従兄襲来05
あの後、先生、アンリ、アーノルドが見守る中、スティーブと踊る事に。
ルーイも来てたのか、目付きが悪くなっている。
ちょっと、私は悪くないんだからね、悪いのはスティーブだからね。
睨むならスティーブだけにしておいてよ。
「アリスお嬢様、少し宜しいですか?」
ルーイが笑顔で私を呼ぶ。
目が笑ってないのは、敢えて見なかった事にしよう。
「お前な、スティーブが嫌いだってのは知ってたけど。ダンスは踊れたのか」
「違うわよ。先生とスティーブに推しきられただけ。…そうじゃなかったら、誰が好き好んでスティーブと踊るのよ」
「…だよな」
こそこそと話す私たちに、スティーブが声を掛けてきた。
「二人はなにをしている?ナイショ話をしていないで、俺も交ぜてほしいな」
交ぜられるか。
あんたが交ざればカオスだわ。
まさか、それをわかっての事なの?
「スティーブ様、書斎には向かわれないのですか?旦那様の許可は頂いておりますが」
「あぁ、そうだったね、アーノルド。アリスとのダンスが楽しかったから、つい忘れていたよ。では、アリス。昼食時にまた会おうね」
アーノルドの案内の元、スティーブは漸く書斎に向かった。
先生は残念そうな顔でスティーブを見送ったけど、私は内心大喜び!
ではあるけれど、お昼にまた会わなければならないと思うと、憂鬱。
「アリス様、本日のダンスのレッスンは終了致しますが、なにかございましたら、ご連絡下さいませ」
「ありがとう、先生。そう言えば、兄様の講師もしていたみたいだけど、短期間だったって本当?」
先生は当時を思い出すと、少し悲しそうな顔をする。
…なにかあったのかしら?
「アリス様はお小さいですから、覚えてはおられないかもしれませんね。二年程前まで、私は妻とスティーブ様のお屋敷に通っていたのです。…妻は流行り病にかかり、その年の内に亡くなりました。アリス様も妻とは何度か会っているのですが…」
「…覚えてるわ。とても上品な女性だったから。従兄やお兄様たちへの指導は厳しかったけど、終われば私を構ってくれてたから」
…そうだったんだ。
あの綺麗な人は、亡くなってしまっていたの。
子供の私には教えないように、隠していたのね。
天国へ旅立った、と言わない所が先生がまだ奥さんの事を好きだけど、現実であるのをわからせる為に言っているように聞こえる。
受け止めてはいるけど、心の奥底ではまだ、奥さんを愛しているからこそ受け止めきれないのね。