15
次の日、いつものように中庭の奥の木々で囲まれた場所で、フィラを待っていた。
ようやく落ち着いて、一息つく。
今日は特に、生徒たちの好奇の目にさらされ、授業中もずっと落ち着かなかった。
それもこれも、ヴィンセントがエレノアの手を掴んでサロンから連れ出してしまったことが原因だ。
予想以上にかなりの生徒が見ていたらしく、学校に着いた途端エレノアは注目の的になった。
できれば静かに学園生活を送りたいのに、どうしてこんなことになってしまうのかしら……。
膝にあるお弁当に触れながら、エレノアは落ち込む。
そして一昨日の事がこれほど大きくなっているもう一つの原因は……。
「エレノア様、買ってまいりました」
嬉しそうなフィラの声が聞こえた。フィラは満面の笑みを浮かべながら、エレノアの隣に優雅に座った。
その手には、ゴシップ誌『ザ・オブザーバー』が握られている。
エレノアはフィラからそれを受け取ると、一面に書かれている見出しを早速読んだ。
『王太子ヴィンセント様と元婚約者エレノア嬢、再婚約か?』
あまりにストレートすぎる見出しに、エレノアは目を覆った。
そして内容はエレノアがヴィンセントに連れられてサロンを出ていったところまでが書いてあった。
思わずため息をつくエレノアに、フィラは臆することなく尋ねる。
「エレノア様、この記事本当なんですか?
王太子と再婚約したのですか?」
「そんなわけないでしょう。
フィラまでおかしな事を言わないで」
頭を抱えながら答えると、フィラは残念そうに呟いた。
「そうですよね」
エレノアが注目された最も大きな原因は、この記事である。
なぜ『ザ・オブザーバー』編集部は、エレノアのことばかり記事にするのかわからない。
しかしこの記事のせいで、ヴィンセントとの事が噂話レベルではなく広がってしまった。
しかも記事の内容に偽りは無いので、抗議したくてもすることができない。
「それにヴィンセント様には、イザベラがいるわ。
私の入る隙間なんて無いはずよ。
もっとも、そもそもその間に割って入ろうとも思わないけれど」
フィラの顔が曇る。
「エレノア様。あんな公の場で婚約破棄を言われて、傷ついているのはわかりますが、イザベラがエレノア様より優れているなんてことは、絶対にありえません!」
力強く言うフィラの勢いに押され、エレノアは思わず後ずさる。
そういう話ではないのだけれども……。
どうもフィラはエレノアを悲劇のヒロインにしたいようだ。
確かに公の場で婚約破棄を言い渡されたことは驚いたが、婚約者という立場に未練は全くない。
そこで、エレノアはフィラを安心させるために、昨日考えていた事を話した。
「違うのよ、フィラ。
私はヴィンセント様とイザベラの仲をもっとも深めさせようと思っているの」
その言葉を聞いた途端、フィラがなんとも表現できないような、不思議な顔をした。
「少々、言っている意味が分かりませんが」
「だから、ヴィンセント様とイザベラがもっと仲良くなったら、ヴィンセント様と私がこういう記事を書かれることもないでしょう。
そうなれば私は安心して暮らせるわ」
フィラはその美しい顔に似合わず、思い切りしかめっ面をした。
「冗談ですよね」
「いいえ。本気よ」
「冗談ですよね」
「いいえ。本気よ」
とてもいい案だと思うのだけど、どうしてフィラは賛成してくれないのかしら?
「いいいやややあああ!!」
これまたフィラには全く似つかわしくない、不思議な奇声を出して、フィラはエレノアの手を握った。
「嘘だとおっしゃってください!
もしくは、一瞬の気の迷いだと!!」
「私は本気よ」
フィラはエレノアの目を真っ直ぐに見つめた。
似つかわしくないしかめっ面をしたり、奇声を出したとしても、フィラの顔は完成された人形のように美しく、エレノアは顔が赤くなるのを感じた。
「嫌です、絶対に嫌です。
イザベラが、今後ずっと王太子の隣にいるなんて、絶対に嫌です!!」
「フィラ、もしかして王太子のことを?」
「違います」
フィラはそのことについては、迷うことなく否定した。
「私はイザベラが大嫌いなのです!!
だいたい、エレノア様が婚約破棄をされた原因だって、イザベラが私のドレスについて、常識では考えられないような事を言ってきたからではないですか。
そんな性格が悪くて、常識もない人が王太子のそばにいたとしても、つけ上がるばかりで良いことなど一つもありません」
「そうかしら。
でも、王太子のそばにいて、支えていけば、変わるかもしれないわよ」
「エレノア様は人が良すぎます。
イザベラに限って、そんなことは絶対にありません!」
あの大人しいフィラが、ここまで言うのだ。
何かしらの根拠もあるのだろう。
エレノアは小さくため息をついた。
せっかくいい案だと思ったのに……。
エレノアの計画は、最初から暗礁に乗り上げてしまった。
食事の間中ぷりぷりと怒り続けるフィラをなんとかなだめ終わると、エレノアは図書館へ来た。
学園の図書館は国で二番目に大きい。
そこには専門書から、学園内で発行された小さなリーフレットまで、ありとあらゆるものが収集されていた。
なのでもしかしたら、過去の『ザ・オブザーバー』もあるのではないかと、エレノアは思ったのである。
エレノアがどうして記事に書かれるのかはわからないが、過去の記事を読むことで、そのヒントが隠されているかもしれない。
図書館司書に問い合わせてみると、『ザ・オブザーバー』は創刊から収集されていた。
創刊が十年前ということだから、なかなか歴史のある新聞らしい。
エレノアは過去三年分の新聞を出してもらい、机の上に運んだ。
三年前。
ちょうど今の編集長のルーカスが関わり始めたと思われる時期から調べ始めた。
三年分と言っても、四面しかないので、かなり薄い。
見出しだけたどれば、一紙があっという間に読めてしまう。
エレノアは気になる見出しだけを追って、どんどん読み進めていった。
約一年分を読んだところで、少し休憩に入る。
ここまで読んでも分かったことは、強い政治的な意見を主張するような新聞ではないということだ。
もともと平民や階級が低い貴族が編集に携わっているということなので、貴族を揶揄するようなところや、生徒同士とは言え高位貴族のゴシップも絡ませてある。
しかしそれも必要以上に個人を追いかけるものではなく、次の号で続けて取り上げられることは無かった。
しかし数ヶ月連続で記事になっているものもある。
そこには多少意図的なものを感じた。
例えば、王都に新しくできたカフェについて記事にしているが、これを読めば行ってみたいと興味を引かれるもので、まるで宣伝しているようにも考えられる。
そんな視点に立ってみると、数ヶ月に渡っている記事は、依頼者がいて、その依頼内容にそって意図的に読者の意識を誘導させているような気もする。
もしこの考えが合っているとしたら、私の記事も、誰かに依頼されたものなのかしら?
休憩したおかげで少し頭がスッキリとしたエレノアは残りを読み始めた。
※本作品は、ChatGPTなどのAIを補助ツールとして活用し、誤字脱字の確認や文章表現の整理を行っています。世界観・設定・ストーリー・登場人物はすべて作者によるオリジナルです。
※本作品は「カクヨム」と「小説家になろう」で同時連載しています。掲載内容は基本的に同一ですが、更新日時が前後する場合があります。




