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『借金50億の悪役令嬢ですが、複利と会計チートで大富豪に返り咲きますわ!〜王太子は損切りし、割安株の天才魔導師と溺愛FIRE〜』  作者: 月神世一


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EP 9

節税対策は完璧ですわ!研究開発費の計上と寄付金控除カウンター

「アークライト公爵家当主、アラン公爵! そしてセシリア令嬢! 国家の危機に際し、貴族たる者が不当な暴利を貪るなど言語道断! 本日ただいまより、王立特命徴税局による緊急税務監査を執行する!」

 アークライト公爵邸の大広間。

 豪奢な絨毯の上を踏み荒らし、傲慢な怒声を張り上げていたのは、深紅の官服に身を包んだ男――財務大臣ガストン卿の息がかかった筆頭特命徴税官、マルセルだった。

 背後には十数名の強面な税務監査官と武装衛兵が控え、重々しい鉄の査察トランクを並べている。

「ひ、ひぃぃぃっ! 暴利だなんて滅相もない! 我が家はただ、娘のセシリアが新しい魔導具の商売を始めたばかりでして……!」

 ソファーの隅で小さくなって震えているのは、実父アラン公爵だ。

 マルセルは冷酷な嗤笑を浮かべ、分厚い羊皮紙の査察令状をピラピラと見せつけた。

「黙られよ、公爵閣下! 王都市場における貴商会の新型ランタン、魔導コンロ、さらには富裕層向け美容機器の売上……王立財務局の推計によれば、今期の総売上高は【三億リン(約三億円)】を突破しているはずだ!

 王国税法・臨時戦時特別条項に基づき、得られた利益の八十パーセント――金貨二千四百枚、【二億四千万リン(約二億四千万円)】を【臨時特別追徴課税】として全額即時没収する!!」

「に、におく……よんせんまん……!?」

 お茶を運んできたミアが、トレイを取り落として腰を抜かした。

「ひゃあああああっ!? に、二億四千万円の税金ぃぃぃっ!? お嬢様、そんな大金を奪われたら、うちの金庫のお金がほとんど全部すっからかんになっちゃいますぅぅっ!!」

「フォッフォッフォ! 逆らうことは国家反逆罪とみなすぞ! さあ、金庫を開けろ!」

 下卑た笑みを浮かべて金庫室へ踏み込もうとする徴税官たち。

 だがその時――大広間の両開き扉が、静かに、けれど圧倒的な威圧感とともに開かれた。

「……朝っぱらから我が家のサロンで、ずいぶんと威勢の良いハイエナの遠吠えが聞こえますわね」

 凛と澄み渡る冷徹な美声が、広間の空気を一瞬にして凍結させた。

 歩み出てきたのは、プラチナブロンドの縦ロールを揺らす私――セシリア・フォン・アークライト。

 私の胸元には、陽光を浴びて青く煌めくサファイアの髪飾り。

 そして私の背後には、燕尾服を着こなした黒髪の美青年ノアが、アメジストの瞳に絶対零度の殺気を湛えて静かに従っていた。

「な、なんだ貴様は! 公爵令嬢だろうと、公務執行妨害は――」

「公務? ふふっ……笑わせないでくださる?」

 私は胸元から銀縁眼鏡を取り出し、キリッと鼻梁へ押し上げた。

 サファイアブルーの瞳の奥で、無知な官僚を八つ裂きにするハゲタカの目がギラリと覚醒する。

「マルセル筆頭徴税官。貴殿、国家の税金を司る役職に就いておきながら……まさか、【売上(トップライン)】と【課税所得(ネットインカム)】の違いすら理解していない単細胞の大馬鹿者でいらっしゃいますの?」

「な……なにぃっ!? お、大馬鹿者だとぉっ!?」

 マルセルの顔面が怒りで真っ赤に沸騰した。

 私はミアに合図を送り、壁の特大黒板をガラガラと引き寄せさせると、チョークを手に取って激しい音を立てて書き殴った。

「いいこと、ミア? 世の中の愚かな権力者や税務の素人はね、『売上が出た=儲かったから税金を寄越せ』と短絡的に喚き散らしますの!

