第19話 面倒臭くさいのと何もやらないのは別
「うーん。不味いね、うん。ヒジョーに不味いよ、はぁ」
サジーさんがテラスの椅子に、のっしり背中をあずけて溜息を吐いた。
早朝すぐ、俺たちはサジーさんの邸宅へ向かった。
明け方くらいにアルセーヌさんが、サジーさんトコの地味馬車を引いて《友人の幸せ亭》へ戻ってきたんだ。
サジーさんが来てほしいって言ってるって言うからさ、まあ来たわけよ。
ユウゲンさんは残って、チーム聖王国の7人(獣含む)でサジーさんちにお邪魔している。
「戦争になるの?」
不安そうに、シソーヌ姫がサジーさんに尋ねる。
「……なるだろうねぇ、うん。魔王がいなくなってからさ、魔皇国と大共和国の庇護国同士で小競り合いが続いたんだ。盗賊を装った魔皇国の誰かがさ、余計な事をしたらしいんだよ、うん。元々仲良くないからねぇ、魔皇国と大共和国は」
アグーが口を出す。
「なぜですぢゃ? 七国連合という協定を結んでおるのでしょう?」
「そうなんだけどねぇ……。魔人族ってプライド高いじゃない? 向こうさんからするとイチイチ癇に障るんだろうね、うん。魔皇国から提案する貿易内容もさ、不平等なものが多くてね。呆れた向こうさんは危険な海を渡って、東の大商国と主に貿易する始末さ」
お茶菓子をひとつ摘まんで、ポリポリ食べるサジーさん。
「だからさ、魔皇国と大共和国の国境辺りはピリピリしてたんだよ、うん。大皇は怒るだろうねぇ、下賤な種族の寄せ集めが! ってね」
マキマキがガタっと立ち上がる。
「止められないんでしょうか! サジーさんは国家顧問なんですよね!? ……サジーさんも戦争は仕方ないって、思ってるんですか?」
もうひと摘まみ、口にお茶菓子をほうりこむ。
「ミーもヤダよ、戦争なんて。ねえソレガシさん、ミーは争いごとキライだよね?」
立ってるソレガシの旦那。
デカいから座れるサイズの椅子がないんだ。
「そうだな。仙人殿は各指導者に引退しろ、他の者に任せろと説得して回っておったな」
「争いに抵抗のない君主はまた争うからね、うん。あとさ、国家顧問なんて言ってもさ、ただの名誉職で出来る事なんてないんだよね。そりゃさ、無理やり強弁する事も出来るよ? ミーの事を慕ってくれてる貴族もいるからさ」
「それなら!」
マキマキが食い下がる。
「でもさ、考えてみてよ? 何千年も生きてるヴァンパイアがさ、大国の政治に干渉してみなさいよ。怖くない? ヘタしたらさ、魔王の次はミーが世界の敵になっちゃうよ」
うーん……。
「目的次第じゃないですかね? 争いを避けるために仕方なくってアピールするとか」
俺も感じた事を言ってみる。
「みんながさ、そう単純だといいんだけどねぇ……。人ってのはさ、言葉のウラを勝手に探って邪推するもんなんだよ、うん。そして臆病だから強い生き物を恐れるんだ。大聖王国のサイロス・アラ・ショーディルくんもさ、独り身で家族とかいないし、財産もないでしょ? あのボーイも周りに危険視されないよう必死なのさ」
……めんどくさ!
ホントめんどくさいね、そういうの。
「ホントめんどくさいね、そういうの」
「カブラギさん!」
口に出てた!
マキマキがテーブルを叩いて怒る! 怖い!
「実際そうさ。めんどくさいよね、うん。でもさ、めんどくさいと思うのと、何もやらないのは別さ」
サジーさんが一気にカップの中身を飲み干し、カチャっと置く。
「戦争は止める。協力してくれるかい?」
パッと表情を明るくする、マキマキとシソーヌ姫。
「当然よ! 異界の英雄がこんだけ揃ってるのよ。正義は我らにアリ!」
姫さまが拳を突き上げる。
「みんなやっちゃえ!!」
「「「「おー!!」」」」
いいね。
俺とマキマキ、アルマとソレガシの旦那が手を上げて応じる。
俺たちを召喚したのがこのコで、本当に良かった。
「アル、良い環境で働けてるみたいだね」
「恐れ入ります。元、主様」
気合は入った、なら後はやるだけだ。
……なにを?
「サジーさん。俺たちは何をすればいい?」
「そうだねぇ、先ずは――」
「お話し中、大変恐れ入ります」
フリードリッヒさんがテラスに出てきた。
「ん? どうしたんだい?」
フリードリッヒさんがサジーさんの疑問に答える前に、よろよろと怪我人が身を乗り出してきた。
メイ姫一行の、若い魔人族の一人だ。
「お願いいたします! ごほっ! どうか! お手をお貸しください!!」
なんだと?
「何があったんだい?」
穏やかに尋ねるサジーさん。
場は騒然としている。
「攫われました! メインクーン姫と! ソマリ殿が! 白仮面を着けた軽装の戦士が多勢を率い、襲い掛かったのです! 我々では!」
若い魔人族が地面に両肘をついて、突っ伏す。
「守れなかった……、何も、できなかった……」
そのまま両腕を、叩きつける。
「うぁあ!! 何も! できなかった!!」
叩きつける。何度も。
「何も!! 何も!!」
何度も、何度も。
そこで俺は、振り上げられたコブシを掴んだ。
「何もできなかったんだな。必死で、頑張って、それでも何もできなかったんだな」
傷だらけの顔を歪ませて、俺の顔を睨む。
「そぉだ!!」
「じゃあこれからの話をしよう。これからどうする?」
フッと、憑き物が落ちたような顔をした後に、瞳にチカラが宿る。
「メインクーン姫を、お助けする」
「手伝うぜ」
掴んだコブシを持ち上げて立たせると、握り方を握手に変える。
「詳しく聞かせてくれ」




