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『借金50億の悪役令嬢ですが、複利と会計チートで大富豪に返り咲きますわ!〜王太子は損切りし、割安株の天才魔導師と溺愛FIRE〜』  作者: 月神世一


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EP 2

その婚約はサンクコストですわ!夜会での損切り宣言と損害賠償請求

 王宮の大夜会場は、煌びやかな魔導シャンデリアの光と、着飾った貴族たちの嬌声に満ちていた。

 だが、その華やかな空気は、壇上に立った金髪碧眼の美青年――エドワード王太子が、隣の少女の腰を引き寄せた瞬間に一変した。

「静粛にせよ!」

 エドワードの傲慢な声がホールに響き渡る。

 その腕の中にいるのは、ゆるふわなピンクブロンドに大きな垂れ目を潤ませた男爵令嬢、リリア・ピンクルトンだった。

「セシリア・フォン・アークライト! 前に出ろ!」

 私――セシリアは、優雅に淑女のカーテシーを一礼し、壇前へと進み出た。

 背後では、重たい革張りのトランクを両手で抱えた専属メイドのミアが、小鹿のようにカタカタと震えている。

「セシリア! お前はアークライト公爵家の威光を笠に着て、心清らかなリリアに陰湿な嫌がらせを繰り返してきたな!」

「まあ、嫌がらせ、ですか?」

「しらを切るな! お前のような冷酷で金の計算ばかりする傲慢な女など、王妃にふさわしくない! よって貴様との婚約を、今この場をもって破棄する!!」

 エドワードが勝ち誇ったように叫ぶ。

 リリアも勝ち誇った上目遣いで、エドワードの胸元にすり寄った。

「そうですわ、セシリア様。愛のない打算だけの結婚なんて、ただの契約ですもの。エドワード様と私は、真実の愛で結ばれたのです!」

 周囲の貴族たちから、ヒソヒソと嘲笑交じりの囁きが漏れた。

『天下の公爵令嬢が、男爵令嬢に男を奪われて捨てられたぞ』

『ざまぁみろ、あの傲慢女め……』

 誰もが、私が泣き崩れるか、恥辱に顔を歪めて取り乱すと思っていた。

 ――しかし。

「まあ……! 本当ですのね!? 今のお言葉に、二言はございませんわね!?」

 私は満面に笑みを浮かべ、サファイアブルーの瞳をキラキラと輝かせた。

「な……なっ!? つ、強がりを言うな! 捨てられたショックで頭がおかしくなったのか!?」

「いいえ、正気も正気、大正気ですわ! 維持費ばかりかかってリターンがゼロ、どころかマイナスを垂れ流し続ける【超弩級の不良債権】を、あちらから手放してくださるなんて……! こんな棚からぼた餅、願ったり叶ったりですわーっ!」

 私が快哉を叫ぶと、会場中が静まり返った。

 私は胸元から銀縁の伊達眼鏡を取り出し、キリッと鼻梁へ押し上げる。

 ハゲタカの目が、壇上の獲物を捉えた。

「ミア、トランクを開けなさい!」

「は、はいぃっ!」

 ミアが床に置いたトランクの留め金を外すと、バチンと音を立てて蓋が跳ね上がった。

 中から現れたのは、美しくファイリングされた膨大な羊皮紙の束――契約書、領収書、そして公爵家の印章が押された請求書の山だった。

「な、なんだその紙切れの山は……!?」

「紙切れとは心外ですわね。これはすべて、殿下と我が家が交わした契約の【エビデンス(動かぬ証拠)】ですわ」

「お、お嬢様ぁっ! 不良債権って、王太子殿下を相手に使っていい言葉じゃないですぅ!」

 ミアが涙目でツッコミを入れてくるが、私は眼鏡のブリッジをクイと押し上げて涼しい顔で言い放った。

「いいこと、ミア? ビジネスや人生において、最も人間を破滅に追い込む悪魔の罠――それが【サンクコスト(埋没費用)】ですわ!」

「さんく……こすと……?」

「そう! すでに投資してしまい、どんな努力をしても二度と戻ってこないお金や時間のことよ! 普通の人間は『せっかく今まで何年も付き合ったのだから』『せっかく何億リンも貢いだのだから、今別れたら損だ』という執着に囚われ、傷口を広げて泥沼に沈んでいくの!」

