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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第1章:「灯火の村と、始まりの嘘」
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第12話 小さな勇気

 ダンジョンから出た瞬間、見慣れた人影が目に入った。

 九十九くんだった。

 いつもと何かが違った。うまく言葉にできないけれど、歩き方が少しだけおかしい。右腕をわずかにかばうような、気づかなければ分からない程度の違和感だった。

「楓、どうしたの?」

 澪さんが振り返る。

「……ううん、なんでもない」

「先に戻ってて。少しだけ」

 澪さんと瑠奈さんが顔を見合わせたが、特に何も言わずに歩いていった。

 九十九くんはもうダンジョンの入口へ向かっていた。

 声をかけるべきか迷った。今まで自分から話しかけたことはほとんどない。図書館での一件も、結局まともに会話できなかった。

 それでも。

 足が動いていた。

「九十九くん」

 振り返った顔に、驚きの色があった。

「……一ノ瀬さん」

「怪我、してますよね」

 少し間があった。

「問題ない」

「でも」

「慣れてる」

 それだけ言って、九十九くんは出口へ向かった。引き止める言葉が出てこないまま、背中を見送った。

 

 ⸻

 

 居住区への帰り道を一人で歩く。

 夕暮れの石畳が赤く染まっていた。

 慣れてる、か。

 あの言葉が頭から離れなかった。一人でダンジョンへ潜って、一人で怪我をして、それでも問題ないと言って帰っていく。スキルがないから無理をしているんじゃないか。だから怪我をするんじゃないか。

 そこまで考えて、ふと別のことが頭をよぎった。

 職業特性の文字。

『女性と関係を持つことでスキルポイントを獲得する』

 慌てて打ち消した。

 そういうことじゃない。そんな簡単に考えていいことじゃない。そもそも私には関係のないことだ。

 でも。

 打ち消しても打ち消しても、また浮かんでくる。

 この世界では人が死ぬ。ダンジョンで、魔物に、あっけなく。それは知っている。怪我をするたびに思い知らされる。スキルがなければ戦えない。戦えなければ。

 考えるのをやめた。

 石畳を踏む足音だけが響いた。

 

 ⸻

 

 部屋に戻って、鞄を置いた。

 ベッドに腰を下ろして、ぼんやりと壁を見つめる。頭の中がうまく整理できなかった。

 ふと、高校の図書委員の時のことを思い出した。

 重い本を一人で運ぼうとしていた。何冊も抱えて、それでも一人でやろうとしていた。気づいたら隣に誰かがいた。

 九十九くんだった。

 何も言わなかった。ただ半分を持って、一緒に棚まで歩いて、本を収めて、それだけだった。礼を言う前にもう次の作業へ向かっていた。

 大したことじゃない。

 本当に、大したことじゃないはずだった。

 それなのに、ずっと覚えていた。今もこうして思い出している。

 眼鏡の位置を直して、天井を見上げた。

 答えは出なかった。

 でも考えることをやめられなかった。

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