて術式を確認した。
「光が壁みたいになってる。中に入れない」
楓は鑑定を発動した。先生の状態を確認しようとした。でも光が強すぎて、鑑定の結果がうまく返ってこなかった。断片的な情報だけが見えた。生命力、魔力、どちらも通常より大幅に低下していた。
数値だけを見れば、ひどく衰弱しているとしか思えなかった。でも先生はここに閉じ込められているだけのはずだった。それなのになぜ、これほどまで力が失われているのか。楓にはその理由が分からなかった。
「先生の生命力が……かなり下がってます」
楓の声が震えた。
三人で光の膜を調べた。押しても、叩いても、瑠奈が魔法を当てても、びくともしなかった。中にいる先生には、手が届かなかった。
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「先生っ、私たちです。楓です。聞こえますか」
楓は光の膜の前で何度も呼びかけた。
しばらくして、先生の唇がかすかに動いた。
声は聞こえなかった。でも確かに動いていた。
「先生、今助けます」
澪が静かに言った。
先生の目がゆっくりと動いた。焦点が定まらないまま、でも誰かがいることには気づいているようだった。
「零司くん」
楓が振り返らずに言った。
「なに」
「先生がいます。でも光の中にいて、触れられません」
零司は扉の方を向いたまま答えた。
「分かった。どうにか方法を探そう」
先生の唇がまたかすかに動いた。今度は少しだけ、声になりかけていた。




