第四章 最初の殺し
翌日の昼。
タッカー道具店。
店内には、昼の光が柔らかく差し込んでいた。棚には整然と道具が並び、回復薬や解毒剤等のポーション類、松明やランプ、様々な鍵やアイテム入れ等、細かな装備品が用途ごとに分けられている。派手さはないが、手入れの行き届いた店だった。
「タッカーさん、依頼されてた革鎧の修理、終わりましたよ」
入口のベルが鳴り、革鎧職人のアクセル・ハイドが入ってくる。手には包まれた革鎧。
ジェフリー・タッカーは顔を上げ、穏やかに笑った。
「ありがとうございます」
包みを受け取り、丁寧に開く。
修理された革鎧を手に取り、角度を変えて眺める。指で縫い目をなぞり、強度を確かめる。
「流石、リーベルタース一の革鎧職人だ。見事な出来栄えです」
アクセルはわずかに頭を下げる。
「ありがとうございます」
タッカーは革鎧をしまいながら言う。
「ハイドさん。革製の雑嚢やアイテムポーチなんかも作れますか?」
アクセルは即答する。
「出来ますよ」
タッカーは頷く。
「今度、見せて下さい。良ければウチで取り扱いたいと思いますので」
「ありがとうございます。二、三日中に持ってきますよ」
「お待ちしてますね」
その夜。
コンラッド・ヘリオットの屋敷。
通りは静まり返り、人影もまばらだった。
ジェフリー・タッカーは、扉の前に立ち、軽く叩く。
「どうぞ」
すぐに返事があった。
扉を開ける。
室内は落ち着いた灯りに包まれている。
「お呼びという事で参上しました」
タッカーが頭を下げる。
奥にコンラッド・ヘリオット。
その少し後ろにモーガン・エルナンド。
そして壁際にはロドルフォ・カルリーニが立っていた。
タッカーは特に気にする様子もなく、ヘリオットへ向き直る。
「それで、ご用件は?」
ヘリオットは一歩だけ近づく。
「値上げの件だ。もう一度だけ確認したい」
タッカーは頷く。
「……はい」
「どうしても、賛成できないか」
タッカーはわずかに息を吐いた。
「申し訳ありませんが、できません」
静かな声だったが、迷いはなかった。
エルナンドがわずかに視線を逸らす。
口を開きかけたが、何も言わない。
一瞬の沈黙。
ヘリオットはそれ以上言葉を重ねない。
ただ、視線を横へ流す。
「仕方ないな……ロドルフォ」
その一言で、空気が変わる。
ロドルフォ・カルリーニが一歩前に出る。
その動きは、静かすぎた。
タッカーが違和感を覚えたのは、その瞬間だった。
だが、遅い。
ロドルフォの手がすでに剣を抜いている。
踏み込み。
迷いのない刺突。
刃が胸を貫く。
タッカーの体がわずかに揺れる。
「……っ」
声にならない音が漏れる。
目を見開いたまま、何かを言おうとする。
だが、言葉にはならない。
ロドルフォは剣を引き抜く。
血が静かに床へ落ちる。
タッカーの膝が崩れ、そのまま前のめりに倒れた。
音は、小さかった。
部屋の中は、すぐに静けさを取り戻す。
エルナンドは、その光景を見下ろしたまま動かない。
その顔にはわずかな強張りが残っている。
ヘリオットは倒れた体を見下ろす。
表情は変わらない。
「……ロドルフォ、始末しておけ」
それだけだった。
「河原にでも棄ててきます」
ロドルフォは剣の血を拭い、外を警戒しながら遺体を運び出す。




