第02話 一ノ瀬楓(その1)
どうしてこんなことになったんだろうか。
今日もそんなことを考えながら、ダンジョンへ向かう。
異世界に召喚されて1か月。周りの学生たちはすっかりこの世界に馴染んでいた。レベルが上がった、新しいスキルを覚えた、もっと奥の階層へ行こう。そんな話を毎日のようにしている。
だけど私は違った。今でも怖い。魔物も、戦うことも、この世界そのものも。
そんな私に声を掛けてくれたのが、高校時代の委員長だった。
「一ノ瀬さん、一人なら一緒に戦わない?」
驚いて、すぐに返事ができなかった。
委員長――二階堂さんはクラスでも人気者だった。真面目で面倒見が良く、男女問わず信頼されている。今も自然とみんなの中心にいる。
そしてもう一人、二階堂さんの隣を歩く三上さん。二人は幼馴染らしい。三上さんは見た目がギャルだが人見知りが強く、元の世界でもあまり人と話している印象がなかった。この世界に来てからはその傾向がさらに強くなり、ほとんど二階堂さんとしか話していない。
それでも、私と一緒に行動することには反対しなかった。むしろ。
「一人は……寂しいから」
小さな声でそう言ってくれた。
だから今、私たちは三人で行動している。
ダンジョンの薄暗い通路を進む。石壁から滴る水音が、やけに大きく響いていた。
その時だった。
曲がり角の向こうから、犬のような魔物が飛び出してくる。
「来た!」
二階堂さんの声に、反射的に武器を構える。
人を襲う牙。赤い目。低い唸り声。それらが目の前に現れるたび、足の裏が床に張り付いたように動かなくなる。それでも歯を食いしばって一歩踏み出した。
魔物が飛びかかってくる。
目を閉じかけた瞬間、手だけが動いた。
鈍い衝撃が腕に走る。魔物の身体がよろめく。その瞬間を逃さず、二階堂さんが剣を振り下ろした。続いて三上さんの魔法が放たれ、魔物は光となって消えた。
武器を握ったまま、息を整える。
「大丈夫?」
二階堂さんが覗き込んでくる。
「う、うん……」
口角を上げようとしたが、うまくいった気がしなかった。二人に心配を掛けたくなくて、視線だけを前へ向ける。
魔物が消えた場所には、何も残っていなかった。
私は唇を結んだまま、その場所をしばらく見つめていた。




