第30話 図書館、ありませんね
宿屋の食事処は朝から賑やかだった。
九十九は隅の席に座って、運ばれてきた朝食に手をつけた。パンと温かいスープと、焼いた野菜が添えられていた。ルーヴェの食堂と似ているようで、少し違う味だった。
周囲ではクラスメイトたちが今日の予定を話し合っていた。グループができていて、誰がどのダンジョンへ行くとか、まず街を見て回るとか、声が飛び交っていた。
九十九は黙って食べた。
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食事を終えて、神殿へ向かった。
窓口には神官が一人座っていた。九十九が近づくと、にこやかに顔を上げた。
「討伐依頼をご希望ですか。現在のレベルに合わせたものをお選びいただけます」
依頼の一覧を見せられた。魔物の種類と場所、難易度が記されていた。
「討伐した魔物によってポイントが魔道デバイスに自動で記録されます。ルーヴェ村と同様に商店などでご利用いただけます」
九十九は一覧を眺めた。1つ選んで指差した。
「これにします」
「では依頼内容を魔道デバイスへ送ります」
デバイスに通知が届いた。九十九は窓口を離れた。
依頼を受けるのも、ポイントで管理するのも、ルーヴェと変わらない仕組みだった。場所が変わっただけで、やることは同じだという印象だった。
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依頼をこなしてから、商業区を歩いた。
武器屋を覗いた。品揃えはルーヴェより豊富だった。棚に並んだ剣や槍を眺めたが、九十九の装備に合うものはあまりなかった。防具屋も同じだった。ハーレム王向けの装備というものが、そもそも存在しないのかもしれなかった。結局支給された武器と装備が一番なのかもしれない。
食堂の前を通った。中から話し声と食べ物の匂いが漏れていた。賑やかだった。入り口で少し立ち止まって、中を覗いた。満席に近かった。
通り過ぎた。
商業区を一通り歩いて気づいたことがあった。図書館がなかった。ルーヴェには神殿の近くに図書館があったが、ここにはそれらしい建物が見当たらなかった。
特に困るわけではなかった。でも少し、残念だった。
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夕方、宿屋へ戻ろうとしたとき、入口付近に人影が見えた。
一ノ瀬と、その後ろに二階堂と三上がいた。三人で行動していた様子だった。二階堂と三上は少し離れた位置に立って、こちらに気づいた一ノ瀬を見ていた。
「こんにちは」
「……どうも」
一ノ瀬が少し間を置いた。
「図書館、ありませんね」
「……そうだね」
また少しの間があった。
「またね……」
「うん」
一ノ瀬が二階堂と三上の方へ戻った。三人で宿屋の中へ入っていった。
九十九はその後ろ姿を少しの間見てから、同じく中へ入った。
部屋に戻って、今日歩いた街の構造を頭の中で整理した。窓口の依頼システム、地図機能の範囲、商業区の配置。覚えておくべきことはいくつかあった。
デバイスを伏せた。
ここでも、何かがおかしいという感覚は変わらなかった。




