第18話 なんか不穏
飛んでくるフライパンをキャッチした。
「そんな所で寝られちゃ困るねぇ! 料金は先払いだよ!」
宿屋の女将さんがそう言って、ガハハと笑う。
その後ろから気まずそうに、ユウゲンさんが顔を出した。
「ユウゲンさぁん、女将さんに危ねえから奥に居てくれって言ってくれよ」
「いや、スミマセン。女将さんが強引で……」
ドタドタと、アグーを抱きかかえた寝間着ドレスのシソーヌ姫が、その後にアルマが階段から降りてくる。
「終わった? やっぱり悪い人たちだった?」
「いきなり襲ってきたからな。良い人ではねえと思うよ」
アルセーヌさんが懐からしゅるっとロープを出す。
「彼らが目を覚ます前に縛ってしまいましょう」
「そうね」
「うむ」
俺とソレガシの旦那が手分けして、知らない……人? 達を後ろ手に縛っていく。
なんか叫んでいたリーダー格の人は見覚えがあるな。
カジノにいた、ヌメヌメした種族の人か。
アラビアンな服着てるなぁって思ったから、記憶に残ってる。
結んでる俺の横からマキマキが顔を覗かせる。
「カブラギさん、ちょうちょ結びじゃダメですよ。こういう時は……こう、そしてこう。ホラ、やってみてください」
別の人の手を縛る。
「こう? そんでこう?」
「そうですそうです」
俺たちのやり取りを尻目に、手際よく縛っていくアルセーヌさんと旦那。
「おぉおい! こいつ等も一緒に縛ってくれや!」
山男みたいな、ヒゲもじゃのゴツイおじさんが入ってきた。
誰?
「あんたぁ! 帰ってきたのかい!」
「おうよ! おどれぇたぜ! 店ン中からバンバン聞こえてくっからよぉ! ほらよ! アルさんから見張っといてくれって頼まれた連中だ!」
抱えてたヌラヌラの人たちを4人、ドサッと床に置く。
「待ってろよ! おかわりがまだあっからよぉ!」
また外に出てった。
「……ご主人っスか?」
「そおさ! 男前だろ!」
マキマキと顔を見合わせる。
「はは、ソッスネ」
「えへへ……」
俺たちが縛り終わると、ヌラヌラの人をまた4人抱えてご主人が戻ってきた。
「おうい……。こん中にシソーさんってのはいるかい?」
きょとんとして、シソーヌ姫が片手を上げる。
「私ですけど……」
「お客さんだぜ」
荷物を抱えたまま、首をクイっとするご主人。
不思議そうにみんなの顔を見ると、アグーを抱えたまま外へ向かうシソーヌ姫。
俺たちもそれについていく。
外には大勢の人間が、光る棒を掲げていた。
その集団から一人、馬に乗ってアゴがタプタプのおじさんが前に出てくる。
立派な服だ。貴族だな。
俺たちの前まで来ると馬から降りた。
「おお! ご無事でしたか! シソー……様。この区画で賊が暴れていると通報があったのです。もしや賊の目的は貴女様ではと考え、こうして馳せ参じた次第ではありますが……。いやいや。宿の主人が言うには既に鎮圧されたとの事! さすが優秀な護衛を連れておりますな!」
ふわりとアグーがシソーヌ姫から離れる。
シソーヌ姫はスカートの裾を掴み、しゃなりとお辞儀した。
「お心遣い、誠に感謝致しますネカジャノ子爵。危機を察する慧眼と行動力……魔防都市メサルテに傑物ありと、しかるべき方へご報告させていただきます」
「おお……感激の極み。それで賊共はどちらに?」
シソーヌ姫が上品に首をかしげる。
いつもながら驚かされるね、この切り替え方。
「室内にて捕縛しております。連行していただけると助かります」
「ほ、捕縛? 生きておりますのか?」
ネカジャノ……子爵? が不思議そうな声を出した。
「? ええ、賊はみな息がありますが……」
「そ、そうですか! さすがですな! ははっ! はっは! おい!」
「ハッ!」
「賊を引っ立てろ」
ゾロゾロと宿の中に警備隊が入っていく。
宙に浮いていたアグーが俺の肩へ止まった。
「カブラギ殿よ、おかしいと思わんか?」
「何が?」
「三等地区などと、街の中枢から離れた場所からの通報で動いたにしてはぢゃ。動きが速すぎるぢゃろう?」
「うーん、たしかに」
「警備隊が来るのは良いのぢゃ、よく訓練されておるくらいにしか思わん。しかし大貴族と聞いているネカジャノ子爵が一緒となると、途端に胡散臭いの」
「というと?」
「襲撃を知っておったか?」
「うそ? でも敵意がねえよ」
「そうなのか? うーむ……」
コソコソ俺たちが喋ってる間に、ヌラヌラの賊共が運ばれていく。
その途中、リーダー格のヤツが運ばれるのを見てネカジャノ子爵が反応した。
「やや! この男はまさか! いや間違いない!」
シソーヌ姫がネカジャノ子爵を見る。
「どうされましたか? ネカジャノ子爵」
子爵はリーダー格の懐に手を突っ込んで、手のひらサイズの何かを取り出した。
「やはり! これはポロイス大共和国の紋章! この蚯蚓人は大共和国の密偵ですぞ! おのれ大共和国め! 我ら魔皇国と大聖王国を仲たがいさせる策略だったか!」
大共和国ってめっちゃ言うね。
「御身を狙った襲撃だったようですな。差し支えなければ、ワシの館までお移り頂いても宜しいのですが」
「いえ、お気持ちだけありがたく頂戴いたします。私には頼もしい仲間がおりますので、ご安心くださいませ」
「そ、そうですか、そうですな。ではワシは賊共を連行致しますゆえ、これで失礼いたします。おい! この周辺の警備を最大限に強化しろ! では」
ゾロゾロ去っていく。
「ぶはっ! 疲れた!」
シソーヌ姫が肩のチカラを抜いた。
同時に弛緩した空気が流れる。
「夜分に仕事熱心なことだな」
ソレガシの旦那がガシャンと鎧を鳴らす。
「私の姫様をキタナイ目で汚して、豚が」
「アルマ! そういう事言っちゃダメ!」
宿から女将さんとご主人が出てくる。
「終わったかい? ヤギのミルクがあるんだよ! 温めてやるからそれ飲んでまた寝な! 子供は睡眠が大事だからね!」
「あ、手伝いますよ」
ユウゲンさんが女将さんについていく。
「アグー様、カブラギ様」
アルセーヌさんが近づいてくる。
「どう思われましたか?」
「うーん、敵意はないんだよなぁ」
「アルセーヌ殿も違和感を感じたんぢゃな、ワシもぢゃ。しかし筋は通っておるし、ありえん話ではないの」
「ネカジャノ子爵の言う事が真実ならば、いえ、真実でなくとも、このままでは大陸七国同士で戦争になります。私はサンジェルマン卿へ報告に行ってまいりますのでその間、姫様をお願いいたします」
そう言ってアルセーヌさんが闇に消えた。




