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「エレノア様、最近元気がないですね」
「そう? そんなこと無いけれど」
お昼休憩の時間にフィラはエレノアを心配そうに見つめている。
「本当に、大丈夫よ。
それよりも、フィラは大丈夫? 私と一緒にいてつらいこととかないの?」
「以前も言いましたけど、私はエレノア様と一緒にいることが楽しいのですから、心配しないでください」
本当に怒られそうなので、エレノアはそれ以上は何も言わなかった。
だけどそんなふうに言ってくれることが、嬉しかった。
そんなとき、がさがさと音がしたかと思うと、木の陰から女生徒が現れた。
彼女はエレノアとフィラの顔を見て驚いた。
「あら? あなたは隣のクラスのアンリさん」
「エレノア様、フィラさん。
こんなところで何をしているのです?」
「私たち、お昼はいつもここで休憩をしているのよ」
顔見知りらしく、フィラが答えた。
「それよりも、アンリは何をしているの?」
「それが、髪留めを落としてしまって……」
「どんな髪留めなの?」
「楕円形の形で、蝶の模様がついているんです」
大切なものだろう、しょんぼりとアンリは答えた。
「私も探すわ」
「いえ、エレノア様にお手伝いをしてもらうなんて」
「いいのよ。気にしないで」
フィラはアンリをエレノアの前に座らせた。
「その髪留めはいつ落としたの?」
「一昨日です。友だちともう少し奥にいたときは確かにあったのを覚えているんです。
外れてしまったので、スカートのポケットに入れたと思っていたのですが、家に帰ったときに無いことに気がついて」
「気がついたのが夜だったら、校内で落としたってこともあるんじゃない?」
「エレノア様、それなら、学園執事やメイドたちが掃除をしたときに気がつくのでは?」
確かにとエレノアは納得した。
王立のこの学園では、学園執事やメイドによってピカピカに掃除をされている。教室やサロンは特に塵一つもない。
そんなところに落としたのであれば、すぐに見つかるだろう。
「落とし物として見つからなかったのね」
「昨日、朝と夕方に落とし物が無かったか聞いてみたのですが……」
「それなら、中庭から奥のこの辺りが怪しいのね」
アンリは頷いた。
「だいたいの場所でいいから、詳しい場所を教えてほしいんだけど、何か書くものでもあれば……」
「それなら私が」
フィラはバスケットの中からノートとペンを取り出した。
そこに中庭と今いる位置の絵を書く。
「フィラ、絵がうまいのね」
「ふふふ。ありがとうございます。
それではアンリ、どのあたりが丸をつけて」
アンリは言われたままに丸をつける。
中庭の少し奥から今いる場所を通り過ぎて、少し奥のあたりまで、結構な範囲を丸で囲んだ。
これを一人で探すのは、大変だろう。
「それにしても、どうしてこんな奥で何をしていたの?」
何気なく口にした質問にフィラはエレノアの袖を引っ張って、ささやく。
「それは二人で会っていたからですよ」
「でも、友だちって……」
「エレノア様、鈍感すぎます」
ちらりとアンリを見ると、顔がほのかに赤くなっていた。
エレノアは改めて咳払いをした。
「とにかく、このあたりを手分けして探しましょう」
三人はだいたいの場所を決めると、各場所に別れた。
エレノアはアンリが一度見たという、中庭から奥へ行く場所を担当した。一度は見たと言っても、探す人が変わると見つかることもある。
中庭から下を見たり、垣根をかき分けて探した。
こういうのって、転生前を思い出すわ。
駐在所にいたときを思い出して懐かしく思う。感慨にふけっていると、突然声をかけられエレノアは驚いて振り返った。
「何をしているんだ?」
金髪が風に揺れてきらきら光っている。
そのイケメンっぷりに、エレノアは思わず顔をしかめた。
「ヴィンセント様」
エレノアはスカートに付いた草を振り払いながら立ち上がると、形ばかりのお辞儀をする。
「ヴィンセント様こそ、何をしているのです?」
「僕だって散歩ぐらいするさ」
それは自由だけど、声をかけなくてもいいじゃない。
先日、ひどいことを言ったのは、もしかして記憶にないのだろうか?
不信感が思いっきり顔に出る。
「で、何をしてるんだ?」
「友人の探し物を手伝っています」
ふうんとヴィンセントは気のない返事をする。
「ヴィンセント様には関係ないので、気にしないでくださいね。
それでは」
「手伝ってやる」
はあ? と思わずエレノアはヴィンセントを見た。
「どんなものを探しているんだ? 暇だから手伝ってやる」
「いえいえ、ヴィンセント様のお手を煩わせることでは」
「そういうのいいから、早く教えろ」
言い出したら聞かないことは、エレノアもよく知っていた。
エレノアはため息をつくと、しかたなく髪留めについて話をした。
二人で手分けをしながら木陰を探す。
そういえば、こんなふうに同じことをするなんて、初めてではないだろうか。
どういう気持ちの変化かは分からないし、何を考えているのかも分からない。
婚約破棄したのだから、ほっておいてくれたらいいのにと、エレノアは思った。
「なかなか見つからないな。
そろそろ午後の準備をしないと、遅れるんじゃないのか?」
「ええ。でももう少し……」
「どうしてそんなに一生懸命探すんだ?」
「だって、大切なものみたいですもの。
どうにか見つけてあげたいんです」
「相変わらず、お節介だな」
ヴィンセントの言葉にエレノアはむっとする。
「申し訳ございません。
でも、ヴィンセント様には、もうお節介はしませんので、安心してください」
「……」
その言葉にヴィンセントの返事はなかった。
なんだか調子がくるって、エレノアはヴィンセントを見るが、背中を向けていたので、彼が何を考えているかは分からなかった。
「これじゃないのか?」
しばらく探していると、ヴィンセントがエレノアに髪留めを渡す。
それはアンリが言っていたのと同じく、楕円形で蝶の模様がついている。
「これで間違いないわ! ヴィンセント様、ありがとうございます」
エレノアは嬉しくて思わずヴィンセントに微笑みかけた。
それを見たヴィンセントは一瞬言葉を失い、顔を逸らせた。
「……そんな顔、他の男に見せるな」
「はい?」
「おかしくなるから……」
私の顔が見ていられないってこと!?
エレノアは怒りを抑えて、冷静に伝えた。
「ヴィンセント様、今日のことはお礼申し上げますが……、もう一度言います。二度と私に近寄らないでください!!」
エレノアは怒りのままに、ふんと横を向いて歩き出す。
「エ、エレノア」
ヴィンセントが呼び止めようとしていたが、聞こえないふりをした。
エレノアの背後でヴィンセントが、頭を抱えていたことに、エレノアはまったく気がついていなかった。
アンリとフィラのところへ行き、エレノアは見つけた髪留めを見せた。
「これで間違いありません! エレノア様、ありがとうございます」
アンリは髪留めを大切そうに胸に抱えた。
その仕草からも、どれほど大切にしていたか伝わってきた。
「何かお礼を」
「いいのよ。アンリが喜んでいる顔が見られたことが一番嬉しいのだから」
アンリは何度も頭を下げながら、嬉しそうに帰って行った。
「よかったですね。見つかって」
「本当」
やっぱり、私、人が喜ぶ顔が好きだわ。
前世でも、少しでも人の助けになりたくて、警察官という職業を選んだ。
今の世界はまったく同じ職業は無いけれど、騎士になることで、誰かを守れる立場にはなれるはず。
頑張ろう。
エレノアの胸につよい思いが生まれていた。




