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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第1章:「灯火の村と、始まりの嘘」
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第17話 籠の鳥

「今日、村に行ってみない?」

 澪さんが言い出したのは朝食の後だった。

「村?」

「冒険者エリアじゃなくて、村民が住んでいる方」

 瑠奈さんが少し考えてから頷いた。「行ったことないね」

 私も頷いた。召喚されてから何ヶ月。ダンジョンと居住区の往復ばかりで、村民エリアへ足を踏み入れたことは一度もなかった。

 

 ⸻

 

 冒険者エリアと村民エリアの境界に、小さなゲートがあった。

 球状の石が柱の上に乗っている。魔導デバイスをタッチすると、淡い光が走って通れるようになる仕組みらしい。

「なんか改札みたい」

 瑠奈さんが呟いた。

「駅みたいだよね」と澪さん。

 順番にタッチして通り抜ける。

 ゲートをくぐった瞬間、空気が変わった気がした。

 広がっていたのは、のどかな農村風景だった。畑。牧草地。遠くに家畜の声が聞こえる。石畳の道が緩やかに続いていた。

 しばらく歩いていると、荷馬車に乗った行商人らしき人とすれ違った。荷台には見慣れない荷物が積まれている。村の外から来たのだろう。

「こんにちは」澪さんがしっかり頭を下げる。

 私は少し緊張しながら小さく会釈した。

 瑠奈さんは行商人と目が合って「……こんにちは」と小さく呟いた。

 行商人は笑顔で会釈して通り過ぎていった。

 荷馬車が遠ざかるのを見送りながら、ふと思った。

 外からは来られるのに、私たちは出られない。

 

 ⸻

 

 村の外れまで歩いていくと、墓地が見えた。

 石造りの小さな墓が並んでいる。手入れはされているようだった。三人とも無言で通り過ぎた。

 さらに進むと、壁が見えてきた。

 村の雰囲気に似合わない、頑丈そうな壁だった。高さもある。農村にこんな壁が必要だろうかと思いながら、壁沿いに歩く。

 しばらく歩くと門があった。

 衛兵が二人立っていた。

「冒険者様」

 一人が前に出る。

「申し訳ありませんが、この先へは出られません。外は魔物が出ますので危険です」

 澪さんが頷いた。「分かりました」

 三人で顔を見合わせて、来た道を戻った。

「壁、すごかったね」

 瑠奈さんが振り返りながら言う。

「農村にしては立派すぎる気がした」と澪さん。

 私も同じことを思っていた。でも同時に別のことも考えていた。

(外は、もっと怖いのかな)

 ダンジョンの魔物でさえ怖い。壁の外にはそれより強い何かがいるのかもしれない。そう思うと、衛兵に止められたことへの不満よりも、なんとなく安堵する気持ちの方が大きかった。

 

 ⸻

 

 村の中心部に戻って商店を覗いた。

 食料品。日用品。農具。冒険者エリアの商店とは品揃えが全然違う。瑠奈さんが干し果物を1つ買って、かじりながら歩いた。

 お腹が空いてきた頃、食堂を見つけた。

 素朴な内装だった。木のテーブルと椅子。窓から畑が見える。注文したのはシンプルなスープと黒パンだったが、温かくて美味しかった。

「なんかほっとする味」

 瑠奈さんが珍しくゆっくり食べていた。

「居住区の食事も悪くないけど、こっちの方が落ち着くね」と澪さん。

 私も頷きながらスープを飲んだ。

 店を出ようとした時だった。

「あの」

 声をかけられた。

 振り返ると、小さな女の子が立っていた。村娘だろう。年は十歳くらいだろうか。両手で何かを差し出している。

 花だった。

 紫色の、小さな花が三本。

「冒険者さんに、あげます」

 まっすぐな目で言った。

 澪さんが膝を折って目線を合わせる。「ありがとう、大切にするね」

 瑠奈さんも受け取って「ありがとう」と短く言った。

 私も一本受け取った。「ありがとうございます」

 女の子は嬉しそうに笑って、駆けていった。

 花を手のひらに乗せて見つめる。紫色の可憐な花だった。夕方になるとひっそりと開くのか、今はまだ蕾のように閉じていた。

 

 ⸻

 

 後日。

 図書館で本を読んでいて、ふとあの花のことを思い出した。

 なんという花だろう。

 気になって植物図鑑を手に取る。ページをめくりながら、似た花を探す。

 見つけた。

 手が止まった。

 この世界の言葉で『籠の鳥』という名前の花だった。

 花言葉の欄に目が滑る。

『二度と帰れぬ旅人』

 背筋に冷たいものが走った。

 ページをしばらく見つめた。あの女の子は知っていたのだろうか。それとも知らずに渡したのだろうか。

 きっと知らない。

 子供だった。純粋に冒険者に憧れて、綺麗な花を渡しただけだ。

「……考えすぎかな」

 小さく呟いて、図鑑を閉じた。

 でも手が、少しだけ震えていた。

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