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45:計画のない夢を妄想という






 「まもなくファウスト王子殿下が参ります。こちらのお部屋でお待ちください」


 翌日の夕方。

 オレは約束通り、ファウスト王子を訪ねて城へと来ていた。

 改めて、救出のお礼をしてくれるのだという。

 ただしオレの要望を尊重して、公ではなく、関係者だけの身内での会合となっていた。


 <なぁ?ほんまにするんか?いくらボスの命令でも一国の王子殺害やで。流石にハードルが高すぎるんじゃ・・・>


 わーてるよ。

 今日は下見。

 別に今日中のミッションって訳でもねぇーだろ?

 城の様子やターゲットの第二王子[クリムト]を見て考えるよ。

 ただし、怖じ気ずく気はない。

 サポ助、オマエ気付いていたか?

 イシュタルの手、震えていたぜ。


 初ミッション。

 フザケながらも、発令時にはピリッとして受け止めていた。


 イシュタル自身も、オレを初の手駒というくらいだから、こういった指令は初めてのことだろう。

 ましてその内容が王子殺害とあっては、イシュタルの性格を考えるに、平気そうに見せて、かなりの葛藤があったのだとすぐに想像が出来た。


 <気付いてなかったわ・・・ぺーはん、アンタ、いつも抜けてるけど、そんなとこには気付けるんやな>


 「・・・昨日作った[インスピレーション]の影響だろ?んぅなことより、城内把握、しっかり頼むぜ」


 オレは部屋のバルコニーへと出て、タバコに火をつける。


 <ん、そういうことにしとくわ>


 タバコを吹かしながら、アシノミヤ王城より王都の景色を見下ろして堪能する。

 

 不思議なもんだ・・・

 二ヶ月前には、汚ったねぇ雑居ビルの屋上でタバコ吸ってたってのに、今は城から王都を見下ろしてるんだぜ?

 分かんねぇもんだ・・・


 感傷にひたっていると、背後に人の気配を感じる。


 「あ、そのままで大丈夫です。良い景色でしょ。私もここからの眺めは気に入っているんです」


 ファウスト王子だった。

 オレは言葉に甘えて、そのままタバコを吸いながら景色を楽しむ。

 横へと並ぶファウスト王子。


 「改めてですが、ジュンペイ殿にはお世話になりました。そのぅ、オデットも紹介してもらって・・・ターラゾカの件も聞きました。併せてお礼を言わせてください」


 照れながらも真面目にお礼をいうファウスト王子。

 ふと振り向くと、入り口付近に居たオデットも深々と礼をしている。


 「ふぅー、、、エロい店に行って巻き込まれただけだよ。だから、あんまそんなふうに礼は言わないで。恥ずかしいから・・・」


 「フハハハ、貴方らしい。分かりました、オデットを大切にすることで報いると誓いましょう。それで、この後なのですが、謁見の間にて国王がお待ちです。勿論、ジュンペイ殿のご希望通り、公式な記録に残すものではありません。昨晩父上も派手な形式は避けて、親として内々に礼をしたいと仰っていたのですが、レイダー侯爵などの重鎮が最低限の形式には折れてくれなくて、、、申し訳ないのですが、お付き合いくださいますか?」


 「へーへー、承知いたしましたよ」


 あまり我が儘ばっかも言ってられない。

 それに謁見の形の方が、第二王子[クリムト]を観察出来るってもんだ。



 ファウストやオデットと共に王城の廊下を歩く。

 そして開かれた謁見の間に、オレとファウスト王子は足を踏み入れた。



 広く眩しい空間。

 ベタな赤絨毯に想像通りの配置。

 正面に王様、

 その左右には王妃や王太子。

 宰相にアズベルや他の騎士団団長。

 そして、レイダー侯爵やロンドワール大臣をはじめとする重鎮の貴族たち。

 

