第01話 九十九零司
この世界に来て、もう1か月くらい経っただろうか。
最初は毎日が恐怖だった。突然見知らぬ世界に放り込まれ、魔物と戦えと言われたのだから当然だ。だが人間というのは慣れる生き物らしい。今では俺も当たり前のように一人でダンジョンへ潜り、魔物を倒している。
今日も半日ほどダンジョンに籠もり、日が傾き始めた頃に村へ戻ってきた。
石造りの門をくぐると、あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
「やったー! レベル上がった!」
「俺もあと少しだ!」
「新しいスキル覚えたぞ、次はどれにしようかな」
召喚された当初は不安と恐怖でいっぱいだった学生たちも、今ではすっかりこの世界に馴染んでいた。それは良いことのはずだ。
だが、どうにも引っかかる。
個別の住居が与えられ、食事も支給される。武器や装備まで用意されていた。居住区のそばには商店街や歓楽街まで存在し、魔物討伐で得た報酬を使って自由に利用できる。毎晩酒場へ通い、飲み歩く学生たちまでいる。
異世界に召喚されたはずなのに、まるで誰かが用意したステージの上にいるような感覚だった。
「……考えすぎかな」
誰に言うでもなく呟いて、与えられた住居へ向かう。
後ろから騒がしい声が聞こえた。振り返ると、数人の学生が固まって盛り上がっている。
「やっとレベル5になった!」
「新スキル覚えたぜ!」
「マジかよ、強そうじゃん!」
みんな楽しそうだった。この世界を冒険の舞台として受け入れているように見える。
俺は視線を前に戻し、自分のステータスを頭の中で思い浮かべた。
九十九 零司
レベル:9
職業:ハーレム王
「……ふざけるなよ」
ため息が漏れる。
成長は他の学生より明らかに速い。だがスキルポイントは一向に増えない。アクティブスキル欄は空欄のまま。パッシブスキルには最初から『高速成長』とだけ表示されている。
そして職業特性欄には――
『女性と関係を持つことでスキルポイントを獲得する』
高速成長はまだ分かる。
だが"女性と関係を持つ"とは何だ。女子と二人で話すだけで頭が真っ白になる俺に、どうしろというのか。
周りは新しいスキルを覚えてどんどん強くなっていく。レベルだけが上がり続ける俺は、数字だけ見れば誰より先を行っているはずだった。
それなのに。
住居の扉を開けながら、俺は小さく息を吐いた。