「うわぁ……それ、すごく心当たりがあります……!」

 ミアが胸を押さえて青ざめる。私は壇上のエドワードを冷ややかに指差した。

「ですが、将来にわたって損を生み続ける事業やパートナーは、過去の投資額がいくらであろうと、気づいた瞬間にバッサリ切り捨てる――すなわち【損切り(ロスカット)】するのが投資の鉄則! エドワード殿下はまさに、一刻も早く損切りすべき不良債権だったのですわ!」

「き、貴様ぁぁぁっ! この私を不良債権呼ばわりするだけでなく、損切りだと……!?」

 血管を浮き上がらせて激昂するエドワードに、私は一枚の分厚い羊皮紙を突きつけた。

「感情論は結構ですわ。契約を一方的に破棄なさるのですから、まずは綺麗に債権債務の【精算】をいたしましょう。財務大臣ガストン卿、近衛騎士団長殿、公正な証人としてこちらへ!」

 会場の隅にいた恰幅の良いガストン卿が、ぎょっとして脂汗を流す。

 私はトランクから取り出した書類を、美しい声で読み上げ始めた。

「まず第一に! 婚約締結時、我がアークライト公爵家から王家へ前払いされた【持参金】の預かり証書原本ですわ! その額、大金貨三百枚――【三億リン(約三億円)】!」

「うぐっ……持参金だと……!?」

「殿下からの有責な一方的契約不履行につき、民法上の寄託金返還請求権に基づき、全額の即時返還を求めます! もちろん、一リンの減額も認めませんわ!」

 さらに私は、赤インクで几帳面に仕分けされた領収書の束をバサバサと捲った。

「そして第二! 過去五年間にわたり、殿下が『婚約者の特権』と称してアークライト公爵家にツケ回しにしてきた、殿下の私的交際費の精算書ですわ!」

「な、なんだと……!? 私的な交際費など……!」

「しらばっくれるおつもり? では読み上げますわね?

『王都最高級酒場でのドンペリ魔導スパークリング乱痴気騒ぎ代・金貨八十枚(八百万リン)』!

『殿下の特注魔導馬車への無駄な金メッキ改造費・金貨百二十枚(千二百万リン)』!

 そして極めつけは――」

 私の冷徹な視線が、エドワードの腕の中で震えるリリアを射抜いた。

「『男爵令嬢リリア様へ貢ぐために購入された、最高級フェアリーシルクの特注ドレス三着およびダイヤモンドの首飾り代・金貨百五十枚(千五百万リン)』! すべて殿下の直筆サインが入ったツケ払いの請求書原本が、ここに保管されておりますわ!」

 しーん、と夜会場が水を打ったように静まり返った。

 リリアの顔から、みるみる血の気が引いていく。

「え……? えっ……? エドワード様……? あのドレス、『僕からの愛の贈り物だ』っておっしゃいましたよね……? セシリア様の公爵家のお金でツケ払いにしていたんですの……!?」

「ち、違う! リリア、これはだな……!」

「違わないですわ! これら殿下の未払い私的経費の合計は、金貨八百二十枚――【八千二百万リン(約八千二百万円)】! さらに婚約不履行に伴う違約金と、法定利率による遅延損害金を加算いたしますと――」