 そんな中に、そいつはいた・・


 ゾクッ、、、


 悪寒が走る。

 赤絨毯をゆっくりと歩きながら、目があった彼と目が離せない。

 距離にして20m。

 オレはいつの間にか歩みを止め、赤絨毯の上で立ち止まり、第二王子[クリムト]とにらみ合うように向かい合っていた。


 <魔族やっ!種族、魔族ってなっとるっ!偽者や!入れ替わってるで>


 無表情でこちらを見つめるクリムト王子。

 フリーズしてしまったオレに、ファウスト王子や周辺の臣下より声を掛けられるが、耳に入ってこない。


 数秒間、見つめ合ったオレたちだったが、視線を外し、口角をニヤリと上げたクリムト王子のその姿に、自分の軽率な行動を後悔する。


 <バレたね。あれは完全に正体がバレたと確信させてしもたわ>


 その通りだ。

 100%警戒させてしまった。


 「、、、ジュンペイさん、どうしたんですか?」


 肩をポンッと叩かれ、ファウスト王子の声が聞こえてきた。



 「ぁ、ああ。、、、済まない、ファウスト王子・・・・・けどホント、マジでゴメン(ボソッ)」



 サポ助合体、ニュータイプスキルを一瞬で全力起動する。


 同時に[テンカウント]で具現化した手榴弾を、謁見の間側面の壁に向かって[ブラスト]で高速射出。

 さらに、巴百式の[龍気]を爆発的に噴出させた目眩ましと同時に、[グライドシステム]と[ミラージュ]を瞬間全力起動することで、認識の外れた高速移動により二階ステンドグラス付近まで飛び移ることが出来た。


===ボガァッンッッッ!!===

 手榴弾が爆発して、謁見の間、側面の壁に穴があく。


 [アクセレーター]全開の緩やかな時間。

 一瞬、全体の様子を俯瞰で確認するが、ほぼ全員爆発した側面の壁に注目していて、2階へと飛び移ったオレには気付いていない。

 アズベルと他のキングスナイトと思われる騎士団団長レベルたちは、流石というべきか、爆発によりオレを見失うも、この一瞬で最大警戒をしながら玉座を固めるように陣形を組んでいる。


 そして、ターゲットであるクリムト第二王子は、、、


 こちらを向いていた。


 首だけがグルンッとねじれて、こちらを見上げている。


===パァスッ!===


 ゾクリッ、と悪寒が走ると同時にデザートイーグルで[サイレンサー]射撃する。


 見事、顔の半分を吹き飛ばす。

 だが[インスピレーション]が働いているのか、全く悪寒は収まらない。


===パァスッ!パァスッ!パァスッ!===


 続けて連射する。

 全弾命中。

 二階よりの撃ち下ろしにより、王子の残骸は床へと飛び散っている。


 そこへ、


===グサッ===


 「くっ、」


 左腕に光の矢が突き刺さる。


 視線を玉座へと向けると、キングスナイトの一人が弓を構えてこちらを睨みつけている。


 痛ってぇぇぇ!!

 そして、怖ぇぇぇ

 巴百式、貫通してるよぉ。

 サポ助の最大警戒をすり抜けるなんて、どんだけだよ!


 ふと、アズベルと目があった。

 王を背に護りながらも困惑した様子でこちらを見上げている。


 「アズベルゥ!信じろとは言わない。ただ、そいつは王子じゃねぇ!!魔族だっ!!多分まだ死んでねぇから、とどめはオマエ達に任せるぞっ!」


 オレは叫びつつ、ステンドグラスを撃ち抜きながら飛び込んで王城より脱出する。


===バリィィンッッ===


 夕暮れだった。

 赤く染まった王都上空へと、グライドシステムを起動させて、緩やかな滑空で脱出する。

 光の矢がホーミングで背後より迫るが、硬化させた巴百式で防ぐことは出来た。




===ズゥガァァァッッッンッ!!!===


 王城の上部が爆発したように破裂する。

 そしてその煙の中には、巨大な怪獣のようなシルエットが蠢いている。



 ジュボッ


 王都の中でも一際高い教会の屋根へと降り立ち、矢で貫かれた左腕を庇いながらタバコに火を付ける。


 「ふぅー、、、痛てててて、えらいことになっちまった」


 まるで怪獣映画だ。

 城より顔を突き出した怪獣が暴れている。




 「もう少しスマートに事は進められなかったの?」


 すぐ近くよりイシュタルの声がする。

 振り返ってみるが、その姿はない。


 「ふぅー、、、サァーセン。こんなつもりじゃなかったんだけど、あの異様さに思わずって感じかな・・・けど、こうなったらもうアズベル達がなんとかしてくれるさ、大丈夫、信頼しているし」


 キリッ、と友情を疑わない主人公のようにキメ顔をする。


 「逃げただけじゃないっ!オオゴトにして、丸投げしただけじゃないっ!!ホント、こんな手駒で良かったのかしら・・・まぁ、確かに彼らなら討伐はしてくれるでしょうけど、、、これ、コンプリートなの?アナタの功績なの?」


