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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第3章:「星冠の塔にて」
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第55話 はっきりとした言葉にはしたくなかった

 外から歓声が聞こえた。

 昨日から続いていた。英雄が来た、という話が王都中に広まっているらしく、神殿の広場には今日も人が集まっているようだった。

 澪と瑠奈は朝から街へ出かけていた。楓は部屋に残った。

 人混みの中へ出かける気になれなかった。歓迎してもらえることは嬉しいはずだった。でも今日は、どうしてもそういう気分になれなかった。

 

 ⸻

 

 鞄から資料の写しを取り出した。

 アルヴェナの蔵書室で見つけた文献を、自分で書き写したものだった。何度か読み返していたが、難解な部分は何度読んでも分からないままだった。

 星脈は大地に流れる力であること。5つの施設が五芒星状に配置されていること。召喚者が力を蓄えることで何かが維持されること。

 読みながら、頭の中で何かが引っかかった。

 王都大神殿。五芒星の中心。召喚者への儀式。

 それらが一本の線で繋がりそうな気がした。儀式の詳細は教えてもらえなかった。光の神の祝福という言葉だけが繰り返された。でもこの資料に書かれていることと、儀式というものが、どこかで重なっている気がしてならなかった。

 考えすぎかもしれない。

 そう打ち消そうとしたが、うまくいかなかった。

 

 ⸻

 

 資料を置いて、窓の外を見た。

 遠くに神殿の屋根が見えた。広場から歓声が届いた。英雄を歓迎する声だった。

 楓は自分が今、その歓声の中に入れないでいることに気づいた。

 みんなは嬉しそうだった。儀式を楽しみにしている召喚者もいた。王都まで来たという達成感を素直に喜んでいる人もいた。それは間違いではないと思った。でも自分の中には、ずっと晴れない何かがあった。

 これから何かが起きる気がした。うまく言葉にできない、予感めいた不安だった。

 零司のことが頭に浮かんだ。

 零司もきっと、何かを抱えているはずだった。ずっと前から、ずっと何かを考えていた。自分はそれを知っていた。はっきりとした言葉にはしたくなかったけれど、零司のそばにいたいという感覚だけが、静かに胸の中にあった。

 

 ⸻

 

 魔道デバイスを手に取った。

 零司の連絡先を開いた。

 何を送ればいいか分からなかった。大丈夫ですか、と打ちかけた。消した。今日どうでしたか、と打ちかけた。消した。

 何度か繰り返して、結局何も送らなかった。

 デバイスを伏せた。

 窓の外から、歓声がまた届いた。楓はそれを聞きながら、資料の写しを静かに鞄へ戻した。

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