第15話 噂
居住区を歩いていると、学生たちが固まってひそひそ話しているのが目に入った。
珍しい光景だった。
「……引きこもりになった子がいるらしいよ」
「マジで?」
「部屋から出てこないから兵士が連れて行くのを見た人がいるって」
二階堂澪は足を止めた。
「ダンジョンに兵士と一緒に入るのを見たって子もいるみたい」
「それって強制ってこと?」
「分からない。でもその後姿見てないって言ってた」
嫌な予感がした。
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話を聞いた学生の一人に、その子と仲が良かった学生を紹介してもらった。
「最近見かけない子がいるんだけど、知ってる? 同じグループにいたって聞いて」
相手は首を傾げた。
「誰のこと?」
「同じグループで行動してた……」
「そんな子いたっけ?」
おかしい。
「一緒にダンジョンへ潜ってたって聞いたんだけど」
「記憶にないな」
問い詰めても答えは変わらなかった。嘘をついている様子はない。本当に分からないという顔だった。
「魔導デバイス、見せてもらえる?」
怪訝な顔をされながらも見せてもらった。
連絡先の一覧を確認する。
ない。
仲が良かったはずの子の名前がどこにも存在しなかった。
「……ありがとう」
それだけ言って引き下がった。頭の中で何かが引っかかったまま、居住区へ戻った。
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数日後。
あの話をしていたことが、ひどく曖昧になっていた。
何かを心配していた気がする。誰かのことを。でも誰なのか思い出せない。何について話していたのかも思い出せない。
気持ち悪い感覚だけが残っていた。
楓に聞いてみた。
「最近、何か気になることなかった? 私が誰かのことを心配してたって覚えてない?」
楓は少し考えてから首を振った。
「……何かあったっけ?」
瑠奈も同じだった。
三人とも忘れていた。
何か大きなことがあった気がするのに、それが何だったのか誰も覚えていない。
その日は結局、答えが出ないまま解散した。
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それから少し経った頃だった。
「ねえ、こんな噂知ってる?」
瑠奈が近づいてきた。珍しく声が低かった。
「レベルを上げないと、兵士に連れて行かれるらしい」
楓が顔を上げる。
「そんなこと……」
「あるわけないよね」と言いかけて、止まった。
兵士に連れて行かれるのを見た。
ダンジョンに一緒に入るのを見た。
その後姿を見ていない。
断片的な記憶が浮かんだ。何の記憶なのか分からない。でも確かに何かを知っていた気がする。
「……どうする?」
楓が静かに聞いた。
誰も答えなかった。
三人とも、無言でダンジョンへ向かった。
杖を握り直す。噂が本当かどうかは分からない。でも心の奥の苦い感覚は、ダンジョンの入口をくぐっても消えなかった。