 姿は無く、声だけであるが、近くにあるであろう机を蹴ってるのが雰囲気で分かる。

 けど、その呆れた空気とは裏腹に、左腕を貫通した光の矢は消え、傷は見る見るうちに治癒されていく。


 「おりょ?遠隔治癒、アザァーッス。ふぅー、、、知略ッス。計略です。もちろん、我が手柄。アイツ等、オレに踊らされた道具ッス。己が手を汚さずに目的を達成する。これぞプロの仕事ッス。オレスゲェェェ・・・」


 <行き当たりバッタリの癖に、なにを偉そうに・・・よう、そんな都合良くアピール出来るな?チョット小者臭キツ過ぎて流石にハズいわ>


 だまらっしゃいっ

 結果オーライッ

 変に指名手配されずに良かったじゃねぇか


 「残念。いま王城ではアナタを捕まえろ!って、王様が叫びまくっているわ。けど、良かったわね。城は崩壊だけど、奇跡的に死者はゼロよ」


 巨大化したクリムト王子の正体は、いま止めを刺されたようで、その力を失い、轟音をたてながら倒れていく。


 無傷だった隣の塔を巻き込みながら・・・


 「ふぅー、、、さ、世界を見に行こうか。広い世界をさ」


 <コイツ、逃げる気や!アズベルやファウストに説明もせんとシレッと高飛びする気や!>


 バ、バァーロー、、、

 そりゃ、逃げるっちゅうねんっ!

 壁壊して、あんだけ暴れたんだ

 いくら正当性を訴えても無理っぽだろ?

 あの弓の人怖ぇぇし!


 心の中でギャアギャア言い合いながら、それでも無事ミッションが終了した安心感を感じて、どこか心も軽い。

 けど、面倒臭くなる前に王都より立ち去るべきと、振り返って屋根の上を歩き出したところで、、、



 トンッ



 背後に誰かが降り立った。


 周囲の警戒は常に行っている。

 言うなれば、半径100mの球体レーダー。

 範囲内であれば、些細な人の動きすら把握出来るはずだった。


 「ふぅー、、、ワープ、、、転移移動ってやつか。もちろん、オレに会いに?」


 ゆっくりと振り向きながら、震える声を誤魔化しながら話しかける。




 「・・・キミは誰?どうしてボクを知っているの?」


 素っ裸のクリムト王子だった。

 正確にはクリムトに化けた魔族、[イシュカリテ]。

 クリムト王子のルックスをベースに、疲労は隠しきれず、魔族らしい山羊の角や黒い羽なんかが飛び出している。


 「ふぅー、、、偶然だよ、偶然。そういう見抜く力?みたいなのがあんだよ。いや~、びっくりしたぜ、王子が魔族なんだもん。思わず殺っちゃったって感じかな。ゴメンね?」


 強がりながら、おちゃらけてみせる。

 プレッシャーはハンパないが、イシュタルの存在を悟らせる訳にはいかない。


 「非道いよ。ママに言われていろいろ頑張っていたのに。分かる?下準備をいっぱいして、一つの切っ掛けで連鎖的に崩れ落ちるあの快感・・・ぶち壊しだよ」


 両手の爪が1mくらい伸びる。

 青年の姿がベースで、いろいろとグロい魔族の脈動。

 けど、子供のような声で、幼い口調。


 はっきり言って気持ち悪い。


 <分かったで、ぺーはん。アイツが持つ[吊される者]っていう[刻印]が原因や。詳しくは分からんけど、ユニークスキルみたいなもんで、その効果は[奪った魂の貯蓄]。つまり、残機あと125機。そんだけ生き返りよる!>


 なるほど。

 そういうカラクリか・・・


 イシュカリテは引き裂くように両手を広げて、こちらへと一気に迫る。


 だが、遅いっ!


