第六章 捜査
タッカーが殺害された翌日。
リーベルタース首都、冒険者ギルド。
昼過ぎの広間は、酒と汗と喧騒に満ちていた。依頼掲示板の前では冒険者たちが群がり、テーブルでは食事と酒が同時に進んでいる。
その空気の中に、場違いな存在が現れる。
衛兵隊長アルフレッド・ラルストンと、その部下たちだった。
ざわめきが一瞬だけ弱まる。
ラルストンは構わずカウンターへ進む。
「道具屋殺しの件で聞き込みをさせてもらう。凶器は剣だ。剣を持ってる奴を全員集めてくれ」
要点だけを短く伝える。
受付は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「……承知しました」
やがて、剣を帯びた冒険者たちが呼び集められる。
数はそれなりにいる。
顔ぶれもばらばらだ。
ラルストンは順番に視線を流す。
「昨晩の行動を聞く。順番に答えろ」
最初の男が前に出る。
「ローレンツ・ラングハイム。戦士だ」
「昨晩は何処にいた?」
「家で飲んで寝た。証人は妻と子供だ。住所教えるから聞いてみてくれ」
「分かった。ちょっと剣を抜いて見せてくれ」
ラングハイムは剣を抜く。
ラルストンは刃を一瞥する。
「血糊は……付いてないようだな。まぁ拭き取って綺麗にした可能性もあるが。次、お前だ」
次の男が出る。
「アベル・ドルレアク。聖騎士だ。昨日の夜はパーティーメンバーと一緒に依頼人の護衛をしてた。証人はパーティーメンバーと依頼人だ」
「アリバイは確実そうだな。一応、剣を見せてくれ」
ドルレアクは剣を抜いてみせる。
「よし、次」
三人目。
「ヴァリオ・カウトネン。剣士。昨日は家で一人だった」
「アリバイは無しか……。剣を見せてくれ」
カウトネンは剣を抜く。
ラルストンは刃を見て、わずかに眉を動かした。
「細いな……剣はそれ一本か?」
「ああ。これだけだ」
「これは傷口とは合わないな。凶器じゃない」
短く断じる。
「よし、次」
同じやり取りが続く。
名前、職業、アリバイ、そして剣。
だが決定的なものは出ない。
その時――ギルドの入口が開いて一人の男が入ってくる。
ラルストンがすぐに声をかけた。
「おい!そこのお前!道具屋殺しの件で捜査をしている。聞きたいことがあるからちょっとこっちへ来てくれ」
男が足を止める。
その様子を見て、ラングハイムが肩をすくめる。
「そいつに話を聞くだけ無駄だぜ」
ラルストンが眉を寄せる。
「どういうことだ?」
「そいつはレイモンド。俺と同じ戦士だがレベルはたったの“5”だ。人どころかジャイアントスラッグすら殺したことないと思うぜ」
ラルストンがわずかに目を細める。
「あんな防御力も低く動きも遅い魔物をか?」
ラングハイムが笑う。
「ああ。聞いてみなよ」
男――レイモンドが口を開く。
「ジャイアントスラッグくらい倒したことあるぞ」
ラルストンが一歩近づく。
「一応、聞こう。名前と職業は?」
「レイモンド・センターヴィレッジ。職業は戦士だ」
「レベル5っていうのは本当か?」
レイモンドは首にかけている認識票を見せる。
ラルストンはそれを確認する。
「レイモンド・センターヴィレッジ。レベル5 戦士……確かに。年齢は?」
「42歳」
ラルストンは一瞬だけ言葉を失う。
「40過ぎて基本職のレベル5って駆け出し冒険者並みじゃないか。何か事情があるのか?」
「特に無いが」
間髪入れない答えだった。
ラングハイムが口を挟む。
「そいつは冒険者と言いながら、配達や土木工事とか、そんな依頼しか受けてないからな。そりゃレベルも上がらんさ」
ラルストンがレイモンドを見る。
「そうなのか?」
「ああ。まぁそんなとこだ」
気の抜けた返答だった。
「剣を見せてくれるか?」
レイモンドは腰の短剣を抜く。
ラルストンはそれを受け取り、刃を確認する。
「……大した仕事を受けてない割には……使い込まれてるな」
わずかな違和感。
だが、すぐに返される。
「中古で買ったからな」
「昨晩はどこで何をしていた?」
レイモンドは周囲を見渡す。
「おーい!バーナビー、ハミルトン、ちょっとこっちに来てくれ」
呼ばれた二人が近づいてくる。
「どうした?」
レイモンドが顎で示す。
「昨日の事を話してくれ」
バーナビーが答える。
「昨日はこいつは俺たち二人と隣りの酒場で朝まで飲んでたよ」
ハミルトンも頷く。
「ああ。間違いない。席を立ったのは小便の時くらいで、あとはずっと一緒にいたよ。酒場の店主も覚えてるはずだ」
ラルストンは短く息を吐く。
「そうか。分かった」
短く頷く。
「面倒をかけたな。道具屋殺しの件で何か情報があれば衛兵詰所に知らせに来てくれ」
それだけ言うと、踵を返す。
「行くぞ」
衛兵たちが動き出す。
ラルストンは振り返らない。
そのまま、冒険者ギルドを後にした。




