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数日後エレノアは突然ガレスに呼ばれて、ガレスの教務室に向かっていた。
理由はなんとなく予想がつく。
あの記事が原因でどうも騎士科の生徒と上手くコミュニケーションができていないからだろう。
気にしなければいいのだろうけれども、相手に迷惑がかかるかもと思うと、思うように会話が続かない。
相手も気にしているのか、エレノアが意識しすぎているのか、ぎこちなくなってしまうのだ。
もしも、騎士科を辞めるように言われたら、どうしよう。
不安を抱えて、エレノアはノックをして部屋に入る。
ソファーに座っていたガレスは、向かいに座っていた凛々しい女性を立たせた。
彼女はエレノアを見るとほほ笑んだ。凛々しい顔が少し和らぐ。
それを見て、エレノアの緊張も少しほぐれた。
「エレノア。姪のイングリッドだ」
「イングリッド・ハワードです」
イングリッドはエレノアに美しく礼をした。その姿に一瞬見惚れるが、それ以上に驚いたのは彼女の服装だった。
彼女は近衛兵の制服だった。
「ローガン様のお姉様?」
「ええ。弟がいつもお世話になっております」
エレノアは思わず両手で口を覆った。
憧れの女性騎士に初めて会えた喜びで、エレノアは動けないでいた。
そんなエレノアをガレスは微笑ましく見た。
「まあ、二人とも座れ」
イングリッドはガレスの隣に移動して座る。
エレノアは二人の向かい側に座ることになった。
二人が座ると、学園執事がお茶を運んできて、新しく置き直した。
「初めましてイングリッド様。
お会いできて光栄です」
「私もです。あなたのことは、ローガンからよく聞いています」
イングリッドとエレノアは笑顔で挨拶を交わす。
「ローガン様にはいつも稽古をつけていただいていて」
「まだまだ未熟者ですが、お役に立てているのであれば光栄です」
ハキハキとしたイングリッドの喋り方は、思わず性別を忘れてしまう。
「でも、どうしてイングリッド様がこちらに?」
ガレスはちらりとイングリッドを見た。
「弟から、エレノア嬢が困っていると聞きまして。
僭越ながらお話を伺いに来たのです」
「まあ、私のためにわざわざ?」
エレノアは驚いた。
「ええ。お役に立てるかどうかわかりませんが」
ローガンの心遣いにエレノアは胸を押さえる。
「ありがとうございます」
思わず笑顔で返事をした。イングリッドは一瞬息を飲み、そして肩をすくめた。
「これは叔父様も大変ですね」
イングリッドは苦笑した。
「ああ。どうしたものかと、俺も考えている」
二人の会話にエレノアは不安になった。
やっぱり、騎士には向いてないのかな。
エレノアの雰囲気を察して、イングリッドは慌てる。
「叔父に聞いたところ、エレノア嬢は大変優秀だと聞いています。
特に剣術は、中の上あたりの実力はあると。
男性との体格差を考えれば、かなりの腕前だと思われます。
さすがは幾人もの優秀な騎士を輩出している名門、アルディス家のご令嬢ですね」
「そんな。お恥ずかしいです」
首を少しかしげて、エレノアは恥じらう。
「けれども、少々可愛らしすぎますね」
エレノアは驚いてイングリッドを見た。
そんなことを言われたのは初めてだった。
「ご冗談を……。そんなことを、言われたことはありませんし……。
どちらかと言えば、可愛げがないほうかと」
騎士を目指すことも、王太子に意見ばかりしていたことも。
少しでも可愛げがあれば、ヴィンセントがイザベラに熱を上げることもなかっただろう。
とはいえ、エレノアはイザベラがするように、男性のそばで上目遣いはできない。
あの行動は、イザベラのような美少女ではないと、似合わないとも思っていた。
そもそも、騎士を目指しているエレノアに、可愛らしいという言葉は似合わないとも思った。
「エレノア様はおそらく自分で思っている以上に魅力的ですよ」
同性に言われているとはいえ、顔が赤くなる。
