↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『借金50億の悪役令嬢ですが、複利と会計チートで大富豪に返り咲きますわ!〜王太子は損切りし、割安株の天才魔導師と溺愛FIRE〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/25

EP 15

持参金返還で火の車の王太子と、リリアが手を染めた『魔導ツケ払い』の蜜

 アークライト公爵邸が第1四半期の完全黒字化に沸き立ち、極上のローストビーフの香りと歓声に包まれていた同じ夜――。

 王都の一等地にそびえ立つ王太子宮の執務室は、重苦しい沈黙と焦燥の熱気に満ちていた。

「……金が、ないだと……!? ガストン卿、もう一度言ってみろ!」

 革張りの椅子から立ち上がり、机を激しく叩いたのは、金髪碧眼の王太子エドワードだった。

 その青い瞳には血走った怒りが宿り、手元には王室財務局から突きつけられた、真っ赤な警告印が押された出納簿が広げられている。

 向かいに座る恰幅の良い財務大臣ガストン卿は、脂汗をハンカチで拭いながら、忌々しそうに口を尖らせた。

「申し上げた通りです、エドワード殿下! 先日の夜会で、セシリア嬢に突きつけられた持参金の返還【三億リン】、そして殿下がツケ払いにしていた私的交際費の精算【八千二百万リン】……! あの日、手付金として殿下の口座から即座に引き落とされた三千万リンを除いても、残債は【三億六千八百万リン】に達しておりますぞ!」

「うぐっ……! だ、だが、それは分割で支払う契約のはずだろうが!」

「その分割金が、殿下の毎月の王族歳費(月額手当て五百万リン)から、毎月四百万リンずつ天引きされているのです!」

 ガストンが苛立たしげに書類を弾いた。

「結果、今月の殿下のお手元に残る自由な資金は――たったの【百万リン(約百万円)】しかございません! そこへ加えて、先日の私の『黄金竜ファンド』からセシリアに出資金五億リンを満額回収された一件で、商会の当座預金も極めてタイトになっておりましてな……。当面の間、殿下に無担保で裏金を融通することは不可能です!」

「ひゃ、百万リンだと……!? ふざけるな! そんな端金、私の特注ワイン三本で消し飛んでしまうではないか!」

 エドワードは頭を抱えてソファーへ崩れ落ちた。

 名門アークライト公爵家を後ろ盾にし、セシリアの潤沢な実家資金に寄生していた頃は、欲しいものは何でも手に入った。

 どれほど豪遊しようと、「公爵家に回しておけ」の一言ですべて片付いていたのだ。

 だが、あの夜会でセシリアという巨大なスポンサーを「不良債権」としてバッサリ損切りされた瞬間から――王太子の財布は、見るも無残な干上がった水たまりへと成り果てていた。

「くそっ、あの傲慢女め……! 婚約破棄されたくせに、なぜ惨めに泣きつかず、逆に私を追い詰めてきおるのだ……!」

 その時、執務室の豪奢な扉が控えめに開いた。

「エドワード様ぁ……?」

 甘ったるい猫撫で声とともに現れたのは、ゆるふわなピンクブロンドの髪を揺らし、大きな垂れ目を潤ませた男爵令嬢リリアだった。

 小柄な身体をすり寄せるようにしてエドワードの膝元へ腰掛け、上目遣いで王太子の胸元に指先を這わせる。

「どうされたのですかぁ? 難しいお顔をして……。そんなことより、明日の王都劇場での特別オペラ鑑賞会、リリアも一緒に行きたいですぅ! それでね、王都の高級洋服店『ラ・レーヌ』に飾ってあった、白鳥の羽をあしらった最新流行のイブニングドレス……金貨十五枚(百五十万リン)なんですけれど、エドワード様、買ってくださいますよねっ?」

