第五章 痕跡
翌日。
タッカー道具店。
入口には黒布が掛けられ、扉は閉ざされていた。普段なら開店している時間だが、人の出入りはない。通りを行き交う者たちも足を止めては、低い声で何かを言い合っている。
「本当らしいな……」
「河原で見つかったって話だ」
「いい人だったのに……」
断片的な言葉だけが、曖昧な形で広がっていく。
その中を、一人の男が歩いてきた。
革鎧職人のアクセル・ハイド。
足を止め、黒布を一度だけ見上げる。表情は変わらない。
軽く、扉を叩く。
しばらくして、内側から足音が近づいてきた。
扉がわずかに開く。
「……何か」
現れたのは、若い男だった。
目の下には濃い影があり、声にも疲労が滲んでいる。
アクセルは静かに名乗る。
「革鎧職人のアクセル・ハイドです。ご注文いただいていた品を」
それだけで、若い男は理解したように頷く。
「ああ……父が」
言葉が途中で止まる。
一瞬の沈黙。
扉がさらに開かれる。
「……中へどうぞ」
アクセルは無言で頷き、店内に入る。
中の様子は、昨日と大きくは変わらない。棚には商品が並び、道具も整然と置かれている。だが、人の気配が一つ欠けただけで、空間は別物のように感じられた。
若い男が口を開く。
「ジェフリー・タッカーの息子のマイク・タッカーです。父は……早朝、遺体で見つかりました」
その言葉は、どこか他人事のようにも聞こえた。まだ現実として受け止めきれていないのだろう。
アクセルは短く頷く。
「そうですか……お悔やみ申し上げます」
それ以上は何も言わない。
持ってきた革袋を机の上に置く。
「ご注文の品の見本です。」
マイクは袋を開け、中身を確認する。丁寧な仕上がりだった。だが、その出来を評価する余裕はない。
「……ありがとうございます」
形式的な言葉だった。
アクセルは軽く頷く。
「取り扱っていただけるなら、この見本と同等のクオリティの物を納品させて頂きます。今日はお取込み中のようですので、これで失礼いたします」
それだけ言うと、踵を返した。
「お代は……」
マイクが言いかける。
アクセルは振り返らない。
「それは見本ですから不要ですよ」
短く、それだけを残して店を出た。
扉が閉まる。
通りの音が戻る。
店を出たアクセルは、そのまま歩き出す。
足取りは変わらない。
何事もなかったかのように、歩き続けた。




