46:食らえ、忠義の嵐
「お帰りなさいませ、旦那様。初めてのご来店ですね・・・こちら、様々なコースをご用意させて頂いております。本日はどのようなコースをご所望でしょうか?」
「うむ、どれどれ、、、子爵コースより値段が跳ね上がるのか・・・だが、敢えてここは伯爵コースでいこうかな。さらにメイドの指名も加えてくれ」
受付に、指名料と安くはないコース料金を置く。
「・・・確かに。では旦那様、こちらのお部屋で少々お待ち下さいませ。爪切りは必要ですか?すぐにご指名ファイルをご用意させていただきます」
見事なカーテシーで優雅に礼をする受付嬢。
むしろ、この娘でいい。
そんなことを考えていると、受付横の小さな小部屋へと通される。
格調高い調度品。
アフタヌーンティーのように、洗練されたおもてなし。
紅茶の香りを楽しむのも束の間、すぐに2、3つのファイルを抱えたロマンスグレーの老紳士が、執事の見本のように入室してきた。
「伯爵様、当店へのご来店、心よりお喜び申し上げます。こちらご要望のファイルにございます。ごゆっくりテイスティングくださいませ」
優雅な一礼の後一歩下がり、オレの思考の邪魔にはならずに、しかし質問などもしやすそうな微妙な距離感を保つ老執事。
出来る感じだ、
枯れ専にはたまらんのだろう・・・
テーブルに差し出されたファイルを手にする。
「・・・・・・・ほぅ」
思わず声が漏れ出てしまった。
パサリ、とページをめくりながら、その都度感嘆させられてしまう。
洗練されている・・・
正当派メイド服、ケモミミメイド、露出度過多のアニメ風メイド、アイドル調、ロングのメイド長スタイル、ドンキ風・・・
様々な色物メイドがファイリングされた下世話なファイルのはずなのに、どこか気品すら感じさせられる。
匠の技・・・
まさにプロの技量を感じさせる職人技だ。
「ふん、、、見事なものだな。モデルたちの魅力を余すことなく表現している。この18ページの構図は秀逸だ、スカートのしわにまで計算が入っている」
「っ!こ、これは、申し訳ございません。私、少々旦那様を侮っていたようです・・・分かりますか?その表情を引き出すために3日前から精神的な下準備をいたしました。さらにその切なさの強調として、」
「洗濯バサミでも仕込んでいるのだろ?フンッ、そんなことも見抜けないとでも思ったか」
ガバッと、優雅さの欠片もなく、勢いよく頭を下げる老執事。
「申し訳ございませんっ!伯爵様のご慧眼、お見逸れしました。釈迦に説法とはこのことです。全く持って、お恥ずかしいっ」
耳を真っ赤にさせ、老骨とは思えない狼狽えっぷりである。
しかし、ポッとした老執事のその表情には、どこか、悦が見え隠れする。
「勘違いするな、別に責めてなどいない。むしろ素材を最大限引き立てたこのアーティストに賞賛すら感じているのだ。楽にしろ」
オレは視線をファイルから外すことなく、紅茶を口へと運びながら老執事へと言葉をかける。
「勿体なきお言葉。老いてなお目が覚める思いです。私のこだわりを正しく読みとっていただけるとは・・・心より敬服いたします。イエス・スア・ハイネスっ!」
右手を胸に、紅潮して敬礼する老執事。
正直、訳が分からん。
ここは深入りはせず、ファイルに集中するとしよう。
いやぁ~
けど、
本当にこれはレベルが高い!
アシノミヤ王都より逃げ出して2日。
隣の自由都市国家[ナニュワ]へと入り込み、看板につられて訪れてみれば・・・。
当たりだ。
これは間違いなく当たりだ。
クセは強いが嫌いじゃないっ!
イメージプレイは数少ないオレの得意技だ。
伯爵貴族として徹底的に楽しむとしよう。
ん?
よく見るとプロフィール欄にある ○ 印の有る無しがあるぞ。
これは、、、
「おい、セバスチャン。この印はなにを意味しているのだ?」
優雅に一礼をするセバス。
「申し訳ございません伯爵さま。それは侯爵さま以上のオプションとなりますので、お答えする訳にはまいりません。あと、私はセバスチャンではございません」
オレは[ストレージ]より5万イェンを抜き出して、老執事へと投げつける。
「貴様っ!私を愚弄するかっ!!そんな意味ありげな印があるのなら、オレは、、、オレは、侯爵にでも王族にでも成り上がってやる!そんな意味ありげな印があるのならぁぁぁ!!!
