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そして一週間が経った。
充実してる!
エレノアは学園の庭の奥で、いつものようにお弁当を膝に置き、騎士科での楽しい毎日を振り返った。
最初はぎこちなかったクラスメイトたちとも、次第に打ち解けてきたような気がする。
自宅に帰ると疲れ果てて寝てしまうが、その疲労感がまた心地いい。
思い切って騎士になると言ってよかった。
しばらくすると、フィラがやってきた。同じように手にはランチボックスを持っている。
あれからフィラはやたらとエレノアについて回るようになった。
いろいろあったエレノアなので、一緒にいるとほかのお友だちから冷たくされないか心配なのだけれども、当の本人はまったく気にしていないようだ。
「エレノア様、遅くなりました」
本当は待たなくてもいいのだけれど、なんとなくフィラと一緒に食べることが習慣になってしまい、先に来たほうが待っている。
「お友だちにランチを誘われていたようだけど、断っていいの?」
「いいんです。ほかの方とは午後からの授業でも一緒ですし、お茶会もしていたら、常に一緒ですもの。
それよりも、最近エレノア様とお昼を食べていることをお話ししたら、うらやましがられたんですよ」
エレノアは驚いた。
「どうして?」
「それはエレノア様がかっこいいからですわ。男性に混ざって騎士を目指すなんて、物語のヒロインのようですもの」
フィラの表現はいつも大げさだ。エレノアは思わず否定した。
「そんなつもりはないのよ」
「もちろん、エレノア様のお気持ちはよくわかっていますが、そういうことに夢を抱く者もいるのですよ」
意外な見られ方にエレノアは気恥ずかしくなる。
「そういえば、最近ローガン様と親しくされているようですね」
「同じ騎士科のクラスメイトだからね。
彼ね、とっても強いのよ」
「存じております。
エレノア様のアルディス家には引けを取りますが、ローガン様のハワード伯爵家も武勇に優れていますもの」
エレノアは驚いた。ローガンは実は有名人だったのだろうか。だとしたら、何も知らなかったとはいえ、失礼なことをしていたかもしれない。
「詳しいのね」
感心してエレノアはフィラを見た。
「ええ。ローガン様はあまり表情を表に出されませんが、お顔も精悍ですし、背も高いのでファンも多いんです。お茶会ではよくお名前が上がるのですよ」
「私が参加していたお茶会では、そういう話は聞かなかったけれど」
エレノアは首をかしげる。婚約者時代は、それなりに他の家のお茶会に誘われたし、自分で開くこともあった。
しかし未婚の男性の話など出たことがない。
「それはエレノア様がヴィンセント王太子の婚約者だったからですわ。
もしも男性のお話をして、エレノア様が関心を持ってしまったら大変でしょう」
当たり前のように返されたが、エレノアは驚いた。
確かにエレノアが参加したお茶会では、ドレスやお菓子の流行や、他国の珍しい動物などが中心だった。
噂話をするにしても、女性の話とたまに既婚者の男性の話。しかも父親世代のずいぶんと年上の人のことしか話さなかった。
と言うことは、エレノアの知らない間に話題をコントロールされていたのだ。
お茶会は女子同士交流を深める場所とは思っていたが、なかなか侮れない。
「ローガン様には、まだ婚約者もいらっしゃらないようですし、私たちも関心があるんです」
貴族の令嬢は、卒業と同時に結婚するものも多い。
だいたいは親が決めた先に嫁ぐが、たまにこの学園で出会って結婚する人たちもいる。
「少し身分差はありますが、エレノア様とローガン様はお似合いだと思いますわ」
優しく微笑むフィラに対して、エレノアは首をふった。
「とんでもないわ。私は王太子から婚約破棄をされたような娘だし、そんな者と噂になったとしたら、ローガンやハワード伯爵家にも迷惑がかかってしまうわ」
「そんな……。エレノア様は今後誰ともお付き合いなさらないつもりですか?」
寂しそうに言うフィラにエレノアは苦笑を漏らす。
「私はそういうのは、もういいわ」
はっとしてフィラは目を伏せた。
「エレノア様の気持ちも考えないで、失礼しました。
ただ……私は、エレノア様とちょっと恋バナをしてみたかったんです」
フィラの可愛らしい言い方にエレノアに笑みがこぼれる。
「ありがとうフィラ。私の話はできないけれど、恋バナを聞くのは楽しいわ。
また何か聞かせてね」
エレノアはほっとしたようにほほ笑んだ。
午後の授業が始まった。
エレノアはフィラから言われたことがなんとなく気にかかっていた。
ローガンと、そんなふうに思われていたなんて、考えたことなかったわ。
最初にローガンとペアになってから、エレノアとしてはやりやすいこともあり、たいした理由もなく一緒に練習を続けていた
だけどそろそろほかの人とも練習をしたほうがいいのかもしれない。
しかし周りを見ると、ほかの組も最初のペアのままで固定されているようだ。
ローガンもいつものようにエレノアの横に立つ。エレノアはちらりとローガンを見あげた。
どうしよう……。
そのとき、カイの姿が見えた。エレノアはあっと思い、カイを呼び寄せる。
カイはペアになっていた生徒と一緒に、エレノアたちのもとに不思議そうな顔をしてやってきた。
「お姉様、どうかしましたか?」
「あ、あのね。申し訳ないけれど、今日はローガンと組んでもらえないかな」
ローガンは何も言わないが、明らかに驚いた顔をする。
「いいですが、どうかしましたか?」
カイは不思議そうにエレノアに問いかける。
「ほら、私あまりこういう練習経験ってしてないでしょ。
