第13話 ろくでなし
俺は……、
カジノの前の大通りで……、
噴水のブロックに座って……、
うつむいていた……。
刺さるような視線を浴びながら何が悪かったのかを考えて、次に生かそうと思考を巡らせつつ、精神を安定させる。
「……どうだったんですか。まあその様子を見ればわかりますけど」
棘のある調子で問いかけてくるマキマキに、うつむいたまま答える。
「負けちゃった」
「でしょうね。それでいくら負けたんですか?」
「……金貨20枚」
「はぁ!? 手持ちのお金ぜんぶ使ったんですか!?」
「もうちょっとだった」
「自身満々で女子供と人外はここで待ってな。なんて言っといて! 金貨20枚なんて日本で200万円くらいするんですよ!」
「大事に使ってねって言ったのに! このバカ!」
痛い痛い! ポカポカしないで!
「カブラギ殿! 私はギリギリ大丈夫です! 私が稼ぐから生活は何とかなります!」
アルマが慰め……慰めてんの? どういう意味?
お子様ふたりにポカポカされながら、この状況を何とかしようと説得を試みる。
「大丈夫! 次は大丈夫! ちょっと金貨1枚預けてみ? 倍にして返すから!」
「うぅわ! サイテー! サイテーだこのヒト! 今度からお金の管理はアタシがしますからね! ……全く世話の焼ける」
ブツブツ言いながら腰に手をやるマキマキ。
「金の掛かるオトコぢゃな、カブラギ殿は」
言われたー!
一番言われたくない毛のアグーに言われた!
ツラい!
「旦那ぁ……、慰めて」
「よしよし」
ゴツゴツした金属の手に背中をさすられて、ちょっと元気出た。
俺たちはサジーさんの邸宅から出た後、真っ直ぐカジノへ向かった。
そんで皆を外で待たせて、俺一人で中に入ったんだ。
その後の話はしないけど。
その前の話をしようか。
《神霊薬》の話を聞いた後、サジーさんがなんでわざわざシソーヌ姫を呼んだのかの理由を聞いた。
正確には名指しじゃないけど、一番身分が高い者って言ったら姫じゃん?
大嶮山の関所にサジーさんの眷属の眷属の眷属がいたらしくて、一部始終は念話で聞いたらしいよ。
念話ってのは、ヴァンパイアの繋がりがある同士で使うケータイ電話みたいな特技。
こっちじゃスキルっていうらしいね。
花屋のロナックさんの相方がそうだったらしくて、スーパーヒーローが凄かった、カッコよかった。って言ってたらしく(照れるね)興味がでたそうだ。
すぐ異界人だろうって感づいたし、シソーヌ姫が来るなら護衛として付いてきてくれるだろうって事だった。
アグーが4名の一人に入ったのは想定外だったそうだけど。
まあペット枠だもんな。
聖王国の秘術も知ってたから、異界人が一緒って事はその秘術が成功したって事。
それなら渡したいものもあるし、丁度いいって思ったんだって。
渡したいものって? って聞いたらシソーヌ姫がなんか貰ってた。
なんか上下が三又に分かれてる《コンゴショ》ってアイテム。
異界をつなぐ者だけが扱える、貴重な神話の法具。だそうだ。
扱い方をそのあと聞いてたみたいだけど、俺はお茶菓子の美味さにびっくりしてたからその辺はよく分かんない。
いや、美味かったのよ。
それからサジーさんがそろそろいいかって、メイ姫たちの時間を戻した。
メイ姫がキョトキョトしてたけど、まぁそうだろな。
気づいたら自分たち以外のヒトたちの位置が微妙に変わってるんだから。
サジーさんがメイ姫たちに、こっちの話は終わったからユーたちの番だよって優しく言うとさ、ソマリさんが馬車で見せた態度とは打って変わってキリっと挨拶に来た理由を話してた。
今後、先祖のなんたらって土地を開拓するよう大皇から仰せつかった。
しかし、遠征の際に原種主義の過激派から攻撃を受けた。
これからも妨害が考えられる為、予定通りに事を運ぶのが難しい。
周囲の領主からも援助を賜れるよう、サンジェルマン卿からも口添えを頂きたい。
開拓が成ったならば相応の謝礼を献上いたします。
って。
サジーさんはお菓子をモグモグしながらそれを聞いて、ごくんと飲み込んだ後「オッケー」って軽く言ってた。
あの辺だとナントカ伯とカンタラ伯(名前は忘れた)の領地に隣接してるね。
わざと傍受しやすい通信魔導具で連絡しとくから、過激派への牽制にもなると思うよ、うん。つって。
感謝を捧げますってメイ姫とソマリさん。と、魔人族の人たちが頭を深々と下げてた。
下げながら震えてるのを見ると、よっぽど嬉しかったんだろうね。
そっからはメイ姫たちと一旦別れてカジノに向かったってわけ。
邸宅から出たあと、カブラギ様のおかげですって凄いギュッとされたよ。
俺はなんにもしてないけどね。
でも喜んでもらえて嬉しかったな。
……今は気分最悪だけど。
だいたいカジノのゲーム、全部が全部知らないモンばっかだったからなぁ。
見た事のない動物のレース。
ブラックジャックみたいなカード。
ルーレットっぽい色当て。
蜘蛛の魔物をケンカさせて勝敗を予想するもの。
やった事のないヤツばっか。
とりあえず噴水の広場でアグーにカジノのゲームを伝えて、あーでもないこーでもないと対策を練ってると、大通りの方向からフリードリッヒさんが引いた馬車が近づいてくる。
地味な馬車だ。
馬車が止まり、フリードリッヒさんが馬から降りて扉を開けると、サジーさんが降りてきた。
「やあ、やあ。その様子だとうまくいかなかったみたいだね、うん。助っ人を連れてきたんだ。さあ、降りておいでよ」
姿を見せたのはユウゲンさんだった。