「あっ・・・」
顔に札を投げつけられて、ポッとする老執事。
この変態ジジィめ・・・
「た、確かに・・・・・旦那様は侯爵さまでございました。私の勘違い、お許し下さいませ」
ハァ、ハァと息を荒げながら、嬉々として床に落ちたお金を拾い集めるマゾ執事。
「ほ、本来、伯爵さま以上の爵位は常連様にしか与えられない爵位です。その意味をよくご理解されたうえで慎重に取り扱いください」
調度品の下へと入り込んでしまった一万イェン札を、なにを勘違いしたのか、紅潮した荒い息で顔を床へと擦り付けながら、お尻を突き出し、腕を伸ばして取り続ける変態老執事。
「・・・・・絶対に公言しないと誓おう。これはあくまで一夜限りの夢のようなもの。無粋なマネは絶対にしない」
「グッド・・・」
オレの独り言に、契約は成立したようだ。
なんとか一万イェン札を拾い出した老執事は、札をキレイに揃えてポケットへとしまう。
そして、空になったオレのティーカップへと優雅に紅茶を注ぎながら、本題を口にする。
「・・・・・身も、心もで、、、ございますれば」
「 ッ!!! 」
得てすれば、それは、聞き逃しそうなほどの呟きでしかなかった。
しかし、確かに聞いた
確かに、セバスチャンは、そう口にしたのだ・・・
「っっっ!!ぬぅぅぅ、、、バ、バカにするなっ!はっきりと申せっ!オ、オレはそんな比喩に浮かれたりはしないぞ!条令で禁止されているはずだっ!騙されるもんか、そんな訳、、、そ、そんな訳が、あるかっ!回りくどいぞ、セバスっ!」
狼狽えた。
情けなくも狼狽えてしまった。
ガバッと立ち上がり、動揺しながら怒鳴り散らす。
「これは申し訳ございません。年を取ると、話が回りくどくなるのは悪い癖だと自覚しております。あと、私はセバスチャンではございません」
ティーカップを静かに置いて、真っ直ぐにこちらを見つめる老執事。
「はっきりと申しましょう・・・・・・・[折檻]の、有無にございますれば」
「 ッッッ!!!! 」
「ぅぅんっ、うぉっほん・・・では、失礼して、、、、、おい、ゆで卵が半熟ではないか!キサマのせいで汚れてしまったぞ、どうしてくれるだ、ん?、、、おい、どうした、キサマのその舌でキレイに拭えばよかろう?フフフ、そうだ、、、誠心誠意、精一杯、奉仕してみせろ。ん?悔しくて泣いているのか?ハハハ、そうかそうか、だがな、キサマの下の口は、違う意味で泣いて濡れ、」
「もうぅいいぃぃっ!もう、大丈夫っ!!分かった、分かりましたから、もう十分ですっ!」
「イエス、ユア、ハイネス・・・引き続き、ごゆっくりご賞味くださいませ」
キレイな一礼の後、ファイルを差し出して、数歩下がるセバスチャン。
・・・・・くそっ!
なんだっ!
なんなんだっ!!
ジジィの濡れ場の寸劇など見たくはないっ!!
