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第十一章 仕事

 その日の夜。

街外れの廃教会。

崩れかけた壁。割れた窓。

風が吹き込むたび、古びた木が軋む。

誰もいない――はずの空間。

その奥に、ひとつだけ灯りがあった。

揺れる蝋燭の炎。

その明かりが、修道女エダ・ウィンストンの姿を照らしている。

静かに口を開く。

「今回、殺る相手は都市評議会長のベネディクト・パターソン、道具屋ギルド長のコンラッド・ヘリオット、ギルドメンバーのモーガン・エルナンド、ヘリオットの用心棒ロドルフォ・カルリーニの四人。依頼料は金貨四枚」

短く、正確に。

デクスターが肩をすくめる。

「一人金貨一枚か。まぁまぁだな」

エダは燭台の横に金貨を4枚並べる。

金属音が、乾いた音で響く。

それぞれが無言で一枚ずつ手に取る。

言葉はない。

確認もいらない。

役割は、すでに決まっている。

三人が外へ出る。

最後にエダが残る。

残った一枚の金貨を手に取る。

そして――

蝋燭の火を吹き消す。

闇が、すべてを包み込む。


 パターソン邸。

室内には灯りと酒の匂いが満ちていた。

ベネディクト・パターソン。

コンラッド・ヘリオット。

モーガン・エルナンド。

ロドルフォ・カルリーニ。

四人は卓を囲み、杯を傾けている。

「マイク・タッカーは早めに片付けるべきだな」

「会合の前に始末しておくべきでしたな」

そんな会話が交わされる。

油断。

それが空気に滲んでいた。

そのとき。

ドアをノックする音。

パターソンが顎をしゃくる。

「ロドルフォ。ちょっと見て来い」

「分かりました」

カルリーニが立ち上がる。

扉を開け外を見る。

少し離れた場所に、修道女が立っている。

カルリーニは近づく。

「おい」

修道女が振り返る。

その顔を見た瞬間、カルリーニの表情が緩む。

「良い女じゃないか」

エダが一歩近づく。

「ねえ、抱いて……」

カルリーニは笑う。

「良いぜ」

腕を広げ、抱き寄せる。

その瞬間。

エダの手が動く。

カルリーニの背中に回した手で、聖書を開く。

ページはくり抜かれている。

中に仕込まれたダガー。

迷いはない。

取り出したダガーをカルリーニの背中に素早く突き立てる。

「うっ……」

刃が背中から心臓へ。

カルリーニの体が硬直する。

力が抜け崩れ落ちる。

音は、ほとんどしない。

エダはダガーを抜くとカルリーニの服で血を拭う。

聖書の中に戻して閉じる。

何もなかったように。

そして静かにその場を去る。

 カルリーニが戻らない。

エルナンドが立ち上がる。

「……様子を見てきます」

外へ出て周りを見る。

その瞬間。

屋根の上で影が動く。

デクスター。

ブラシを外したチムニーボールを構え、投げる。

鎖が伸びる。

エルナンドの首に巻き付く。

「何だ!?」

声が上がる。

次の瞬間、引き上げられエルナンドの足が地面を離れる。

首が締まる。

手で鎖を掴む。

外れない。

もがく。

空気が入らない。

デクスターは無言で引き上げる。

力を込める。

エルナンドの動きが止まる。

手が落ち、首が折れるように傾く。

絶命。

デクスターはチムニーボールを引き戻す。

死体は落ちる。

鈍い音。

そのまま、屋根の向こうへ消える。

 音に反応し、ヘリオットとパターソンが外へ出る。

「どうした!?」

視線の先。

エルナンドの死体。

「何があった!?」

返事はない。

さらに少し離れ場所にカルリーニも倒れている。

異常。

明らかな異常。

二人がカルリーニの方へ駆け寄ろうとする。

その時、扉の陰に隠れていたアクセルが動く。

無音。

ヘリオットを後ろから襲う。

左手で口を塞ぐ。

右手に持った千枚通しをヘリオットの延髄に突き立てる。

ヘリオットの体が硬直する。

声は出ない。

崩れ落ちる。

アクセルは確認しない。

すでに分かっている。

そのまま影へ消える。

 パターソンは混乱している。

一緒にカルリーニの方へ駆け寄ったはずのヘリオットが傍にいない。

「ヘリオット!?」

ヘリオットはドアの近くに倒れている。

ロドルフォ。

エルナンド。

そして――ヘリオット。

「一体何が起こっているんだ……」

理解が追いつかないでいると足音。

ゆっくりと一人の男が歩いてくる。

「誰だ!?」

男は答える。

「通りすがりの冒険者です。どうしました?」

落ち着いた声。

腰には剣。

パターソンは縋るように言う。

「仲間が何者かに殺されたようなんだ……。冒険者だと言ったな?私は都市評議会長だ。金なら幾らでも出すから私の護衛をしろ。」

男は頷く。

「分かりました。お仲間が殺されたという事ですが、この一人だけですか?」

パターソンは振り返りドア付近に倒れているヘリオットとエルナンド方を指を差す。

「あそこにあとふた……」

背中に衝撃が走り、言葉が止まる。

ショートソード。

深く、正確に突き刺さる。

「な……?」

男の声が静かに響く。

「生憎、俺は戦士としてのレベルが低くて冒険者としては役立たずなんだ。しかし、アサシンとしてのレベルは99で暗殺するのは得意なんでな」

「地獄までの護衛をしてやるよ」

レイモンドが力を籠めショートソードを一層深く突き刺す。

すべてが終わる。

パターソンの体が崩れる。

レイモンドはショートソードを引き抜くと一振りして血を払い鞘に収める。

振り返らない。

そのまま歩き去る。

夜は、何事もなかったかのように静かだった。

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