 私は羽ペンでサラサラと計算書に数字を書き殴り、エドワードの目の前に叩きつけた。

「【三億九千八百万リン(約四億円)】!! これがお前の支払うべき負債総額ですわ、元婚約者殿っ!!」

「よ、四億ぅぅぅぅぅぅっっっ!?」

 エドワードの喉から、みっともない裏返った悲鳴が上がった。

 貴族たちから一斉に嘲笑と軽蔑の眼差しがエドワードへと注がれる。

『なんだ、王太子殿下は公爵家の金で愛人に貢いでいたのか……』

『情けない……器が小さすぎる……』

「ふ、ふざけるな! そんな大金、今すぐ払えるわけがないだろう!」

「あら? 払えない? 一国の王太子ともあろうお方が、たかだか四億リンの債務をデフォルト(債務不履行)なさるおつもり? 信用スコアが地に堕ちますわよ?」

 私は冷酷な笑みを浮かべ、あらかじめ作成しておいた『債務承認弁済契約書』を突きつけた。

「ならば、今すぐこの場で分割弁済の契約書に血判をいただきましょう。ただし! 信用ゼロの殿下を無担保で帰すわけにはまいりません。殿下の当座個人口座から、今すぐ決済可能な手付金――【三千万リン(金貨三百枚)】を、即金でキャッシュアウトしていただきますわ!」

「さ、三千万リンを今ここでだと……!? 私の個人的な今月の遊興費がすべて消えてしまう……!」

「お払いにならないのでしたら、明日の朝一番で王宮騎士団と貴族院にこの領収書と契約書を全件開示し、王太子殿下の私的流用と横領疑惑として公的監査を請求いたしますが、よろしいかしら?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……っっ!!」

 逃げ道を完全に塞がれたエドワードは、屈辱と恐怖に顔を真っ赤に染め、ガタガタと震える手で契約書にサインした。

 そして、懐から王室特製の大金貨三十枚――三千万リン分の当座小切手と純金貨の袋を、引きちぎるようにして差し出した。

 カラン、と重たい金貨袋をトランクに放り込む。

 ずっしりとした手応え。

 ――手元流動性資金、三千万リン(約三千万円)の即時回収完了!

「毎度あり! 残りの三億六千八百万リンは、王太子の月額歳費から毎月きっちり天引き回収させていただきますわね!」

 私は華麗にドレスの裾を翻し、呆然と立ち尽くすエドワードとリリアに背を向けた。

「では皆様、ごきげんよう! 不良債権を綺麗サッパリ損切りできて、これ以上ないほど素晴らしい夜会でしたわ!」

 パチパチパチ、と誰からともなく拍手が起こり、やがてそれは会場を揺るがすような喝采へと変わっていった。

 夜会の重厚な扉をくぐり抜け、王宮の車寄せへと向かう。

「お、お嬢様ぁぁぁっ! 凄すぎます! 本当に三千万リンも現金でむしり取っちゃいましたぁぁっ!」

 ミアが興奮で頬を紅潮させ、トランクを抱きしめて小躍りしている。

「当然ですわ。回収できる債権は一秒でも早く現金化する。これが資金繰りの鉄則よ。……でも、浮かれてはいられないわ」

 夜風を浴びながら、私は馬車のステップに足をかけた。

「我がアークライト公爵家の借金は、まだ【四十九億七千万リン】も残っているのですからね」

「うっ……そうでした……まだ果てしない道のりですぅ……」

「ええ。だからこそ、この手に入れた貴重な種銭三千万リンは、金庫に眠らせておくのではなく――将来莫大なリターンを生み出す『金の卵』へ即座に再投資いたしますわ!」

「ぜ、全額投資しちゃうんですか!?」

「御者、商業区の裏通りへ馬車を回しなさい!」

 馬車が王宮の門を出て、夜の闇へと滑り出す。

 私の頭の中にあるのは、王都の片隅で泥に塗れ、不当に安値で放置されているはずの――【人類の未来を塗り替える、世界一の割安放置株(天才魔導師)】の存在だった――。

【巻末付録】セシリアお嬢様の3行マネー講座

「サンクコスト(埋没費用)」に引きずられるな! もう戻らない過去のお金や時間に執着してダラダラ続けるのが、人生最大の赤字を生む原因ですわ!

ダメな契約や関係は秒で「損切り」しなさい! 損失を早期に確定させて撤退することこそが、次の利益を掴み取るための最善の攻めの一手ですわ!

エビデンス(領収書・契約書)は命の次に大事! 口約束はすべてゼロ。紙に残された数字と記録だけが、あなたのお金と身を守る最強の武器になりますことよ!

読んでいただきありがとうございます。

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