余りの衝撃に、本来条令で禁止されているサービスに驚くはずが、一気に気分を害してしまった。
だが、、、、
だが、コイツ、、、、、
カードの切り方としては絶妙であったぞ
こんなにも、、、
こんなにも、オレの心を鷲掴みに、、、、、、
力が入らずに、その場に膝をついてしまう。
「・・・さて、ご主人様。誠に勝手な提案ではございますが、私と一つ、賭をいたしませんか?」
動揺の色を隠しきれないオレに、先ほどとは違う挑戦的な視線を向けてくる変態執事。
「・・・すでに屈服させられてしまったオレに、なにを挑戦するというのだ?」
「滅相もございません。私、ここ数年でこれほどのシンパシーを感じたご主人様はアナタ様以外におりません。オォォルゥ、ハイル、ブリィタァァニィアッ!!・・・純粋に心がザワつくのです。戦いたい、長年磨き上げてきた私のセンスが、どれほどのものなのか、アナタと全力で戦ってみたい、と」
少年のような輝きを目に宿し、膝を付いたオレに右手を差し出すドMジジィ。
オレはその右手をしっかりと握り返して立ち上がり、その情熱に応えるように睨み返す。
「フ、フハハハ、いいだろう!受けて立つっ!!オレはキサマを喰らい、さらに大きく飛躍してやる!!」
握手をしながらお互い、認め合い、近いからこそ相容れない関係に、もどかしさ感じつつも、不器用なこの展開に満足して頷き合う。
「フゥー、、、それで、どう勝負をするつもりだ?」
オレはイスへと座り、タバコに火を付けて落ち着きを取り戻しながらルールを確認する。
「人は一人ではその力に限界がございます。ですが、二人、三人と力を合わせることで、その組み合わせによっては足し算ではなく、かけ算のように魅力は増幅するものでございます・・・・・ご主人様には、そのファイルより、5人、お選びいただきます。選んだ花が、華やかなだけでは五月蠅くて逆効果となります。かといってバランスに捕らわれ過ぎても、つまらない結果となるのは明らかです・・・・・さて、この挑戦に挑む勇気はございますかな?」
両手を広げ、芝居じみた仕草で過剰に挑発する変態セバス。
だが、、、
「フンッ、、、B-4のミクルちゃん、B-9のティファさん、C-2のヨーコさんに、Dー5のチグサさん、Fー4のベロニカちゃんで」
即答で応えてやった。
「っっ!!・・・こ、これは驚かされました。まさか、あの短時間で全てを暗記していたとは、、、さらに、この状況で迷いなく、ノータイムで攻めるなど・・・・・まだまだアナタのことを上方修正しなければならないようですね」
芝居ではなく、動揺してヨロヨロと後退する老執事。
「ふぅー、、、一矢くらいは報えたかな?それで、これで終わりじゃないんだろ?」
タバコをふかし、今度はこちらが挑発する。
「フハハハハハハハ、もちろんでございますぅ!フヒャヒャヒャ、これです、この実力が均衡した戦いっ!これなんですっ!!いいでしょう、生涯の好敵手としてお相手しますっ!全ぅぅぅ力っっで応えさせていただきますぅぅ!ヒャヒャヒャヒャ・・・・・さて、、、取り乱し、失礼いたしました。ご主人様がお選びになったカードを連れてまいります。しばらくお持ち下さいませ」
賭狂った老人は、ひとしきり悶えた後に、冷静さを取り戻して退出していった。
こえぇぇ~・・・
なんか、変な引き金を引いちまった。
つか、侯爵プレイはまだかっ!
こんな老人と遊んでないで、早くメイド遊びをしたいんだけど!!
オレは高い金を払って、なんでこんな変態老人と戯れているのだ。
一人になり、冷静に現状を思い出したところで、フツフツと小さな怒りがわき出てくる。
プリプリ乱暴に紅茶をすすり、タバコをスパスパ吹かしていると、扉がノックされた。
「「「「「失礼します」」」」」
シンクロした挨拶と同時に、5人のメイドが姿を現す。
明るく元気なヒロイン系巨乳メイド。
クールででもオッチョコチョイな穏やかじゃないわね系巨乳メイド。
背は低く、けど一番お節介でお姉さん気質なロリ巨乳メイド。
無口で銀プチ眼鏡がよく似合うメイド長な出来る巨乳お姉さん。
ユルポワであらあらって言いながら巨乳リフレクトを得意としそうな天然メイド。
5人は横並びでオレの前に整列する。
・・・・・素敵やん
ファイル以上だ。
洗練された立ち振る舞いに、想像以上の美しさ。
我ながらではあるが、調和の取れたこの構成に、思わずゴクリっと生唾を飲んでしまう。
つか、5人とも[ ○ ]というだけで、、、
イ、イカン、鼻血がでそうだ。
パチ、パチ、パチ、、、
視線を外すことなく、均等に、平等に、5人の胸へと集中していると、入り口付近より乾いた拍手が打ち鳴らされる。
「すばらしいっ!ノータイムの選択で、まさかのストレートフラッシュとはっ!これは素直に賞賛するより他ありませんな」
拍手を続けながら、ゆっくりと入室するセバスチャン。
「ふぅー、、、気に入らないな。何だキサマのその余裕。この素晴らしいチョイスになにか欠点でもあったってのか?」
上からな態度が気に入らない。
オレ達はいま、プライドをかけた勝負の真っ最中だ。
全力を出さずに誤魔化す流れなら、オレは心底軽蔑してやる。
「いえいえ、教科書のお手本にしたいような、素晴らしい選択だと素直にそう思えます・・・・・ただ、、、予想の範疇を超えない。素晴らしい剛速球に間違いはないのですが、だからこそ、そこにまだまだ若さを感じるのです・・・・・さぁっ!ご覧いただこうっ!!長年研ぎ澄まさせた年期というものをっ!!全身全霊をもって、私の全てをここにぶつけましょうっ!!!さぁぁぁ、刮目していただきたいっ!!それではぁ、はぁぁりぃぃぃぃきって、登場していただきますぅぅ!!ユウキさぁぁぁん、お願いしゃ~す♪」
グレイティスト・ショーマンと化したジジィが、大げさな仕草で扉の端へと場所をゆずる。
そして、全員が注目するなか、一人のメイドがゆっくりと静かに扉の中央へと現れた。
?
