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日が沈み、父であるレオンハルトが帰ってきた。
レオンハルトは、二階のエントランスにいたエレノアを見つけると、おおきく腕を広げた。
エレノアは二階の階段から駆け下りると、そのたくましい筋肉へ飛び込んだ。
実戦で鍛えられた程よい硬さの胸筋が心地よい。
そして優しくエレノアを包む上腕二頭筋が何より心を癒してくれた。
レオンハルトは騎士総長である。若い頃から鍛え上げられた肉体は、もはや芸術作品と言っても過言ではない。
レオンハルトの体型は、前世から筋肉を愛するエレノアの理想そのものだった。
その身体に抱きしめられると、幸せ以外何も感じられない。
「エレノア、学園での出来事を聞いたよ。つらかったね」
低い声でレオンハルトが慰める。
学園内のことが、もうレオンハルトの耳に入っているとは思わなかった。
エレノアは顔を伏せる。
「お父様、ご心配をおかけしました」
「まったく、王子も何を考えているんだか……。
そもそもこの婚約は、王家から来た話だと言うのに」
レオンハルトはエレノアの肩を抱いたまま、家族が集う部屋に向かう。
扉を開けると、カイと母親のマリアンヌがソファーに座って二人を出迎えた。
レオンハルトとマリアンヌの間にエレノアは座る。
マリアンヌも悲しそうな表情でエレノアを抱きしめた。
「エレノア、あなたは何も心配しなくてもいいからね。
もう学園もやめなさい。
この家で好きなことをして過ごすといいわ」
優しい言葉が心からありがたかった。
「父上、母上。
俺は今回の王子の仕打ちが許せません!
直ちに王へ抗議するべきです!」
カイは立ち上がり、怒りをあらわにした。
「私もカイに賛成だわ。
あなた、このままではエレノアがかわいそうだわ」
一見大人しそうなマリアンヌも同じように怒っていた。
二人の言葉に、レオンハルトは腕を組んで考え込む。
「そもそもこの婚約は、王子とエレノアの個人的なものではなく、王家とアルディス家との契約だ。
だから王子が一人で婚約を解消したと言っても、王が認めなければ、婚約は継続される」
「しかし俺は、お姉様を傷つけるような奴と婚約を続けるなんて、絶対に反対です!」
レオンハルトはエレノアの顔を覗き込んだ。
「お前はどうしたい?」
エレノアは優しい家族の言葉に、胸がいっぱいになっていた。
「お父様、お母様、そしてカイ。
みんなありがとう。
……私は王子に未練はありません。
王子が望んだ通り、婚約は解消してください」
「エレノア、いいの?
あなたは幼い頃から王子と結婚するのが夢だったのでしょう」
エレノアの胸がズキンと痛む。
小さなエレノアが私を責めているに違いない。
エレノアは夢を叶えてあげられなかったことに罪悪感が湧いてきた。
ごめんなさい。
だけど私も自分を偽っては生きたくはないの。
必ず幸せになるわ。
だから許して。
エレノアは胸の前で両手を強く握った。
そして家族に真っ直ぐに向き合った。
「確かに私はずっと王子に憧れていたわ。だけど、今の私は、王子と結婚をしたいとは思っていないの。
だから心配しないで」
その言葉に家族は複雑な顔をする。
「それなら、お母さんと一緒にゆっくりと家で過ごしなさい。
学園のことも、王子のことも忘れて過ごすといい」
「お父様、ありがとう。
だけど、私、今後のこともきちんと考えたいと思っているの。
あんなふうに婚約破棄をされてしまったから、社交界にもしばらく出られないし、王子以外の方と婚約をすると言うのも難しいと思うの」
その言葉に、マリアンヌは大きく頷いた。
「しばらくは社交界には行かないほうがいいでしょうね。王子に会うのも気まずいでしょうし、あらぬ噂を聞かされて不愉快な思いもするでしょうから」
エレノアは心の中で喜んだ。
正直に言って、社交界のような煌びやかな世界は苦手だった。
しかし王子の婚約者としては、出席しないわけにはいかず、しぶしぶ行っていたのだ。
「私はもう、婚約はこりごりです」
その言葉にマリアンヌは涙ぐみ、レオンハルトはエレノアの肩を強く抱いた。
「そんな悲しい話をしないでおくれ、私の天使。
エレノアが希望するのなら、父が必ずお前に見合った伴侶を連れてくるよ」
そんな二人を抱きしめて、エレノアは言った。
「だから私、女性騎士になろうと思うの」
んっ? と 二人が顔を見合わせる。
「今、なんと?」
「ですから、女性騎士です」
エレノアは笑顔で繰り返した。
「カイに聞いたんです。
人数は少ないけれど、女性王族を守る女性騎士がいると。
お父様、今までどうして教えてくださらなかったの?」
レオンハルトは目の前のソファーに座っていたカイを睨んだ。カイは不自然に視線を逸らす。
令嬢ともなれば、家の中で静かに暮らすのが定番だ。
しかし、どうしても体を動かしたかったエレノアは、カイやアルディス家の騎士たちと剣の稽古をしたり、乗馬の練習をしていたのだ。
もちろん、そんな趣味を外に知られれば、アルディス家の令嬢としても、王子の婚約者としても外聞が悪いので、今までは黙っていた。
「もう、婚約者でもなくなったのですし、いいですよね」
とたんに二人が無言になる。
そして、先に口を開いたのは意外にもマリアンヌだった。
「本当にあなたは、十歳の大病を境に見違えるほど元気になったわね。
確かに、今のままだと女性としての幸せを願うのは難しいかもしれないわ。
それならエレノアがしたいことをして、笑顔で過ごしてくれる方が、母はうれしいわ」
「お母様……」
「ねえ、あなた。いいでしょう」
マリアンヌがレオンハルトにお願いをする。
「まあ、お前たちがいいと言うのなら、反対する理由もないな」
「お父様……」
優しい両親の言葉に、エレノアは嬉しくて涙がこぼれそうになった。
「ただし、条件が一つ。
アルディス家が主催するお茶会と、舞踏会には必ず出席すること」
「わかりました、お母様。
私のわがままを聞いてくれてありがとう」
マリアンヌはエレノアをしっかりと抱きしめた。
「そうなってくると、問題が一つある。
騎士の試験を受けるためには、見習い騎士になり、学園で専門の授業を受けなければならない。
今みたいな状態で、学園に戻れるか?」
心配そうにレオンハルトが尋ねる。
「それには心配にはおよびません。
俺が三ヶ月後に入学するから、一緒に専門の授業を受けたらいいんですよ」
カイが楽しそうに言った。
「それはいい考えだな。
カイがいれば安心だ。エレノア、どうだい?」
「私もカイと一緒だとうれしいわ」
「お姉様、一緒に頑張りましょう!」
「ええ、よろしくね」
騎士を目指せる。その思いで、エレノアは胸がいっぱいになった。
※本作品は、ChatGPTなどのAIを補助ツールとして活用し、誤字脱字の確認や文章表現の整理を行っています。世界観・設定・ストーリー・登場人物はすべて作者によるオリジナルです。
※本作品は「カクヨム」と「小説家になろう」で同時連載しています。掲載内容は基本的に同一ですが、更新日時が前後する場合があります。




