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第十二章 余韻

 翌日。

リーベルタース首都。

朝の光は穏やかだった。

だが、街のあちこちでは昨夜の出来事が噂になっている。

都市評議会長の死。

ギルド長の死。

不可解な連続殺害。

誰も真相を知らないまま、ただ話だけが広がっていた。

マイク・タッカーは、革鎧職人アクセル・ハイドの工房を訪ねていた。

扉を叩くと中から声がする。

「どうぞ」

扉を開け中に入る。

革の匂いが漂う。

アクセルが手を止め、顔を上げる。

マイクが口を開く。

「ハイドさん」

アクセルは穏やかに応じる。

「マイクさん。どうしました?」

マイクは一歩近づく。

「貴方のお陰で恨みを晴らせました」

アクセルは首をかしげる。

「どういうことです?」

マイクは静かに言う。

「仕事人が動いてくれたみたいなんです」

アクセルは一瞬だけ間を置く。

そして、軽く頷く。

「そうでしたか。それは良かったですね。ジェフリーさんも浮かばれるでしょう」

マイクの表情がわずかに和らぐ。

「ええ。それでお礼をしようと思いまして……」

アクセルはすぐに首を振る。

「それには及びませんよ。報酬はもう受け取ってますから」

マイクが驚く。

「え?」

アクセルは作業台に置かれた革製品を軽く叩く。

「私の雑嚢とアイテムポーチをそちらで扱って頂けるという事なんで、それだけで十分です」

マイクは納得したように息を吐く。

「そう言う事ですか。それじゃ私の気がすみません」

アクセルは淡々と言う。

「私は噂を話しただけですから」

マイクは小さく頷く。

「そうですか……。それでは今後とも、納品の方、よろしくお願いいたします」

アクセルも頷く。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

それは、ただの商談のような会話だった。

それ以上でも、それ以下でもない。

 その頃。

パターソン邸の事件の現場検証を終えた衛兵隊長アルフレッド・ラルストンは、詰所へ戻る途中だった。

通りを歩く。

ふと、足を止める。

視線の先で一人の男が、ドブさらいをしている。

泥にまみれた手。

地味な作業。

どこにでもいる、下働きのような姿。

だが――

見覚えがあった。

ラルストンが声をかける。

「おい、あんた。この前、冒険者ギルドにいたよな?」

男が顔を上げる。

レイモンドだった。

「ああ。衛兵隊長さんか」

何でもない調子で答える。

ラルストンは眉をひそめる。

「あんた、本当にこんな仕事してるのか……」

レイモンドは肩をすくめる。

「ああ。」

短い返事。

ラルストンは周囲を一度見回す。

そして言う。

「こんなの、駆け出し冒険者の仕事だろ?」

レイモンドは淡々と答える。

「確かに。ただ俺は魔物との戦闘とかはガラじゃないし、レベル5の戦士じゃ大したことできないからな」

ラルストンはしばらくその顔を見る。

何も言わない。

やがて、軽く息を吐く。

「そうか……まあ、頑張れよ」

それだけ言って、歩き出す。

レイモンドはそれを見送らない。

すぐに視線を落とし、作業に戻る。

泥を掬い、捨てる。

ただ、それを繰り返す。

何も変わらない日常のように。

だが。

その手は、昨夜――

確かに人を殺していた。

レイモンドは黙々とドブさらいを続ける。

誰も気にしない。

誰も気付かない。

それでいい。

それが――

仕事人だから。

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