 無邪気におねだりするリリア。

 だが、今のエドワードにとって、百五十万リンという数字は喉元に突きつけられた刃に等しかった。

「……すまない、リリア。今月は……少しばかり王室の会計監査が厳しくてな。そのドレスは、来月まで我慢してくれないか」

「えっ……? が、我慢……ですかぁ……?」

 リリアの愛らしい瞳から、一瞬にして光が消え去った。

 エドワードの冷や汗混じりの拒絶を聞いた瞬間、彼女の胸の奥底で、ドロドロとした黒い澱(おり)が激しく渦巻いたのだ。

(我慢ですって……!? ふざけないでよ! 明日の夜会には、あの憎たらしいセシリアの取り巻きの令嬢たちも勢揃いするのよ!? 王太子妃の内定者である私が、先月と同じドレスを着ていったら……『あら、殿下にお金をケチられているのかしら?』って陰口を叩かれて、社交界の笑いものになってしまうじゃないの……!!)

 一度味わってしまった、最上流階級の贅沢とチヤホヤされる優越感。

 周囲からの「さすがリリア様、お美しい」「殿下の最愛の花」という称賛のマウント。

 それを手放すことなど、彼女の肥大化した承認欲求が絶対に許さなかった。

「……わかりましたわ、エドワード様。お仕事が大変なんですものね。リリア、わがままを言ってごめんなさい……」

 殊勝らしく微笑んで執務室を辞したリリアは、廊下に出た瞬間、冷酷な目で舌打ちした。

「チッ、口先ばかりで甲斐性のない男ね……! セシリアから婚約者を奪ってやったのに、肝心のお金が出せないなら、ただの金髪の置物じゃないの!」

 悔しさに足を踏み鳴らし、王宮の裏門を出て王都の繁華街へと歩き出すリリア。

 煌びやかなショーウィンドウに並ぶ、煌めく宝石や豪奢なドレス。

 だが、男爵令嬢の実家の仕送りなど、月に銀貨二十枚(二万リン)にも満たない。手元の小遣いはゼロ。

 ――その時だった。

 薄暗い路地裏の角から、シルクハットを深く被った怪しげな金融ブローカーが、揉み手をしながら擦り寄ってきたのだ。

「おやおや、お悩みのようですな、麗しのリリア様」

「な、何よ貴方は……!?」

「へへっ、怪しい者ではございませんよ。王都の目の肥えたご令嬢方に、夢のような魔法をお届けしている『金貸しギルド・シルバーシャドウ』の者でございます」

 男は懐から、艶やかな黒檀に銀の魔導文字が妖しく脈打つ、一枚の魔導石板を取り出した。

「手持ちのお金がない……けれど、今すぐ誰もが羨むドレスや宝石を手に入れて、社交界で輝きたい……。そんな貴女様に最適なのが、こちらの【魔導ツケ払い札(定額返済契約)】でございますよ」

「ツケ払い……?」

「左様でございます! この石板を使えば、王都中の高級ブティックや宝石商の品物が、今すぐその場で全額『ツケ』でお持ち帰りいただけます! しかも! どんなに高価なドレスをお買いになっても、お支払いは毎月たったの【大銀貨一枚(一万リン)】の定額で良いのでございますよ!」

「ま、毎月たったの一万リン……!?」

 リリアの瞳が、パッと歓喜に輝いた。

「百五十万リンのドレスを買っても、毎月一万円だけでいいの……!? それなら、私のお小遣いや、たまにエドワード様からもらう小銭でも余裕で払えちゃうじゃない!」

「ええ、ええ! まさに貴族の皆様のための、お財布に優しい救済の魔法具でございます! さあ、こちらにサインと魔力刻印を……」

 男が差し出した契約石板の裏面――。

 そこには、目視では絶対に読めない米粒以下の古代魔導文字で、こう記されていた。

『実質年利十八・〇%(月利一・五%)複利計算。返済額は利息に優先充当され、元本返済額が未達の場合は自動的に翌月へロールオーバーされるものとする』

 かつて第7話で新米メイドのミアを地獄の底へ突き落としかけた、あの【悪魔の定額リボ払い契約】と全く同じ罠だった!