 ローランドの方が数倍速かった。

 あの経験があったからこそ、落ち着いて対処出来る。


 [グライドシステム]で予備動作なく後退して間合いへと入れさせない。


 ニヤリと嫌な笑顔で後退するオレに、イシュカリテは驚きの表情を隠せなかった。

 そして、その眉間へと銃弾を撃ち込んだ。


===バァンッ!!===

 

 アゴを残して、頭が吹き飛ぶ。

 力を無くして倒れたイシュカリテの死体は、教会の屋根より滑り落ち、あろう事か、教会入り口前の広場へと落下する。


 「「「「「きゃぁぁぁぁぁっ・・・」」」」」


 悲鳴が轟く。

 広場には、沢山の住民が集まっていたようだ。


===バァンッ!バァンッ!バァンッ!===


 オレは追いかけるように、ゆっくりと落下しながら、反応を示したイシュカリテへと銃弾を撃ち込む。


 <10秒。ステータスの残機が減るまでの時間や。多分、それがサイクルや>


 死体の側へと降り立ち、銃口を向けたまま発砲を繰り返す。

 どうやら、10秒後には体が完全復活をするようだ。


 だが、

 隙は与えねぇ。

 何度でも撃ち抜いてやる。


 オレはイシュカリテへと集中を切らすことなく、カウント10と同時に銃撃を繰り返して、このままハメ技で殺しきろうとする。


 しかし、


 「りょ、両手を上げろっ!キサマッ、な、ななにをしている!!」


 若い衛兵が三人、槍を構えながらこちらを囲っていた。


 「・・・・・ふぅー」


===バァッンッ!!===


 なにも言えないオレは、結果にらむように三人を見つめながら、10秒後には発砲する。


 「なっ、キ、キサマ!大人しくしろと言っているっ!!従わなければ実力行使もじさないぞ!」


 またも、場は膠着する。

 しかし、


===バァッンッ!!===


 10秒後は、すぐにやってくる。

 マズいと分かりつつも発砲したオレに、三人の衛兵は槍を突き刺してきた。


 カキッンッッ!


 硬質化した巴百式のマントで槍を防ぐ。

 そしてそのままマントを高速で回転させて、その遠心力により三人の衛兵を吹き飛ばす。


===バッッンッ!!===


 クリムトへと銃弾を撃ち込みつつ、出来たスペースに2m級の大岩をいくつも取り出して死体を取り囲む。


===バッッンッ!!===


 簡単には死体へと近付けないように、障害物で囲み終わったところで20Lの携行缶を取り出して[リロード]する。


===バッッンッ!!===


 携行缶を死体の上に置いて、強出力のグライドシステムでゆっくりと真上に浮き上がりつつ、死体に蓋をするように大岩を落とす。

 さらに上空よりガソリンを乱暴にまいて、デザートイーグルをかまえる。


===バッッンッ!!===

===ドガァァァァンッッ!!===


 爆発にしたかのように、大岩で組まれた牢獄が黒煙を上げて炎上する。


 大聖堂まえの広場。

 遠巻きに観衆が見守るなか、歪な大岩のやぐらが大聖堂の入り口前でキャンプファイヤーのように大炎上する不思議な光景だ。


 残機、確か120くらいか?

 10秒間隔で蘇るなら、殺しきるのに20分程度。

 たぶんなにもなければ、ガソリンでの炎上で殺しきれるだろう。


 広場を見下ろす屋根の上より周囲を見渡す。


 <ヤバいで、ぺーはん。流石ファンタジー、水魔法や風魔法、お、土魔法もか、細かい火災はあっちこっちで対処始めよった。このままやったら数分もすればイシュカリテの消火活動が始まってしまうで>


 ザンダ採掘場のようにはいかない。

 炎の中と外では全く違うのだ。


 「・・・・・しゃーねぇ。説明してる暇もねぇし、ここは強硬手段で対処するか」


 マップレーターにより大聖堂の人々が裏口より避難しているのは理解している。


 オレは大聖堂入り口付近に手榴弾をいくつもバラまく。


===ドガッドガッドガァァァンッッッ!!===


 大聖堂の入り口付近が爆破され、広場へ流れ落ちるように大聖堂の屋根や大鐘が崩れ落ちる。


 すごい土煙のなか、オレは再度その瓦礫へとガソリンをまき散らして火をつける。


 「ふぅー、、、流石にこれ消火するには時間がかかるだろう」


 広場一面へと広がった火災と大聖堂の瓦礫。

 国家の危機を救うための処置だったとしても、これはもう、洒落抜きで国外逃亡するより他はない。


 オレは屋根の上から避難誘導をしている衛兵たちを眺めながらタバコに火をつける。



 そしてそのまま、屋根の上を飛び跳ねるように王都より脱出していった。

 







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