第56話 なんで最後まで敬語だったんだ
朝から街へ出た。
瑠奈と楓を誘ったが、楓は部屋にいると言った。瑠奈は別の方向へ行くと言って先に出ていった。結局一人になった。
一人の方が観察しやすかった。
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王都の商業区を歩きながら、澪は街の構造を頭に入れた。
衛兵の配置が多かった。神殿の周囲だけでなく、主要な通りにも等間隔に立っていた。アルヴェナより明らかに多かった。召喚者の宿屋の周辺にも、さりげなく衛兵が配置されていた。
魔道デバイスの地図を開いた。移動できる範囲を確認した。王都内部は広く動けるが、城壁の外へ向かおうとすると制限がかかるようだった。
自然な形で、行動範囲が絞られていた。
気づかなければそのままだった。気づいても、抗う方法がなかった。
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神殿の広場を通り過ぎながら、昨日の儀式の説明を思い返した。
光の神の祝福を授かる神聖な儀式。事前の詳細説明は控えさせていただいております。
守るためのものなら、内容を説明できるはずだった。なぜ説明しないのか。神聖だからというのは理由にならない。ルーヴェ村でもアルヴェナでも、神殿の儀式に詳細な説明がなかったことはなかった。
以前自分が口にした言葉が頭に浮かんだ。
守るためではなく、縛るため。
安全管理機構、魔道デバイスの監視、儀式への招集、説明されない詳細。全部が同じ方向を向いていた。召喚者を管理するための仕組みとして、すべてが機能していた。
でも証明できなかった。今は動けなかった。
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神殿近くの小さな店に入った。椅子に座って温かい飲み物を頼んだ。
楓のことを考えた。
楓は最初から零司と関係を持っていた。自分はその後から加わった。瑠奈はさらにその後だった。楓への遠慮がある。うまく言葉にできないが、零司のことを考えるとき、楓の顔がちらついた。
瑠奈はそういうことをあまり考えない様子だった。あっさりしていた。自分はそうなれなかった。
責任感が強いからだろうか。自分が動くことへの理由を、無意識に探していた気がした。楓のためにもなる、零司のスキルのためになる。そういう言葉で自分を納得させていた部分があった。
カップを両手で持ったまま、少し下を向いた。
店の外から歓声が届いた。
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店を出たところで、人とぶつかりそうになった。
「あ、ごめんなさ——」
顔を上げると、零司だった。
「澪、一人で来てたんですか」
「れ、零司、その、ひとりで、はい」
慣れてきたはずだった。普段はちゃんと話せていた。でも突然だと、だめだった。
「何か食べました?」
「た、食べました、はい」
なんで敬語になっているんだ。そう内心で突っ込みながら、顔が熱くなっていくのが分かった。
「そうですか。俺も少し歩いてたんですけど、儀式のこと——」
「儀式、そうですね、その、私も気になっていて」
零司が少し目を細めた。何か言いかけた。
でも向こうから神殿の方向へ向かう召喚者の集団が通り過ぎて、話の流れが途切れた。
「また後で話しましょうか」
「そうします、はい」
零司が歩き出した。澪はその背中を見送った。
なんで最後まで敬語だったんだ。
一人で突っ込みながら、歩き出した。でも頭の中には、儀式のことがまだ残っていた。やはり気になった。零司もそう思っているなら、四人で話すべきかもしれなかった。
神殿の屋根が、青空の中に白く聳えていた。




