第13話 私たち、何かおかしい
二階堂澪には、聞くつもりはなかった。
居住区へ戻る途中、歓楽街の近くを通りかかった時だった。男子学生たちの声が聞こえてきた。
「あの店さ、召喚者とはしなくていいって言われてさ」
「え、マジで?」
「得じゃん」
得意げな笑い声が続く。
思わず眉をひそめた。立ち止まるつもりはなかったのに、足が止まっていた。
避妊が必要ない。
その言葉だけが頭に残った。
危険じゃないのか。そもそもなぜそんなことが分かるのか。召喚されてまだ1か月程度のはずなのに、なぜ断言できるのか。
早足でその場を離れた。
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部屋に戻ってからも、頭から離れなかった。
ベッドに腰を下ろして考えているうちに、ふと気づいた。
そういえば。
召喚されてから、月のものが来ていない。
最初は環境が変わったせいだと思っていた。異世界に来たのだから、身体に影響が出ても不思議じゃない。でも1か月経っても来ない。
それだけじゃない。
髪が伸びていない気がする。
召喚された時と同じ長さのままだ。爪も同じだった。切れば短くなるが、気づけばまた元の長さに戻っている。
おかしい。
髪や爪が伸びるのは細胞が増殖するからだ。切れば戻るということは、増殖していないのではなく……再生している?
いや、待って。
怪我をすれば治る。それは確認している。でもそれは治癒であって再生とは違う。髪や爪が元の長さに戻るのは治癒なのか、それとも別の現象なのか。
新陳代謝が止まっているとしたら、月のものが来ないことも説明がつく。でも怪我が治るなら細胞は機能しているはずで……。
頭が痛くなってきた。
理屈は分かるのに、答えが出ない。
一人で抱え込むのはやめようと思った。
魔導デバイスを手に取る。
『ちょっと聞いていい? 部屋に来られる?』
楓へメッセージを送った。
⸻
「月のもの、来てる?」
部屋に来た楓に、単刀直入に聞いた。
楓が目を丸くする。
「……来てない」
「やっぱり」
「澪さんも?」
頷く。瑠奈にも連絡して、三人が揃った。
「髪、伸びてる?」
瑠奈が自分の金髪を引っ張りながら首を傾げる。
「伸びてない……気がする」
「爪は?」
三人で手を見合わせる。
「召喚された時と同じくらいだよね」
「切っても戻ってる」
部屋の空気が少しずつ重くなっていった。
「私たち……何かおかしくない?」
楓が静かに言った。
誰も否定しなかった。
「子供も……作れないってことになるよね」
瑠奈が珍しく真剣な顔で呟く。
また沈黙。
「王国に聞いてみる?」
言いかけて、止まった。聞いて答えてもらえるか分からない。そもそも答えを知っているのかも分からない。
「……今日のところは」
楓が静かに立ち上がった。
「また三人で話しましょう」
瑠奈も頷いて、二人は部屋を出た。
一人になった部屋で、窓の外を見る。
夜の空に星が出ていた。
「私たちって、何なんだろう」
誰もいない部屋に、言葉だけが落ちた。




