第21話 執事長アルセーヌ
夕暮れ時の静まり返った採掘場。
人っ子一人見えない、穴ぼこだらけの岩山に向かい合う。
「ここに反応がある。隠れてるみたいだけど、わんさかいるから油断するなよ」
「はい」
「了解ぢゃ」
マキマキは魔法少女ジュエリールに変身して、アグーも翼を出して応じる。
ボンベさんも馬車から降りて両手にナイフを逆手に持った。
ホントはさ、俺が一人でダッシュして来た方が早かったんだけど人質がいるからな。
俺は一歩踏み出して、スウっと息を吸う。
「ここにいるんだろうがぁ!! メインクーン公女を迎えに来たぁ! 穏便に済むに越したことはねぇ! 目的はなんだ!!」
叫んだ俺の声に反応したように、岩山の陰から鳥みたいな女が飛び出してきた。
「不躾だねぇ! 誰を迎えに来たって!?」
腕が翼だ。
「とぼけんなよ! いるのは分かってんだ!」
「ふうん。魔術隠蔽で隠してんのによく分かったねぇ……。でもね! ハイそうですかってワケにいかないのさ! 出な!」
穴ぼこからウジャウジャ出てくる。
虫みたいな二足歩行のヤツ等に身体が木で出来たヤツ等、腕が翼の鳥みたいなヤツ等。
100以上いるじゃねえか、話が違うぞ。
「3人ぽっちで何が出来るよ! やっちまいなぁ!」
交渉の余地なしね。
アグーが数に入れられてないけどまぁいいや。
戦いを選択したのは向こうだ。
手加減はするけどさ、勢い余ってももう知らねえや。
戦闘フォームの俺とやり合うのを後悔しやがれ。
俺はな、怒ってんだよ。
「過ぎたる悪に! 明日を生きる資格なしだ! アスガイアぁタイフーンブラストぉ!!」
前方に突風を巻き起こす。
ハイ終わり。
向かってきていた雑魚共が岩山に身体を打ち付けた。
最初に叫んだトリ女はやり過ごしたみたいだが、その他のヤツ等はもうロクに動かない。
「な……こんな事って……」
俺はまた一歩踏み出す。
「気が変わったかよ?」
「な、なめんじゃないよ!」
穴ぼこからまた大勢出てきた。
その中の一人、一際エネルギーが強い樹のヤツがいる。
「低位回復・広域」
樹のヤツが魔法を唱えると、倒れてた雑魚共が立ち上がった。
ヒールとか言ってたな、回復魔法か。
「大魔皇国の兵隊が来ても対処できるように頭数は揃えてんだ! キュデ! コイツはただもんじゃないよ! 気合入れな!」
「速度上昇・広域」
雑魚共がざっと200人弱、ちりじりに俺たちを包囲していく。
「カブラギさん」
マキマキが蒼いボウガンを左手に、紅いムチを右手に握る。
俺も手袋をギュッと鳴らした。
圧倒的に蹴散らして心を折るつもりだったけど……。
「しょうがねえ。予定通り時間を稼ぐか」
◇◆◇◆
昆虫人のビーババダは腕を組み、外の轟音を聞く。
「ち、場所が割れるのが早すぎる。彼奴らゼギアスの先兵か?」
ゼギアス大皇国はポロイス大共和国を快く思っていないために、自分たち原種至上主義連盟を黙殺する事が多い。
原種至上主義連盟はポロイスに対して破壊行為を行う事が多いからだ。
しかし、身内のマルマリ家が害をなされたとなれば重たい腰を上げるだろう。
だからこそ内密に攫う必要があったにも関わらず、連盟顧問ブヨークンは護衛すら殺す事を禁じた。
そして、ゼギアス大皇国がポロイス攻略軍を編成するまで時を稼げと。
(知恵者の考える事は分からん)
納得のいかない部分はあるが、連盟代表がブヨークンに従うよう厳命したからには指示に沿って動く他ない。
取り敢えずはマルマリ子爵家の一行を監禁したまま、訪れる者共を迎え討つまで。
考える事が不得意なビーババダは疑問を振り払い、腕を組むと魔防障壁の檻内に捕縛している5人を見た。
(襲撃者はこやつ等を救出に来たのだろう)
殺してはならないそうだが、人質にしてはどうだろうか。
外から響く衝突音はまだ続いている。
襲撃者は思いのほか腕利きらしい。
これ以上同胞が手傷を負ってもつまらない。樹人の回復魔術では完全回復などできないし、回復薬の数にも限りがある。
人質がいれば相手も攻撃の手を緩めるだろう。
いい考えではないか。
(素晴らしい閃きだ)
ビーババダは満足そうに口をカチャカチャと鳴らすと、テーブルに置いてある魔防障壁の解除用魔導具を手に取る。
功績や頭脳ではなく、モンクとしての格闘術の強力さで13種族長を任されたが、策を弄する事も出来ると見せればあの生意気な鳥人のオンナも自分を敬うようになるだろう。
解除用魔導具をカチャカチャといじる。
「ん、この魔導具はどう扱うのだ。わからん」
「何をしていますの?」
集中している時に話しかけてきた魔人族の女に、イライラする。
「お前たちを人質にして、襲撃者共を撃退するのだ。えい、くそ。解除の仕方が分からぬ」
「この魔防障壁は強固に作成してあるから、解除されないようにってあの白仮面が言っていただろう!」
眼鏡をかけた魔人族が叫んでくる。集中している時に話しかけないでほしい。イライラする。
「ええい黙れ。今は忙しいのだ」
ビーババダはカチャカチャと魔導具をいじり続ける。
その時、昆虫人自慢の広い視界に人影を見た。
「何者だ。いつの間に侵入した」
「忍び込むのは得意なのです」
答える人影が明かりの下に来ると、燕尾服を着た初老の人間が姿を見せた。
「愚かな。人間が我に勝てると思ったか」
ビーババダは即座に打撃を放つ。
左手に魔導具を持っている為に、片手で連打を叩きこむがその全ては空振りに終わった。
ふと左手が軽くなる。
これは良いと今度は両手で連打を放つ。
しかし人間は上半身を動かすのみで、再び連打をかいくぐった。
ビーババダは気が付く。魔防障壁の解除用魔導具がない。
「これをお探しでしょうか」
問いかけてくる人間の手に探し物が見つかった。
「おお、そうだ。……いつの間に掠め取った」
「盗むのは得意なのです」
「ほざけ!!」
ビーババダが地面を強く踏みんで、必殺の正拳を人間に叩きこむ。
だが拳は空を切り、こちらに背を向け深くしゃがみ込んだ人間がビーババダの腕を抱え込んだ。
何を?
そう思ったのも束の間。
浮遊感を感じ、天井が見えたのちに恐ろしいほどの衝撃が背を打った。
肺から空気が逃げ、身体の自由が利かない。
格闘術で自分が遅れを取るとは。
「貴様は……何者だ」
薄れていく意識の中で問うと、人間が襟を正したのが見えた。
「申し遅れました。私、アルセーヌ・リュパンと申します」
やっとフルネーム出せました。