「おそらく、そこが問題なのでしょうけれど」
エレノアは目を伏せた。
両手を組み、無意識のうちに手を動かす。
「私は真剣に騎士を目指しているのに、新しいパートナー探しをしているのではないかと思われているようで、心外なんです」
エレノアはしょんぼりと話した。
「で、騎士科の生徒の中にも、その噂を鵜呑みにして密かに浮かれているやつが、少なからずいるわけだ」
ずっと黙っていたガレスが口を開く。
「まったく、身の程をわきまえない者もいるものだ。
しかし、実際、女性騎士というのは注目されやすいんです。
なかには貴族たちから常に言い寄られる美しい女性もいらっしゃるので」
そんなに珍しくは無いのですよと、言外にイングリッドが言うので、エレノアは驚いた。
確かに、目の前のイングリッドも、ドレスを着て淑女らしくすれば、多くの男性の注目を集めることだろう。
「しかし男性の騎士は私たちが真摯に仕事に向き合っていると知っているので、仲間として付き合いをしてくれています。
なので騎士になれたとしたら、あなたが困るようなことはないでしょう。
しかし騎士科の生徒は、志は高くても未熟な者もいますからね」
未熟か……。
確かに彼らはまだ学生だ。異性に対して興味を持つ年頃なのだから、仕方がないのかもしれない。
頭ではわかった。
しかし気持ちがついていかない。
「私は……仲間として、向き合いたいのですが……」
「そのお気持ちはわかります。
しかし難しいのが、現実です。
ですが、恋人がいると思われるだけで話は変わってきます」
恋人?
騎士科のストイックなイメージから離れている言葉に、エレノアは驚いた。
「恋人って、どういうことでしょう?」
「偽の恋人でいいんです。
実際、恋人がいれば余計な噂や誘いは減りますからね」
まさかそんなことを勧められるとは思わず、エレノアはガレスを見た。
しかしガレスは驚くことなく、頷いている。
イングリッドは口元を緩めた。
「何なら、弟でもお貸ししましょうか?」
「と、とんでもないです!」
エレノアの反応が面白かったらしく、イングリッドは声を上げて笑った。
「それは残念だ。弟なら喜んで受けると思ったのですが」
「ローガン様にご迷惑をかけることはできません!」
イングリッドは紅茶を一口飲んだ。
そして真っ直ぐにエレノアを見つめた。
澄んだ瞳が強く光る。
「しかし、不愉快なものですよね。
男性が騎士を目指すのは当たり前なのに、女性が目指すとなると、とたんに変わり者扱いをされてしまう。
私たちの先輩たちも、いろいろな誤解を受けながら、苦労して騎士になりました。
我慢ばかりしていたら、体が持ちません。エレノア様も嫌なことがあれば、いつでもお話しを聞かせてください」
女という性。
美しい容姿。
もしかしたら、イングリッドも同じように悩んでいたのかもしれない。
イングリッドは自らの苦労話はしない。
だけれども、今、エレノアが感じている理不尽さを乗り越えて、騎士になったのかもしれない。
そう思うと、エレノアはイングリッドの存在が心強く思えた。
そして同じように悩んでいた先輩を知れただけでも、心が軽くなった。
騎士を目指す女性はめずらしい。
今の騎士科の中にもエレノアしかいない。
だからこそ受ける偏見や思わぬ非難を乗り越えた先輩たちがいることは、エレノアに大きな勇気を与えてくれた。
偏見はなくならないかもしれない。
だけれども、頑張れる気がするわ!
「ありがとうございます、イングリッド様。
私、頑張ります!」
エレノアの言葉に、ガレスとイングリッドは優しく頷いた。
※本作品は、ChatGPTなどのAIを補助ツールとして活用し、誤字脱字の確認や文章表現の整理を行っています。世界観・設定・ストーリー・登場人物はすべて作者によるオリジナルです。
※本作品は「カクヨム」と「小説家になろう」で同時連載しています。掲載内容は基本的に同一ですが、更新日時が前後する場合があります。




