第38話 どこへ向かって走らされているのだろうか
四人でダンジョンへ行くようになってから、しばらく経ったある日、二階堂の提案で早めに切り上げて食事へ行くことになった。待ち合わせは商店街の前だった。
⸻
商店街の前に三人が先に来ていた。時間通りだった。
九十九は少し足が止まった。
三人とも普段着だった。一ノ瀬は淡い色のブラウスに落ち着いた色のスカートで、眼鏡だけがいつもと同じだった。二階堂は細身のシャツに長いパンツで、黒髪が肩に落ちていた。三上は丈の短いトップスにスカートで、金髪ソバージュが夕方の光を受けていた。
装備姿しか見ていなかった。
胸が少しうるさかった。
「遅い」
三上が言った。
「時間通りだけど」
九十九が答えると三上が少し目を逸らした。二階堂が「行きましょうか」と前を向いた。
⸻
二階堂が見つけた店は商店街の少し奥にあった。木の扉を押すと、香草の匂いがした。店内は清潔で明るく、丸テーブルがいくつか並んでいた。
四人がけのテーブルに案内された。誰が言ったわけでもなく、九十九の隣に一ノ瀬、正面に二階堂、斜め前に三上という席になった。
香草のサラダが来て、スープとパンが来て、鳥の香草焼きが来た。
「おいしい」
三上が最初に言った。二階堂も一ノ瀬も頷いた。九十九も食べた。確かにおいしかった。
食事しながら話した。ここに来てからのことを、とりとめなく話した。
「最近魔法の射程が伸びた気がする」
三上が言った。
「蔵書室にようやく入れました。この世界の古い記録がたくさんあって」
一ノ瀬が少し顔を明るくして言った。
「へえ、どんな記録が」
「なにか星脈、っていう言葉が出てくる古い文献とか、召喚の歴史とか……まだ全部は読めていないですけど」
デザートが来た。甘い香りがした。ハーブティーが来た。場が少し和んだ頃、二階堂が声を落とした。
「……ねえ、この世界って何かおかしくない?」
⸻
テーブルの上の雰囲気が少し変わった。
「九十九くんどう思う」
二階堂が九十九を見た。
「何か出来すぎというか……レールの上にのせられているような気がする。待遇が良すぎるし、行き先も決まってるし、魔物を倒すことしか選択肢がない」
「私もそう思う」
二階堂が続けた。
「それに私たちって代謝はあるのに体が変わらない。瑠奈が言ってた話もそうだけど……もしかして子供も作れないんじゃないかって」
テーブルが静かになった。
九十九は視界の端で一ノ瀬を確認しようとした。でも見られなかった。
図書館で読んだ本のことを思い出した。英雄の子孫の話が、どこにも出てこなかった。いつも大丈夫と言われていた。避妊もしていなかった。何か対処法があるのだと勝手に思っていた。でも一ノ瀬は最初から知っていたのかもしれない。
「じゃあ私たちって何なの」
三上が小さく言った。
「分からない」
二階堂が答えた。
「でも今は王都へ行くしかないわね」
誰も否定しなかった。ハーブティーの湯気が、テーブルの上でゆっくり消えていった。
⸻
店を出ると夜風が来た。
三人と別れて、一人で歩いた。商店街の灯りが遠くなった。石畳の上に自分の足音だけが続いた。
夜風が頬をなでた。
俺たちはどこへ向かって走らされているのだろうか。
答えは出なかった。足だけが前へ進んでいた。