だからいろいろな人とやってみたいなって思って」
「そういうことなら……」
「ローガンもわがままを言ってごめんなさい」
急な提案で、みんなを振り回している自覚はある。
しかしエレノアと一緒に練習をすることで、ローガンにおかしな噂がたつのではないかと、心配になってきたのだ。
「わかりました。
カイ、今日はよろしく」
「ああ、こちらこそ。
僕も一度君とは手合わせをしたかったから。よろしく」
お互い握手をする二人を見て、エレノアは思わず笑顔を浮かべた。
そして、エレノアも表情を引き締めると相手の生徒に礼をして練習を始めたのだ。
練習が終わり、服を着替えながらエレノアはいつも以上にたくさんできている青痣をさすっていた。
幸い服を着てしまえば見えないが、あちこちが痛む。
それを考えると、ほぼ無傷で練習相手になってくれるローガンは、やはり優秀なのだろう。
更衣室を出て、馬車が待つ校門の方へ歩いていると、ローガンの姿が見えた。
ローガンはエレノアを見つけると、ゆっくりと歩いてくる。
「エレノア」
突然呼ばれて、エレノアは驚いた。
「どうかしましたか?」
こんなふうにエレノアを待っていたのは始めてだ。
何があったのだろうかと心配になる。
ローガンは上着のポケットから何かを取り出した。
「あの……これ、我が家でよく使っている傷薬です。
教室から出るときに腕をさすっていたようだったので」
装飾も何もない、小さな薬入れだ。開けるとミントの香りがした。
ローガンがそんな小さなことまで気にかけてくれていたことに、エレノアは驚いた。
「実は、避けきれなくて……。
ありがとうございます」
エレノアは笑顔で素直にそれを受け取る。
頭を下げて帰ろうとすると、何か言いたそうな顔で、ローガンは口のあたりを触っていた。
「ローガン?」
「いえ……。俺が何かしてしまったのかと思いまして」
「はい?」
「ですから、今日の……」
エレノアはローガンが何を言いたいのかが、ようやくわかった。
エレノアはローガンに余計な心配をかけさせたと思い、慌てて言い訳をする。
「いえ。本当に大したことはなくて。
私もたまには、ほかの人と練習をしたほうがいいと思っただけです。
それにローガンも私ばかりでは練習にはならないでしょう」
さすがに噂になったらローガンに迷惑がかかるのでペアを辞めたい、とは言えない。なので当たり障りのないことを言ってしまった。
ローガンはほっとしたように胸をなで下ろした。
「それなら安心しました。
俺が何かをしたのではないかと、気が気ではなくて」
「私も急に思いついたことなので、心配をかけさせてしまってごめんなさい」
確かに、急なことだったし、ローガンとしては心配するわよね。
そこまで考えが至らなかったことを、エレノアは反省した。
「そういうことでしたら、安心してまた声をかけさせてもらいます」
誠実に言われて、エレノアは困った。
それはそれで、私と噂になったら、ローガンに迷惑がかかってしまう。
もちろん考えすぎという可能性もある。フィラだけが騒いでいるのかもしれない。
だけど、ローガンが女生徒に人気があるのは、信憑性が高いような気がする。
だったら、やはりあまり親しくしないほうがいいのではないのだろうか。
しかし、ペアを上手く断る方法も直ぐには思いつかない。
「私ばかりではローガンも練習にならないのでは?
今日もカイとしていたときは、私なんかのときよりもよっぽど真剣だったし、迫力もあったし、かっこよかったわ」
「かっこよかった、ですか?」
「ええ、それはもちろん」
ローガンはエレノアから視線を逸らした。
「確かにカイは強いし、あのような稽古ができると楽しいです」
「だったら、そういう人たちとしたほうが、いいんじゃないかしら」
話の流れから、ローガンを説得できそうだ。
エレノアはもう一度強く言った。
しかしローガンはあっさりとエレノアの立てた理論を覆す。
「いえ。俺は家の方でも十分稽古は積んでいるので大丈夫です」
ローガンは真っ直ぐにエレノアを見て、はっきりと言った。
「ああ、そう……」
「それに俺だったら、無意味にエレノアを傷つけるようなことはしません」
それはそれで、私の練習にもならないような……。
「エレノアは相手が私では不足ですか?」
真っ直ぐに見つめられて、エレノアは困ってしまった。
同期だけでなく、学園全体でもトップクラスの実力の持ち主がこのように言うのに、断ることなどできない。
「まさか、そんな……。
ただ、私が相手だとローガンの練習にならないと……」
「エレノアと練習をしていたからと言って弱くなったのであれば、それは私の問題です。
エレノアがそんなに心配してくれるのなら、家でももっと鍛錬に励みます」
「ああ……そうですか……あまり無理はなさらないように……」
エレノアはなんとも曖昧な返事をしたが、対象的にローガンは何やらはればれとしていた。
「それではまた明日」
戸惑うエレノアを残してローガンは美しい姿勢で去っていった。
確かに、女生徒が憧れるのもわかるわ……。
雄々しい後ろ姿にエレノアも納得する。
だけど本当にローガンとばかり練習していいのかしら?
ローガンに背を向けて歩きながら、エレノアは考え込んでしまった。
※本作品は、ChatGPTなどのAIを補助ツールとして活用し、誤字脱字の確認や文章表現の整理を行っています。世界観・設定・ストーリー・登場人物はすべて作者によるオリジナルです。
※本作品は「カクヨム」と「小説家になろう」で同時連載しています。掲載内容は基本的に同一ですが、更新日時が前後する場合があります。




