第11話 使わない方が美味しい
二階堂澪には料理の才能がない。
「作ってみようかな」
部屋に戻ってからずっとそのことが頭にあった。
キッチンがある。
住居に割り当てられた時から分かっていた。小さいけれど、調理台も火を起こす魔道具も一通り揃っている。食事は毎日支給されるから使う必要はない。それでも。
料理補助の生活魔法を使えばまともなものが作れると聞いていた。問題は今まで生活魔法なしで作ろうとして、一度もまともなものができたことがないということだ。
でも今日は違う。
料理補助の生活魔法がある。
材料は食堂で分けてもらった。野菜と肉と、あとは調味料をいくつか。難しいものは作らない。シンプルな炒め物でいい。
魔道具に火を入れて、生活魔法を発動する。
不思議な感覚だった。次に何をすればいいか、自然と分かる。どのくらいの火加減で、どのタイミングで混ぜればいいか。手が迷わない。
気づけば、それらしいものが完成していた。
「……できた」
皿に盛り付けて、眺める。
ちゃんとした料理に見えた。今まで作ったものとは明らかに違う。思わず口元が緩んだ。
一人で食べるのはもったいない気がして、魔導デバイスでメッセージを送った。
『よかったら部屋に来ない? 料理作ったから』
すぐに既読がついた。
⸻
楓と瑠奈が部屋へやってきた。
「わあ、ちゃんとした料理だ」
楓が目を丸くする。
「澪ちゃんが作ったの?」
瑠奈が皿を覗き込む。その目が一瞬だけ止まった気がしたが、気のせいだろう。
「料理補助の生活魔法使ったら上手くできて」
「そうなんですね」
楓が席につく。瑠奈もおとなしく座った。
「食べてみて」
二人が箸を手に取る。
一口。
沈黙。
楓の表情が、笑顔のまま微妙に固まった。瑠奈は咀嚼しながらゆっくりと箸を置いた。
「……どう?」
「美味しいです」
楓が答えた。声が少し高かった。
瑠奈は無言で湯呑みに手を伸ばした。
「二人は料理補助の生活魔法使って自分で作ったりしないの?」
何気なく聞いた。
「使ってないですね」と楓。
「うん、使ってない」と瑠奈。
「なんで? 便利なのに」
二人が顔を見合わせた。
少し間があった。
「だって……」
楓が慎重に口を開く。
「使わない方が美味しいから」
静寂。
私は皿と楓と瑠奈を順番に見た。
「……つまり」
「あ、でも! 生活魔法を使えばこんなにちゃんとできるって分かったんだから、それはすごいことだと思います!」
楓が慌てて付け足す。瑠奈は目を逸らしながら、箸で料理をそっと端に寄せていた。
しばらく考えた。
「次は生活魔法なしで作る」
「え?」
「練習すればできるようになるでしょ」
楓が曖昧に頷いた。瑠奈は返事をしながら、さりげなく残りの量を確認していた。




