14
次の日、エレノアは学園を休んだ。
元気なのにお休みなんて、普段のエレノアでは考えられないが、今日は一人になりたかった。
豪華なベッドに横たわり、天井をじっと見つめる。
思い出すのは昨日のこと。
ヴィンセントの行動は意味がわからない。
なぜ、抱きしめられたのか。
……嫌がらせ?
思い返せば、エレノアが女性騎士を目指していることを、なぜか快く思っていないようだった。
体を動かすことが好きだと言ったときも、不愉快そうにしていた。
しかも俺に嘘を付いていたと、責められた。
しかし王太子の婚約者として、剣を振るうのが趣味です、など絶対に言えない。
だから黙っていた。
それを嘘をついていたと言われてしまえば、納得はできないが否定もできない。
ではヴィンセントは、エレノアに裏切られたと思って、嫌がらせのために抱きしめたのか?
……さすがに、この因果関係には無理があるわね。
別の方向からエレノアはヴィンセントについて考えた。
そう言えば、私がもっと楽しそうにしていたら、婚約は解消しなかったって言ってたわね……。
エレノアは姉や教師のように細かくヴィンセントの世話を焼いていた。
そのことに、ヴィンセントは強く反発していた。
それなら、楽しそうに世話を焼ければよかったのかしら……。
エレノアは想像して、枕に顔を埋めた。
何か、違う気がするわ……。
結局ヴィンセントの動機はわからない。けれど婚約解消をして、エレノアが騎士科に行くようになってから、ヴィンセントの行動はおかしくなった。
ということは、そのあたりに原因があるのかもしれない。
そう考えていると、エレノアはふと思いつく。
もしかしたら、長年婚約者として隣にいた人間が、急に離れてしまったことで、ちょっと惜しくなってしまったのかもしれない。
つまり、長年遊んでもいなかったおもちゃがある。だけどそれを急に誰かが使い始めたことで、機嫌が悪くなる、という現象だ。
子どもっぽい独占欲を、ヴィンセントは感じているのではないだろうか。
それは、ありそう。
ヴィンセントは子どもの頃から、自分のものをとても大切にする傾向があった。
メイドや友だちも、決まった人でないと機嫌が悪くなっていたこともある。
そう言えば、よれよれになったハンカチをいつまでも使っていて、それを指摘したら、口を聞いてくれなくなったこともあるわね。
それならば、抱きしめるという行動は、行き過ぎたことではあったけれど、ヴィンセントの行動について説明もつく。
スッキリしたエレノアは、ようやくベッドから半身を起こした。
部屋の中が明るく見えた。
朝からメイドたちが生けてくれた花が美しい。
カーテンから差し込む光に目を細めた。
気持ちが晴れ晴れしている。
明日は元気に学園にいけそうだ。
原因の予想がついたのなら、後は行動を伴うだけだ。
子どもじみた独占欲の表れだとするのなら、なるべくヴィンセントとは顔を合わせないようにしないと。
そもそもヴィンセントは、今、イザベラに夢中なのだから、そのまま二人で想いを高め合ってくれたら、私のことなんて自然に忘れてくれるに違いない。
それなら、イザベラの応援もしなくちゃね。
新しい使命も見つかり、なんともいい気分だ。
そんなとき、ノックの音が聞こえて、エレノアは返事をする。
顔をのぞかせたのは弟のカイだ。
制服を着ているところを見ると、学園から帰ってすぐに部屋に来たのだろう。
「お姉様。お加減はいかがですか?」
姉としても自慢の甘いマスクが、心配そうに影を帯びている。
「おかえりなさい。もうすっかり元気よ。
心配かけたわね」
「お姉様がいない騎士科は、花を失った温室のようでした」
「まあ、大げさね」
思わずエレノアは笑った。
それに安心したカイはベッドの端に来て腰を下ろすと、エレノアの額に手をあてる。
剣を振るうため、手のひらはごつごつとしていた。
昔は小さく、柔らかい手のひらだったのに。
カイの成長を感じて、エレノアは嬉しく思った。
「よかった。熱もないようです」
「だから言ったじゃないの。
相変わらず心配性ね」
ほっとするカイに、エレノアはほほ笑んだ。
「お休みになった原因は、騎士科で婚約者探しをしているというあの噂のことですか? それとも、王太子に引っ張られて行ったことですか」
欠席の原因が病気では無いことは、カイも分かっていたのだろう。声に微かな怒りが混じっている。
それでも今まで何も言わなかったのは、カイなりの優しさだったのだろう。
エレノアは曖昧な笑顔を浮かべた。
「カイが心配することではないのよ」
カイはエレノアの髪を一房すくって口元に運ぶ。髪は思いのほか短く、カイがエレノアの頭の横で甘えているようでくすぐったい。
そんなカイの体にエレノアは腕を回した。
カイの肩がビクリと跳ねる。
「ありがとう。心配かけてごめんね」
カイはそのままエレノアの頭に額をつけた。
「それは……ずるいです」
「ずるい?」
「……いえ」
そう言うと、カイもエレノアの背中に腕を回す。お父様に比べれば、胸の厚みもまだないが、同じような安心感はある。
「僕はお姉様のためだったら、なんでもしますからね。
だから一人で悩むことはやめてください」
「わかったわ。
それにしても、カイはいつまでも甘えん坊ね」
その言葉に頭の上からため息が漏れる。
そしてもう一度、抱きしめて、エレノアの髪に頭を埋めた。
「そうです。僕はいつまでもお姉様が大好きなので」
「あらあら、困った子だわ」
カイの様子にエレノアは明るい声で笑った。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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