第44話 縛るもの
何か衝撃的なことが起きたはずだった。
でも何だったのか、思い出せなかった。
ダンジョンで魔物に囲まれて危うかったことは覚えている。でもなぜそうなったのかが出てこなかった。囲まれる前に何かあったはずなのに、そこだけがぽっかり抜けていた。
これは初めてではない気がした。以前にも似たような感覚があった。何かがあったはずなのに、何だったか分からなくなる感覚。
九十九は考えを切り替えた。
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安全管理機構、という言葉が頭に浮かんだ。
召喚者同士の争いや、街人への攻撃に対して発動すると説明されていた。実際にそういう場面を見たこともあった。でもダンジョンで魔物に囲まれて危うい状況になっても、発動しなかった。
守るためのものなら、なぜ危険な状況では発動しないのか。
発動する条件が、やけに一貫していた。召喚者が誰かを傷つけようとした時だけ発動する。召喚者が傷つけられる時には発動しない。
まるで誰かが基準を決めて管理しているみたいだ。
そういえば、誰かが安全管理機構が発動したという話をしていた気がした。一ノ瀬さんだったか、二階堂さんだったか。
九十九は魔道デバイスを手に取った。
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「九十九くんからなんて珍しいね」
一ノ瀬がすぐに出た。
「そうだっけ。まあいいや。ところで前に安全管理機構が発動したって言ってたような気がして。その時の様子を教えてほしい」
「そんなこと言いましたっけ。澪さんじゃないですか」
九十九は一ノ瀬との通話を終えて、二階堂へ連絡した。
「ひゃ、ひゃい」
裏返った変な声が聞こえた。少し間があった。
「ご、ごめんなさい。九十九くんから連絡なんて珍しいね」
一ノ瀬と同じことを言われた。
「前に安全管理機構が発動したって話を聞いた気がして、一ノ瀬さんに連絡したら二階堂さんが知っているかもって言ってたから」
「私も知らないわよ、そんな話したっけ」
少し間があった。
「そういえば九十九くんには話すけど、何でそんなこと考えたのかしら。安全管理機構って、守るのではなく縛るものだって思ったことがあって」
「縛るもの、か」
「召喚者が誰かを傷つけようとした時だけ発動して、召喚者が傷つけられる時には発動しない。それって守っているんじゃなくて、私たちの行動を制限しているんじゃないかって」
九十九は黙って聞いていた。
「ありがとう、二階堂さん」
通話を切った。
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縛るもの。
発動条件が一貫している。まるで誰かが基準を決めて管理しているみたいだ。
最近のもやもやが頭の中でぐるぐると回った。衝撃的なことがあったはずなのに思い出せない記憶。安全管理機構の非対称な発動条件。整いすぎた環境。魔物を倒すと神殿へ魔力が回収される仕組み。英雄たちの子孫がどこにも記録されていないこと。
繋がりそうで、繋がらなかった。
でも何かがある。そういう確信だけが、じわりと胸の中に残っていた。
デバイスを伏せた。
窓の外で、街の喧騒が続いていた。