 ですが、近代税法の絶対の基礎――【税金は『売上』ではなく、経費を差し引いた後の『利益(課税所得)』にしか課税できない】という大原則を叩き込んで差し上げますわっ!」

「うりあげと……りえきのちがい……?」

 ミアが首を傾げる。

 私は黒板に、大きな箱の図を描き殴った。

「いいこと、ミア?

 【売上】とは、お客様からいただいたお金の『総額』のことよ。

 しかし! 商品を届けるためには、原材料費、職人の人件費、工場の家賃、配送費といった様々な【必要経費(損金)】がかかりますわね!

 売上からこれら経費を差し引いて、最終的に手元に残った純粋な儲け――これこそが【所得(利益)】ですわ!

 そして! 法人税や所得税とは、この【利益に対してのみ】税率を掛けて計算するものなのです!」

 カツンッ! とチョークが粉を散らす。

「もし売上そのものに重税を課したらどうなりますこと? 薄利多売で頑張っているパン屋や鍛冶屋は、売上から八十%も税金を取られたら、材料代すら払えずに初日で全員倒産してしまいますわっ!」

「ひゃあああっ! 言われてみれば当たり前ですぅぅっ! 売上全部が儲けなわけないじゃないですかぁ!」

 ミアが激しく頷く。

 私は冷徹な視線をマルセルへ突き刺した。

「お分かりかしら、無能な徴税官殿? 貴殿が算定すべきは、我が社の『売上三億リン』ではなく――すべての正当な経費を差し引いた後の【真の課税所得】ですわ!

 さあノア様、我がアークライト商会の今期の【損金算入実績(経費エビデンス)】を、この哀れな役人に開示して差し上げて!」

「了解しました、セシリア様」

 ノアが進み出て、懐から取り出した水晶端末に魔力を通した。

 青白い光が部屋を満たし、壁一面に王立魔導院および公爵家の公認印が押された数十枚の財務書類が立体投影される。

「……マルセル徴税官。帳簿を照合します。

 第一に、製造原価および人件費。ランタンやコンロの材料費、提携工房の職人たちへの正当な工賃、および販売インセンティブボーナスの損金算入――合計【六千五百万リン(約六千五百万円)】。

 第二に、直営ショールームの設備減価償却費および物流配送経費――合計【一千五百万リン(約一千五百万円)】です」

「ぐ……っ! そ、それくらいは織り込み済みだ! 三億リンから八千万リン引いたところで、まだ二億二千万リンもの巨額の純利益が残っているではないか! その八十%を徴税する権利が――」

「甘いですわ、マルセル徴税官!」

 私の高らかな一喝が、マルセルの言葉を遮った。

 私は黒板の中央に、極太の赤文字を叩きつけた。

【奥義その一:次世代魔導イノベーション・『研究開発費(R&D)』の一括損金算入!】

「け、研究開発費ぃぃぃっ!?」

「そうですわ! 王国税法第三十八条・産業振興特別措置法! 『国家の技術革新に資する魔導具の研究開発に投じられた費用は、全額を当該事業年度の損金として即時算入できる』!

 ノア様、研究開発の内訳を開示なさい!」

 ノアが淡々と、けれど透き通る美声で数式を弾き出した。

「王立魔導院の認可を受けた次世代プロジェクト――『超大型・都市防護魔導炉の小型化研究』、および『全自動並列演算回路の量産実験ラインの建設』。

 先行発注した高純度アダマンタイト合金、試作魔導炉の資材費、および外部研究機関への委託研究費として――今期、すでに【一億五千万リン(約一億五千万円)】を全額決済・執行済みです」

「い、一億五千万円の研究費だとぉぉぉっ!?」

 マルセルの顎が外れそうに落ちた。

 ミアが目を丸くして叫ぶ。

「お、お嬢様! 一億五千万円も新しい研究に使っちゃったんですかぁ!?」

「当たり前ですわ、ミア! 手元に現金をただ眠らせておけば、こうして腐敗した徴税官に重税として奪われるだけ!

