表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第五章 痕跡

 翌日。

タッカー道具店。

入口には黒布が掛けられ、扉は閉ざされていた。普段なら開店している時間だが、人の出入りはない。通りを行き交う者たちも足を止めては、低い声で何かを言い合っている。

「本当らしいな……」

「河原で見つかったって話だ」

「いい人だったのに……」

断片的な言葉だけが、曖昧な形で広がっていく。

その中を、一人の男が歩いてきた。

革鎧職人のアクセル・ハイド。

足を止め、黒布を一度だけ見上げる。表情は変わらない。

軽く、扉を叩く。

しばらくして、内側から足音が近づいてきた。

扉がわずかに開く。

「……何か」

現れたのは、若い男だった。

目の下には濃い影があり、声にも疲労が滲んでいる。

アクセルは静かに名乗る。

「革鎧職人のアクセル・ハイドです。ご注文いただいていた品を」

それだけで、若い男は理解したように頷く。

「ああ……父が」

言葉が途中で止まる。

一瞬の沈黙。

扉がさらに開かれる。

「……中へどうぞ」

アクセルは無言で頷き、店内に入る。

中の様子は、昨日と大きくは変わらない。棚には商品が並び、道具も整然と置かれている。だが、人の気配が一つ欠けただけで、空間は別物のように感じられた。

若い男が口を開く。

「ジェフリー・タッカーの息子のマイク・タッカーです。父は……早朝、遺体で見つかりました」

その言葉は、どこか他人事のようにも聞こえた。まだ現実として受け止めきれていないのだろう。

アクセルは短く頷く。

「そうですか……お悔やみ申し上げます」

それ以上は何も言わない。

持ってきた革袋を机の上に置く。

「ご注文の品の見本です。」

マイクは袋を開け、中身を確認する。丁寧な仕上がりだった。だが、その出来を評価する余裕はない。

「……ありがとうございます」

形式的な言葉だった。

アクセルは軽く頷く。

「取り扱っていただけるなら、この見本と同等のクオリティの物を納品させて頂きます。今日はお取込み中のようですので、これで失礼いたします」

それだけ言うと、踵を返した。

「お代は……」

マイクが言いかける。

アクセルは振り返らない。

「それは見本ですから不要ですよ」

短く、それだけを残して店を出た。

扉が閉まる。

通りの音が戻る。

店を出たアクセルは、そのまま歩き出す。

足取りは変わらない。

何事もなかったかのように、歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