第23話 なにこれ
ある日の夕方、魔道デバイスにメッセージが届いた。
「スキル、増えましたか」
一ノ瀬からだった。九十九は少し間を置いてから返信した。
「おかげで基本スキルと職業固有スキルがいくつか取れた。もう大丈夫だよ」
既読がついて、すぐに返信が来た。
「そんなことないですよ。この間みたいなこともあったし、スキルはちゃんと取らないとだめです。これからのこと考えたらスキルポイントはいくつあっても困らないから」
九十九はデバイスを握ったまま、少し天井を見た。
期待している自分がいた。それが嫌だった。でも返信を打った。
「……そうだね」
少し間があって、短いメッセージが来た。
「今日、行きます」
⸻
夜、ノックの音がした。
扉を開けると、一ノ瀬が外套を羽織って立っていた。フードを目深に被っていて、顔が半分隠れていた。部屋に入ってから外套を脱いだ。
下は普段着だった。この世界の普通の服だった。薄い色の麻のシャツに、シンプルなズボン。洗いざらしで、特別なところは何もない。
でも九十九は一瞬、目を逸らした。
シャツのラインが、思ったより目に入った。一ノ瀬は外套を畳みながら九十九の方を見ていなかった。九十九は壁の方を向いた。
⸻
関係が終わって、しばらく二人とも黙っていた。
いつもと、何かが違った。うまく言葉にできないけれど、深いところでつながったような感覚が、胸の奥にあった。
視界の端に、文字が浮かんだ。
一ノ瀬が先に口を開いた。
「……なにこれ」
九十九も同じ表示を見ていた。ステータスを開いた。ハーレムメンバーの欄に、一ノ瀬の名前があった。その横に能力上昇の数値が表示されていた。
一ノ瀬もステータスを見ていた。しばらく画面を眺めてから、九十九を見た。
「ごめん」
九十九は先に言った。
「ハーレムメンバーっていうスキルで、条件は分からないけどメンバーに加わるとお互いの能力が上がるみたい。無条件に人数増やせばいいわけじゃないみたいだけど……不本意かもだけど能力上がるから、恩返しになるかなと思って」
一ノ瀬はステータスの画面をもう一度見た。それから顔を上げた。
「そうだね。九十九くんも能力上がるからよかったね」
責めるような色は、どこにもなかった。九十九は何も言えなかった。
⸻
一ノ瀬が外套を羽織りながら言った。
「そういえばあれからレベル譲渡、発動してないですね。条件って何なんでしょう」
「……分からない」
一ノ瀬はフードを被りながら、少し首を傾けた。
「まあいいか。おやすみなさい」
扉が閉まった。足音が遠ざかった。
九十九はステータスの画面をもう一度開いた。ハーレムメンバーの欄に、一ノ瀬楓の名前があった。
ステータスから意識を切った。