 ならば、その利益をすべて【未来の莫大な特許を生み出す自社の研究開発】へと即座に再投資する! 税金を払うくらいなら、会社の未来の筋肉に変えて経費で落とす――これぞ、成長企業が実践する最強の【再投資による合法節税スキーム】ですわっっ!!」

「ひゃああああっ! 税金で取られるはずのお金が、ノア様の新しい大発明に化けちゃいましたぁぁっ!」

 ミアが小躍りする。

 だが、私のカウンターはこれだけでは終わらない。

 私は不敵なハゲタカの笑みを深め、黒板にトドメの第二条を叩きつけた。

【奥義その二:王都福祉インフラ整備・『特定公益寄付金控除』の最大適用!】

「き、寄付金控除だとぉっ!?」

「ええ! ノア様が研究開発費を一億五千万リン使っても、まだ【七千万リンの利益】が残っておりましたわね。

 そこで我がアークライト商会は先週、王都の全孤児院、公立学校、および貧民街の救療院に対し――安全な暖房器具五千台の無償寄贈、および給食基金として【五千万リン(約五千万円)】の現金を全額寄付いたしましたわ!」

「ご、五千万円の寄付ぅぅぅっ!?」

 ノアが空中に投影した書類には、王都大司教および孤児院連合からの、涙ながらの感謝状と『特定公益寄付金受領証明書』の原本がクッキリと映し出されていた。

「王国税法第四十五条! 『王室および公認慈善団体への寄付金は、課税所得から全額を所得控除できる』!

 さらに! 残りの二千万リンは、今期頑張ってくれた全従業員への【決算特別感謝賞与】として、本日付けで全額現金支給いたしましたわ!」

 私は黒板をダンッ! と平手で叩き、チョークを走らせた。

【総売上:300,000,000リン】

− 【原価・人件費・経費:80,000,000リン】

− 【研究開発費:150,000,000リン】

− 【特定公益寄付金:50,000,000リン】

− 【決算特別賞与:20,000,000リン】

====================

【当期・課税所得:きっかり【ゼロ(0リン)】】

「さあ、マルセル筆頭徴税官! 計算のお時間ですわよ!」

 私は眼鏡のブリッジをクイと押し上げ、死刑宣告のように冷ややかに言い放った。

「ゼロに税率八十パーセントを掛けると……我がアークライト商会が本日、貴殿の特命徴税局へ納付すべき追徴税額は――

 きっかり【ゼロリン(一円もなし)】ですわーーーーーっっっ!!!!」

「「――ひ、ゼロ円ぇぇぇぇぇぇっっっ!?」」

 マルセルの喉から、内臓が飛び出たような絶叫が上がった。

 税務監査官たちも目玉を飛び出させ、書類を取り落としてパニックに陥る。

「ば、馬鹿なああああああっ!? 三億円も売り上げた大企業が、課税所得ゼロだと!? そんな無茶苦茶な節税が許されるかぁっ!」

「許されますわよ? すべて王国の現行税法に一文字違わず則った、完全無欠の【合法タックスプランニング】ですもの。文句があるなら、王立裁判所にでも提訴なさるかしら?

 ……ただし! 貧民街の子供たちへの暖房と孤児院への寄付金を『不当な脱税だ』と訴えれば、明日から王都中の民衆が貴殿の徴税局へ投石に押し寄せることになりますけれど……受けて立ちます?」

「ひ……ひぃぃぃぃぃぃっっ!!」

 世論を完全に味方につけられ、数字の防壁で一リンの隙もなく包囲されたマルセルは、泡を吹いて絨毯に崩れ落ちた。

「お、覚えていろぉぉぉっ! ガストン閣下に言いつけてやるぅぅぅっ!」

 捨て台詞を残し、徴税官たちは鉄のトランクを引きずりながら、クモの子を散らすように逃げ出していったのだった!

 静寂が戻った大広間。

 黒板の「課税所得ゼロ」の文字を見上げながら、ミアが歓喜のあまり床を転げ回っていた。

「す、すごすぎますお嬢様ぁぁぁっ! 二億四千万円も取られそうだった税金を、一円も払わずに完全論破して追い返しちゃいましたぁぁっ! しかも、浮いたお金でノア様の研究費も確保して、貧しい子供たちも救っちゃうなんて……お嬢様は本物の大天使様ですぅぅっ!」

