正式な婚約07
もうやだ…。
あれから大変だったんだから。
一人部屋で寛いで居たら、夜這いに来たであろう二人が喧嘩を始めた。
止めてくれたのは、フリードリッヒとアインハルトだったと聞いたけど。
「アリス様、災難でしたね」
「災難所か、止めに入ったフリードリッヒに睨まれたわ。私のせいではないのに。八つ当たりも良い所だわ」
朝早くから迎えに来てくれたルーイとシャノン。
二人にお礼を言いながら、シャノンにエスコートされて馬車に乗る。
馭者は今回ルーイがしてくれてるのね。
走り出した馬車で一息すると、シャノンが話掛けてきた。
私の言葉を聞いたシャノンは苦笑を浮かべ、私は何度目かわからないため息を吐く。
国王様にご挨拶だけし、お城は早いうちに出て来たから、まぁ…クラウス様は拗ねるかしら?
あぁ、出て来る前にクリス様にお会いしてこれば良かったな…。
でも、時間が早かったし、なにより迎えが来てたもの。
我慢しなくちゃよね、うん。
馬車の中からボーッと外を眺めると、リリアに良く似たメイドを見掛けた。
…あれが、リリアの母親なんだろう。
リリアに似ているのは髪の色くらいか…。
セミロング丈の薄いピンク色の髪に、蜂蜜色の瞳。
…気掛かりなのは、その瞳に光が映っていない事。
「シャノン、彼女をどう思う?」
「フィーリア家の養子令嬢の母親だね。…瞳に光がない、って事は…なにか抱えてるんじゃない?」
「抱えてる、のかしら。…もっとなにか、違うモノがあるような…」
私にはわからないけど、きっとなにか…。
ルーイに止めるよう伝え、シャノンに止められるのも聞かずに馬車を降りた。
「アリス!!」
ルーイの声も聞こえたけど、今は知らんぷり。
メイドさんの所に早足で向かう。
「メイドさん、どうしてそんな暗い顔をしているの?」
私の言葉に驚いて顔を上げたら、もう一度驚かれてしまった。
「貴女様は…」
「私の事は良いの。メイドさん貴女、娘が居る?」
娘。 その言葉にメイドさんは顔を歪め始めた。
なに、この人は娘にどんな感情を抱いてるの?
「娘、ですか。…あの子はそんな生易しい者じゃありません。あの子は、壊すんです。なにもかも、自分の思い通りにならないものは全部。…貴族のお嬢様、貴女も私に似た子供を見たら、関わるのだけは止めて下さい。でないと、お嬢様まで幸せになれませんから」
彼女はそう言って、急いで行ってしまった。
…彼女の言った事が本当なら、もう遅いわ。
知り合ってしまったもの、リリアと。




