第58話 明日は任せて
夕食は四人で近くの食堂に入った。
いつもと同じ店だった。いつもと同じ席に座った。でも何かが違った。
「明日、早いの?」
瑠奈が聞いた。
「朝から神殿に集まるって言ってたわね」
澪が答えた。
「そうですね……」
楓が続けた。
「まあ、なんとかなるだろう」
零司が言った。
誰も続きを言わなかった。料理が運ばれてきて、四人は食べ始めた。会話はあった。でもどこかぎこちなかった。楓は普段より口数が少なかった。澪は静かに食事していた。瑠奈だけが少し明るく振る舞っていたが、目が笑っていなかった。
明日の儀式について、誰も直接触れなかった。でも全員が意識していた。その空気だけが、テーブルの上にずっと漂っていた。
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夜、部屋の扉がノックされた。
開けると瑠奈だった。宿屋の廊下に立っていた。テントの時とは違う、石造りの廊下だった。
「入れて」
零司は部屋へ通した。瑠奈は部屋の真ん中に立って、少し黙っていた。いつもの明るさが、少し陰っていた。
「はっきりとは言えないんだけど」
瑠奈が口を開いた。
「明日の儀式、何かある気がする。嫌な感じがずっとしてて」
「……うん」
「抜け駆けみたいで澪ちゃんと楓ちゃんには悪いんだけど」
そう言って、零司に抱きついてきた。
小さな体だった。腕の中にすっぽり収まった。
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ふわふわした感覚に、全身が包まれた。
温かかった。零司の腕の中で、瑠奈は丸くなっていた。しばらくそのままでいると、突然瑠奈が変な声を上げた。
「ハーレムメンバーになった。ようやく」
顔を上げた瑠奈の目が、少し潤んでいた。
「……よかったな」
「うん、よかった」
瑠奈はしばらく零司の胸に顔を埋めていた。それから顔を上げて、笑った。
「明日は任せて」
笑顔だった。でもその奥に、さっきの不安さがまだ残っていた。
瑠奈は起き上がって、部屋を出ていった。扉が閉まった。
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一人になった。
天井を見ながら、零司は考えた。
なぜ三人がこんなにしてくれるのか。ずっと不思議だった。少し前に取ったスキルのせいだろうか。なんか全体的に能力が上昇するスキルだったけど、人間力が上がるとかそういうものなのか。
まぁ、そんなことはないか。
儀式の後はどうなるのだろう。次はどこへ行くのか。王都の先に何があるのか。そもそも、いつか元の世界へ戻ることになるのか。
元の世界へ戻ったら、どうなるのだろう。
三人はどうするのか。自分はどうするのか。
答えが出なかった。目を閉じた。
部屋の外から、王都の夜の静けさが伝わってきた。




