正式な婚約04
ひそひそと話す声が、彼方此方で聞こえてくる。
伯爵家や侯爵家の子供たちね、噂をしているのは。
…低い爵位の者が、私に声を掛ける事は出来ないから。
私は公爵家の娘だから。
それに、挨拶回りを済ませたであろうクラウス様が私に付いていらっしゃるから。
下手に仕出かすような馬鹿は居ない。
「よう、アリス!」
後ろから声を掛けてきたのは、スティーブだった。
彼も侯爵家だから、参加していたのね。
「あら、スティーブ兄様。どうかなさったのですか?」
ニヤッと意地の悪そうな顔で私を見るなり、頭を撫でに来た。
「いや?アリスが遅刻してきた事が珍しかったのと、例の噂を聞いたからね。…クラウス様が側に居て下さっているなら、余程の馬鹿以外はなにも言っては来ないでしょう。そう、余程の馬鹿以外は」
二度目は強調したわね、スティーブ。
…目を合わせようとしないと言う事は、大丈夫かな。
まぁ元々、参加したくなかったけど参加せざるを得ない状態だったからね。
クラウス様の婚約者として、参加しなくてはならないものだったから。
しかも、本来ならこのお茶会でクラウス様は婚約者を選ぶらしかったけど、私とお見合いした事で決まってしまったから、ただのお茶会になったとアインハルトから会場に着く前に聞いた。
国王様がそう望んだからだとアインハルトは言っていたけど、貴族たちを納得させるべく、お茶会を開く事にしたらしい。
王族も大変なのねと、同情したけど。
…おやまぁ、向こう側で私を睨んでいる令嬢を見付けた。
親の爵位は知らないけれど、私に向かって睨むなんて。
「目付きの悪い令嬢も居たものだね。俺の可愛い従妹を睨むなんて…」
そう言ったスティーブの顔は笑っていたけど、目が笑っていない。
…ねぇ、その顔怖いんだけど。
ある人を思い出すから嫌なんだけど。
そのおかげで、令嬢たちはそそくさと逃げていったけど。
「ふふふっ。スティーブ、君とは仲良くやれそうだ」
「光栄です、クラウス様。ですが、手加減はしませんよ?」
「僕もそのつもりだよ。なに分、鈍感だからね」
…私を置いて、なんの話をしているんだろう。
会話に交ざれないではないか。
鈍感って、誰の事を指してるのかしら?
「クラウス様、そろそろお時間です」
クラウス様を呼びに来たのは、何故かアインハルトで。
フリードリッヒはどうしたのかと尋ねると、他の見習い執事を仕切っているらしい。
彼も大変なのね…。