「ふふっ、当然ですわ。無知な者は税金を『奪われるもの』と嘆くだけですが、一流の経営者は税法を熟知し、事業の成長と社会貢献のために【使い倒す】ものなのですからね」

 私が扇子をパタパタと仰ぎ、満足げに微笑んでいると――。

 すっ、と背後から甘く暖かな気配が近づいてきた。

「……セシリア様」

 振り返ると、ノアがその彫刻のように整った長身を折り曲げ、至近距離から潤んだアメジストの瞳で私を見つめていた。

 夕陽に照らされた白皙の美貌は、息を呑むほど神々しく、切れ長の瞳には狂気的なまでの熱情と崇拝が宿っている。

「ノ、ノア様……? またお顔が近いですわ……」

「……言葉を失うほど、魂が震えました」

 低く、甘く掠れた美声が、私の耳朶を甘美に痺れさせる。

 ノアの白く長い指先が、そっと私の右手をすくい上げると、自らの胸元――トクトクと激しく脈打つ心臓の位置へと引き寄せた。

「悪徳な権力者から富を守るだけでなく、俺の研究に一億五千万リンもの巨額の未来を託し、さらに貧しい人々へ温もりを分け与えてみせた……。セシリア様、あなたの魂の気高さと美しさに、俺の心臓は狂おしいほど奪われ続けています」

「い、いや、私はただ、ガストン一派に税金を一リンたりとも渡したくなかっただけの強欲会計士ですわよ……!?」

「いいえ。俺には分かります」

 ノアはふっと蕩けるように愛おしく微笑むと、私の指先に、祈りを捧げるような熱い口づけを落とした。

「セシリア様。俺の頭脳も、魔力も、そしてこの命の鼓動さえも……すべてあなたのものです。どうか……俺という存在そのものを、あなたの人生の【最大の必要経費(愛)】として、生涯損金算入し続けてください」

「ひゃっ……!? に、人間を必要経費に仕訳するんじゃありませんことよーーーーっっ!!」

 ボッッッ! と私の顔が沸騰するように赤くなった。

 至近距離で囁かれる、国宝級イケメンの命がけの蕩け顔!

(重い! 相変わらず愛のボラティリティが危険水準ですのよノア様ーーーっっ! タックスプランニングの解説を、一世一代の愛の誓いに魔改造しないでくださるーーーっっ!?)

「きゃあぁぁぁっ! お嬢様ぁっ! ノア様から『生涯永久損金算入プロポーズ』いただきましたぁぁっ! もう早く経費で落としてあげてくださいぃぃっ!」

「だ、誰かミアの口を領収書で塞ぎなさいっ! ノ、ノア様も離れなさいなっ! これは純粋な財務戦略ですわっ!」

 真っ赤になって手を引き抜こうとする私と、満面の笑みで囃し立てるミア。

 国家の不当な重税攻撃を完璧に粉砕し、アークライト商会の財務基盤はさらに強固なものとなった。

 私は扇子をバチンと閉じ、咳払いを一つして顔の熱を誤魔化した。

「コホンッ! さて、浮かれてはいられませんわ! 節税対策によって、手元には守り抜いたキャッシュと、ノア様の研究開発体制が整いました。

 ……そこでノア様。明日は王都の商業区へ、新技術の普及状況の確認と、次なるプロモーションのための【市場調査とお忍び視察】へ参りますわよ!」

「市場調査……ですか?」

 ノアがアメジストの瞳をパチクリと瞬かせ、それから――ふわりと、息を呑むほど甘い笑みを零した。

「……はい、セシリア様。あなたとの【お忍びデート】……全身全霊でお供します」

「デ、デートではありませんわ! 純粋なマーケティング投資(広告宣伝費)ですことよっ!!」

 悪役令嬢セシリアの快進撃は、いよいよ第2章のフィナーレを飾る、甘く波乱に満ちた【お忍び視察(デート)回】へと突入していくのだった――!

【巻末付録】セシリアお嬢様の3行マネー講座

「売上」と「利益(課税所得)」の違いを叩き込め! 税金は売上ではなく、経費を引いた後の利益にかかるもの。売上高だけを見て一喜一憂するのは三流のすることですわ!

利益が出たら「事業への再投資(研究開発費)」で落とせ! 税金で理不尽に取られるくらいなら、将来の利益を生み出す設備や人材への投資に回して経費化するのが一流の節税ですわ!

寄付金控除を使いこなし「社会貢献と節税」を両立せよ! 正当な寄付によって社会に富を還元し、税金を合法的に圧縮しつつ、圧倒的な社会的信用を手に入れなさい!

読んでいただきありがとうございます。

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