第50話 誰かが常に見ていて、調整している
ダンジョンの通路を歩きながら、零司は考えていた。
召喚されてすぐの頃から、ずっと引っかかっていたことがあった。待遇が良すぎる。
召喚された日から、住む場所が用意されていた。食事も与えられた。装備も支給された。ルーヴェ村でも、アルヴェナでも、何不自由なく生活できる環境が整っていた。
でもその代わりに、魔物を倒し続けることを求められた。
魔物を倒すと、魔力が神殿へ回収される。それはいつからか気づいていた。与えられるものと求められるものが、きれいに対応していた。まるで取引のようだった。
なぜ魔力を回収する必要があるのか。誰が、何のために。
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英雄の話を思い出した。
昨日蔵書室で確認したことだった。歴代の英雄たちの功績は詳細に記されているのに、王都へ行った後の記録がない。子孫の話も出てこない。英雄たちは王都へ行った後、どうなったのか。
召喚者同士の争いが起きないのは安全管理機構のせいだった。でもなぜそこまでして争いを防ぐ必要があるのか。
以前二階堂が言っていた言葉が頭に浮かんだ。
守るためではなく、縛るため。
召喚者が互いに傷つけ合うことを防ぐのではなく、召喚者が何かをしようとすることを防いでいるのではないか。争いを防ぐことで、召喚者たちを管理しやすい状態に保っているのではないか。
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ふと、以前ダンジョンで魔物に囲まれて危うかったことを思い出した。
でもなぜ囲まれたのか、原因が出てこなかった。何かあったはずなのに、そこだけがぽっかり抜けていた。
似たような感覚が以前にもあった気がした。消えた召喚者の噂を聞いた気がする。でも詳細が出てこない。いつのことだったか、誰から聞いたのかも分からなかった。
こういう空白が、何度かあった。
思い出せないのではなく、思い出せない何かがあるという感覚だけが残っている。その感覚自体は消えていない。でも中身が出てこない。
偶然ではない気がした。
意図的に作られた空白なのではないか。
このシステムは自動ではない。どこかで誰かが常に見ていて、調整している。召喚者が知ってはいけないことを、知る前に消している。
その考えが浮かんだ瞬間、背筋に冷たいものが走った。
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ダンジョンを出て、四人で近くの食堂へ入った。
楓が今日のダンジョンの話をしていた。澪が相槌を打って、瑠奈が笑った。いつもと同じ、賑やかな食事だった。
零司は料理に視線を落としたまま、相槌だけを返した。
三人を見た。笑顔だった。この真実を知ったとき、三人はどう思うだろうか。
でも今は言えなかった。証明できない。確かめる方法がない。
普通に振る舞った。笑顔の三人に合わせて、何でもない顔をした。
料理の温かさが手のひらに伝わってきた。でも誰かが見ているという感覚が、どこかに残ったままだった。