???・・・
あれ?、、、なのか?
間違いではなく?
全然、地味で、普通す、ぎ、、、て、
っっっ!!!!
そこに現れたのは、気弱で、前髪パッツン、長い三つ編み、グルグル瓶底メガネな、パッとしない委員長タイプ。
服装は変哲のないメイド姿。
ただ、たすき掛けにかけられたカバンのヒモが、お椀型の胸の谷間に食い込んで、キレイな胸の形を強調している。
「おいっ、そのカバンの掛け方は卑怯だぞっ!」
「最高のほめ言葉にございますれば」
くそっ
そしてさらに、うつむき加減で、顔の半分を覆ったグルグルメガネが、その地味さを強調しているのだが、よく見るとパーツパーツの整い具合により、間違いなく美少女の可能性を感じさせている。
それでも、決して華やかな場には、似つかわしいタイプではない。
だが、
くっ!
やられた、
そ、そうだ、
そうなのだ
自分でも自覚していなかった・・・
オレはメガネが好きだ
そんなことは分かっているっ!
だが、そんな中でも、なぜかオレが昔から惹かれてしまう存在、、、
それがっ、
「ほら、ユウキ、早く食堂にいきましょ!まったく、グズグズしてたらまた食べ損ねちゃう」
「えぇぇ、だってヒカルちゃんが先に掃除しようって言うから、、、待って、待ってよ、ヒカルちゃん」
突然、元気いっぱいのメイドが乱入し、扉の前で寸劇が始まる。
そう、
主人公の隣で、いつも振り回されている幸薄なメガネっ娘。
例えるなら、ちび○子ちゃんの親友、タマちゃんが成長した姿。
「ダメ、ダメだよ、、、そんなことしたら、またご主人様に怒られるよ。戻ろ、ね?ヒカルちゃん」
「いいから、いいから、、、大丈夫だって、バレやしないわよ。ユウキ、そこの扉を見張ってて。誰か来たらすぐに教えてちょうだい」
「そんなぁ~、無理だよ、待って、待ってってばぁ」
く、
これだ・・・
寸分違わず、これなのだ!
自分でも気付いていなかった。
そうかなぁ、そうかなぁ、とは昔から感じていたが、気付かされてしまった。
おジャ魔女のハズキちゃん・・・
主人公に振り回されてしまうメガネな才女。
そうだ、
オレは、幸薄な親友メガネが一番好きなのだっ!
くそっ、
くそぉぉぉぉぉ・・・
「いかがでございましょう?ご主人様」
全てを見透かしたかのような笑顔で、優雅に一礼するセバスチャン。
「・・・・・完敗だ。悔しいが、認めざるを得んだろうな。ふぅー、、、オレはまだまだ掘り下げ方が足りなかった。勉強になったよ、礼を言うセバスチャン」
一片の曇りもなく、爽やかに敗北を認める。
「有り難き幸せ・・・ですが、これほど苦戦したのは、パプテマス参謀大臣と勝負した以来です。あと、私はセバスチャンではございません」
ぷっ、
参謀大臣、なにやってんの!?
是非、一度談義を交わしてみたい。
「ふぅー、、、さて、そろそろもういいだろう。つか、もうこれ以上我慢出来ないっ!ここにいる全員でもいいから、早く侯爵コース始めさせてくれよっ!」
限界だった。
オレのリビドーが、もうジジィの相手をしたくないと叫んでいる。
「もう少し遊んでほしかった(ボソッ)・・・・・承知しました。では、プレイルームへとご案内し、」
「大変だっ!ガサ入れだっ!!みんな逃げろ」
「動くなっ!!全員確保するっ!!」
「抵抗するなっ!違法風俗の現行犯だっ!!逃げられると思うなっ!!」
廊下より騒がしい声がする。
ふと、セバスチャンへと視線を向けてみると、固まったまま急激に白髪が増えて、ショックのあまりミイラのように干からびていた。
・・・・・さ、帰るか




