13
何が起こったの?!
サロンまでの回廊を歩きながらエレノアは鳴り響く鼓動を押さえようと必死だった。
婚約者だったときも、抱きしめられたことなんてなかった。
そもそも、そんな関係ではなかったのに、ヴィンセントに何が起こったの?
思わず逃げ出してしまったけれど、もう少し落ち着いて話をしたほうがよかったのだろうか?
とてもできそうには無いけれど……。
向かい側から、ローガンとイングリッドがやってくる。その姿を見たエレノアは思わずホッとした。
「大丈夫ですか?」
ローガンは慌ててエレノアに走り寄る。
「……大丈夫です。心配をおかけしてすみません」
ローガンの側にいると、ほっとして落ち着いてきた。
俯いて軽く呼吸を整える。
そんなエレノアの髪に触れ、ローガンはエレノアの顔がよく見えるように耳にかけた。そして顔をのぞき込む。
「顔が赤いようですけど」
その距離の近さに、再び緊張して思わずエレノアは後ずさった。
ち、近い……。
そんな二人の様子を見たイングリッドが思わず苦笑する。
「ローガン、エレノア様が困っている」
そう言われて、ローガンはハッと気がついた。
「すみません」
すっかり恐縮する様子から、ローガンがエレノアのことを心配しての行動だったということが伝わってきた。
そんな彼に要らない心配はさせられない。
「いえ、何でもないの」
エレノアは少し距離を取る。
「エレノア様、申し訳ない。
弟は気が利かないやつで」
「そんなことはないですよ。
ローガン様にはいつも助けていただいています」
エレノアはローガンを見て笑顔を浮かべた。表情はあまり見せないが、その誠実な行動は好感が持てる。
最初からどんなときも変わらぬ態度で接してくれて、それだけでエレノアの気持ちはどんなに助けられたことか。
彼が同期生でいてくれて、良かったと心から思う。
それよりも、とエレノアはイングリッドを見た。
「イングリッド様、せっかくお時間をいただいていたのに、すみません」
申し訳なさそうにするエレノアに、イングリッドは笑顔を浮かべた。
「次は当家にいらしてください。
そこでゆっくり話しましょう」
「はい。ありがとうございます」
エレノアも柔らかい笑顔を浮かべた。
次があることが嬉しい。
「そろそろ午後からの授業の準備では?」
その言葉にエレノアはあっと口を抑える。
「そうですね。
ではイングリッド様、またお会いしましょう」
エレノアは軽くお辞儀をして、二人の前から去っていった。
後ろ姿を見ながら、イングリッドは弟をちらりと見る。
弟はエレノアが角を曲がり姿が見えなくなるまで、その背中を目を細めて見守っていた。
そんな優しい表情を姉として初めて見た。
「可愛らしいお方だな」
思ったままの感想を口にする。
姿、顔立ちだけを言えば、エレノア以上に美しい令嬢はいるだろう。
しかしエレノアの魅力はそこではない。
幼い頃から磨き抜かれた気品。
令嬢では珍しいひたむきさ。
そして、裏表のない性格とそれが現れた表情だろう。
同じことを、隣の弟が思っているかは、わからない。
しかしあまり話をしない弟は、ぽつりと本音を漏らす。
「ああ。目が離せないんだ」
その幸せそうな顔に、イングリッドは思わず笑顔になった。
「それはそれは」
ローガンはイングリッドを見た。
端正な顔立ちにも関わらず、女性にまったく興味を持たなかった弟の中で、何かが変わり始めているのだろう。
思わずにやけるイングリッドを、ローガンは気味悪そうに見た。
そんなローガンの脇腹を、イングリッドが思い切り肘で突く。
脇腹を押さえる弟をほおって、イングリッドは歩き出した。
今日は城で夜の警護がある。同僚たちにも、いい土産話ができたと、一人含み笑いを浮かべて帰っていった。
※本作品は、ChatGPTなどのAIを補助ツールとして活用し、誤字脱字の確認や文章表現の整理を行っています。世界観・設定・ストーリー・登場人物はすべて作者によるオリジナルです。
※本作品は「カクヨム」と「小説家になろう」で同時連載しています。掲載内容は基本的に同一ですが、更新日時が前後する場合があります。




