第12話 カジノへ行こう
「《原初の呪い》だね」
優しい表情でそう言うサジーさん。
呪い? 魔法じゃねえの?
「サイロス・アラ・ショーディルくんの魔術でも回復しなかったんだよね? じゃあ魔術じゃあないね、うん。呪いだよ。しかも《原初の呪い》」
呪いなんてモンもあんのかよこの世界は。
「《原初の呪い》? 書物で読んだ事あるけど、おとぎ話じゃないの? サジーさん」
シソーヌ姫がタメ口になった。
「そうだね、うん。忘れられたチカラだよ。そんなモノの使用者がいるなんて考えたくないけどね、うん。でもミーは全く同じ状況を見た事があるよ。《大聖戦》の時にね」
大聖戦?
えっと……。
あ、思い出した。
大昔に地上人と魔界の神々が争ったとされる聖なる戦いである。
とか何とか。
確か教わったばっかの時、マキマキとアグーに俺が説明したっけ。
やっぱ人に話すと記憶に残りやすいね。
「サジーさんは三千年前の《大聖戦》を知ってるの!?」
シソーヌ姫の驚きにサジーさんが胸を張る。
「すごいでしょ? ミーは年齢で死ぬことはないからね、うん。その時に魔界からの軍勢が使っていたよ。厄介だったよ~。回復薬も回復魔術も効かないんだもの。味方の一人にさ、世界の境界の人がいてさ、その人が作った《神霊薬》で《原初の呪い》は解除されたんだよね」
「じゃあその《神霊薬》があれば!」
「ハクイマ・キグ・アークガドくんの石化は解除されるだろうね、うん」
「よーし……」
シソーヌ姫が歩き出そうとして、止めた。
「……どこにあるの?」
忙しいコだね。
「ミーは今持ってないんだよね。世界の境界の人がさ、作り方を教えてくれたんだけどさ、条件が難しいのよ。かなり凝縮された魔素が必要だから、ダンジョンの奥だったら素材が取れるかもね」
ダンジョンか……。
「でもね、ラッキーだよ? メサルテの重鎮貴族、キューダ・ゲス・ネカジャノくんがね、一個だけ持ってるんだ。ミーは顔が利くからさ、譲ってくれるようにお願いしてみるよ」
おお!
なんか都合がいいね。
ゲームとか漫画みたいにイベントが始まると思ったけど、偉い人と知り合いだと話が早い。
現実はこんなモンかもね。
「でもね~、キューダ・ゲス・ネカジャノくんったら、ケチなんだよね。お金だけじゃ無理かも。利権をいくつかあげようかなー、大皇への口利きも加えてみるかな」
太っ腹すぎない?
「……サジーさんは何でそこまでしてくれるの?」
唖然として問いかけるシソーヌ姫に、紅茶をすすりながらサジーさんが答える。
「ハクイマ・キグ・アークガドくんはフレンドだからね。それに利権とかお金とか、成り行きで持ってるだけでいらないんだよね、うん」
あれ?
「でも魔物の討伐の時、サンジェルマンの名前を使ってほしいって言ってたんじゃなかったっけ?」
「うん、そうだね。だってさ、ミーが真祖のヴァンパイアって、知ってる人は知ってるんだよね。隠しても良くないし、かといって言いふらしもしないけど。そんな人がさ、悪い人かもって考えたら怖いじゃない? だからね、良い人だってアピールは定期的にした方が良いんだよね。やらしいでしょ?」
俺の疑問にカップを置きながら返事をする。
「権力なんてさ、あったら面倒くさいって、別の世界で良く分かったしさ。フレンドの相談をね、解決できるくらいの貯えがあれば別にいいんだよね。エカテリーナおかわりを頂戴」
カップにお茶が注がれ、立ち上る湯気に鼻を近づけるとサジーさんは顔をほころばせる。
「良い匂いを嗅いで、綺麗な物を見て、美味しいものを食べる。それでミーは十分なのさ、うん」
ふぅん。
まあ分かる。俺もそっち派だな。
昔は何者かになりたいって思って都会に出たけど、大事な家族が出来て、守りたいって思ったらあの時の熱量が下がっちまった。
でも何かを残したい、偉くなりたいって自己表現したり頑張ったりしてる人を見ると、眩しいって思うこともあるんだよなぁ。
なんて考えてると、テラスにさっきのおじいちゃん……
フリードリッヒさんか、フリードリッヒさんが出てきた。
「恐れ入りますが、それは少々難しいかもしれません主様」
「ん? どうしてだい? フリードリッヒ」
一礼してフリードリッヒさんが言葉を続ける。
「キューダ・ゲス・ネカジャノ子爵がカジノの目玉景品として《神霊薬》を出品すると、公式に発表されました」
渋い顔をするサジーさん。
「あちゃー……、バッドタイミングだねぇ、スンナリいかなくなっちゃった。カジノの景品を譲ってくれなんて言うとキューダ・ゲス・ネカジャノくんのお仕事を軽んじてると思われちゃうし、顔もつぶしかねないね、うん。お金で目玉景品を強引に取ると、魔皇国カジノの評判もガタ落ちだ、うん」
おーい……。
都合が悪いね。
偉い人と知り合いでもダメな時はあるんだな。
現実はこんなモンかもね。
しょうがねぇな、俺の出番だろ。
ガタっと椅子を行儀よく引いて、満を持して俺は立ち上がる。
「サジーさん。要するにその《神霊薬》ってやつ、正規の手段で手に入れりゃ問題ないんだろ?」
「そうだけどさ、うん。スーパーヒーローくんはアレかな? 何か勝算はあるのかい?」
地球で都会に出てから、鍛えに鍛えた俺の勝負勘……。
発揮する時が来たようだな。
親指を立てて自分を指し、バシッとキメる。
「スーパーヒーローアスガイアー……。またの名を、勝負師カブラギとは俺の事だ!!」




