第31話 大丈夫ですから
部屋の扉を閉めて、二人は声を落とした。
ポニーテールの子が、ベッドの端に座ったまま膝の上で手を握り合わせた。おっとりした顔が、今日は少し青ざめていた。
「本当にこれで大丈夫なの?絶対魔道デバイスで監視されてるはずだよ」
「だから置いていくんじゃない」
ショートヘアの子が窓の外を見ながら答えた。活発そうな顔に、珍しく緊張の色があった。
「私の遠見のスキルでこっちに小さな村が見えた。まずそこへ行って身を隠せばいい」
「でも……」
「帰りたいんでしょ。私も同じ。ここにいたって怖い思いするだけじゃない」
ポニーテールは少しの間黙っていた。それから頷いた。
「……分かった」
二人は魔道デバイスを机の上に置いた。並べて、確認した。
部屋を出た。
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人目を避けながら商業区の門へ向かった。行き交う人の流れに紛れて、できるだけ自然に歩いた。門を通り過ぎた瞬間、ポニーテールが小さく息を吐いた。
農業区に出た。畑の間の道を走った。外壁の門が見えてきた。くぐった。
外壁の外は静かだった。舗装されていない道が続いていた。二人は走り続けた。どのくらい走っただろうか。荒れた道が続いて、息が上がってきた頃、ようやく遠くに小さな村の影がかすかに見えてきた。
「あれじゃない」
ショートヘアが指差した。ポニーテールも頷いた。二人は走った。
その瞬間、光が弾けた。
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気づいたら、神殿の前にいた。
息が上がっていた。二人とも膝に手をついて、周囲を見渡した。アルヴェナの神殿だった。走り出す前と同じ場所だった。
正面に神官が立っていた。いつからいたのか分からなかった。穏やかな顔で、こちらを見ていた。
「危ないところでしたね」
怒っていなかった。声のトーンが変わらなかった。
「道を間違えておられましたよ」
「あ、えっと……」
ポニーテールが口を開きかけた。神官は笑顔のまま続けた。
「それに魔道デバイスをお忘れになってお出かけになるなんて、危険ですよ」
一拍置いた。
「でももう安心してください。大丈夫ですから」
二人は何も言えなかった。神官はそのまま神殿の中へ戻っていった。
⸻
部屋に戻った。
机の上を見た。デバイスがなかった。置いていったはずだった。二人で確認してから出たはずだった。
ポニーテールが収納魔法を確認した。
あった。
ショートヘアも確認した。同じだった。
二人は顔を見合わせた。
引きつった笑みを浮かべるしかなかった。頭の中で、神官の声が繰り返された。
大丈夫ですから。




