第49話 誰かが設計したとしたら
気になることがあって、一ノ瀬を誘った。
「零司くんから誘うなんて珍しいですね」
一ノ瀬は少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。蔵書室へ向かった。
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並んで棚を眺めながら、それぞれ本を手に取った。一ノ瀬はすぐに目当ての棚へ向かって、古い文献を抱えていた。零司は歴代の英雄に関する記録を探した。
以前から引っかかっていたことがあった。
図書館で読んだ本でも、英雄の子孫の話がまったく出てこなかった。あの時は気のせいかと思っていた。でもやはり気になっていた。
記録を開いた。英雄の名前と功績が記されていた。魔物を討伐した記録、王国への貢献、称えられた言葉。でも、その後の記述が途切れていた。
「これ見てください」
隣で一ノ瀬が本を差し出してきた。同じような記録だった。
「功績の後の記述がないんです。それに子孫の話も」
「……やっぱりそうか」
零司は自分が読んでいた本と見比べた。どちらも同じだった。英雄たちの功績は詳細に記されているのに、その後がない。結婚した、子供が生まれた、老いて亡くなった、そういう記述が一切なかった。
「おかしいと思いませんか」
「思う」
一ノ瀬は少し考えてから、また別の本へ視線を戻した。
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本を読み続けながら、零司は考えた。
老いない。これは事実だった。召喚されてからかなりの時間が経つのに、誰も変わった感覚がない。顔つきも体型も、微妙な変化すら感じられなかった。
子供を授かれない。以前二階堂が気づいていた。誰も例外がなかった。
髪や爪は伸びても、召喚された時の状態に戻る。以前瑠奈が観察していた。
一つひとつは別々の事実に見える。でも全部を並べると、一つの結論に辿り着く。
召喚者はこの世界に完全には受け入れられていない。異物として存在している。だから老化しない。子供を残せない。肉体が召喚時の状態を維持し続ける。
この世界の生態系に組み込まれていない存在。
でもなぜそうなのか。
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自然現象ではない気がした。
老いないこと、子供を残せないこと、肉体が維持されること。これだけ一貫した特性が偶然に生まれるとは思えなかった。
誰かが、そう設計したとしたら。
その考えが浮かんだ瞬間、背筋に何かが走った。
設計したとしたら、目的は何なのか。召喚者をこの世界へ呼び寄せて、老いさせず、子供も残せない状態に置いて、魔物を倒させ続ける。その目的は何なのか。
一ノ瀬に話すべきか迷った。でも口には出せなかった。証明できない。確かめる方法がない。今は、まだ。
一ノ瀬は隣で別の本を開いていた。零司の内心には気づいていない様子だった。
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しばらくして、二人で蔵書室を出た。
「今日も面白い本が見つかりました。零司くんは何か収穫ありましたか」
「……まあ、少しね」
一ノ瀬が今日見つけた本の話を楽しそうにしていた。零司は相槌を打ちながら、さっきの考えを頭の中で繰り返していた。
誰かが設計したとしたら。
目的は、何なのか。
街の喧騒が、二人の周りを通り過ぎていった。