 だが、金融リテラシーなど欠片も持ち合わせていないリリアは、疑うことすらなく、満面の笑みで羽ペンを走らせた。

「ふふっ、これで明日の夜会も私が主役よ! セシリア、見ていなさい……!」

 リリアの手の中で、黒い石板が妖しく燐光を放った。

 それは、身の丈に合わない見栄を維持するために、自ら破滅の泥沼へ足を踏み入れた瞬間だった――。

 翌朝。

 公爵邸の最上階テラスで、私は澄み切った朝の空気を吸いながら、焼きたてのクロワッサンと紅茶を優雅に楽しんでいた。

 肩にはプラチナブロンドの縦ロールが揺れ、耳元には昨晩ノアから贈られたばかりの、最高純度サファイアの髪飾りが煌めいている。

「お嬢様ぁっ! 王都の朝刊新聞が届きましたよぅ!」

 パタパタと小走りでやってきたミアが、新聞をテーブルの上に広げた。

 一面には、昨夜の劇場オペラに現れたエドワード王太子とリリアの写真が大々的に掲載されていた。

 リリアは真っ白な豪奢極まりない特注ドレスを身にまとい、首にはギラギラとした大粒の真珠の首飾りを巻き、勝ち誇った笑顔を浮かべている。

「うわぁ……! エドワード殿下、お金がないはずなのに、リリア様にこんな超高級ドレスを買い与えたんですかね……?」

 ミアが首を傾げる。

 向かいの席で、静かに魔導工学の専門書を読んでいたノアが、アメジストの瞳を上げて淡々と告げた。

「あり得ませんね。王宮財務局の出納記録を並列演算で照合しましたが、エドワード殿下の当座口座からは、昨日一リンも引き出されていません」

「えっ!? じゃあ、リリア様はどうやってあのドレスと宝石を手に入れたんですかぁ!?」

 私は胸元から銀縁眼鏡を取り出し、キリッと鼻梁へ押し上げた。

 獲物の足音を捉えたハゲタカの目が、新聞の写真の片隅――リリアのクラッチバッグから覗く『黒い石板の角』を冷徹に射抜く。

「決まっていますわ、ミア。あの男爵令嬢……手を出してしまったのですわね。貴方を地獄の底へ突き落としかけた、あの【悪魔の魔導ツケ払い札(年利十八%のリボ払い)】に」

「ひゃあああああっ!? あ、あの呪いの石板にですかぁぁぁっ!?」

 ミアが両手で口を押さえて飛び上がった。

「お嬢様! リリア様、ドレスだけじゃなくて、首飾りも指輪も全部ピカピカの新作ですよ!? 全部で金貨三十枚(三百万リン)以上は絶対にしてますぅぅっ!」

「ええ、そうでしょうね」

 私は優雅にティーカップをソーサーに置き、冷徹な笑みを浮かべた。

「いいこと、ミア? 人間という生き物にはね、一度上げてしまった贅沢な生活水準を、自分の意志で下げることを極端に嫌うという心理的な罠が存在しますの。行動経済学において、これを【消費の下方硬直性(生活水準の下方硬直性)】と呼びますわ!」

「かほう……こうちょくせい……?」

「そうよ! 一度ファーストクラスに乗ってしまった人間は、エコノミークラスに戻ることを『屈辱』だと感じてしまうの! リリアは王太子の寵愛を受け、最高級のドレスと社交界のチヤホヤを味わってしまった。だから、王太子の財布が空っぽになった現実を受け入れられず、自分の見栄とプライドを守るために、未来の収入を前借りする禁断の借金に手を出したのですわ!」

 私は手帳を開き、ペンを走らせてサラサラと計算式を書き殴った。

「ミア、計算してごらんなさい。仮にリリアが、見栄のためにツケ払いで【三百万リン】の買い物をしたといたしましょう。彼女は『毎月たったの一万リン払えばいい』と安心しきっているはずですわ」

「は、はい……! 私もそうでした……!」

「年利十八%の金利において、三百万リンの借金に対して【毎月発生する利息】はいくらか分かりますこと、ノア様?」

 ノアが涼やかな美声で、死神のように即答した。

「三百万リンに年利十八%を掛けると、年間の利息は五十四万リン。それを十二ヶ月で割ると……一ヶ月あたりに発生する利息は【四万五千リン】ですね」

「――っ!?」

 ミアの顔から、サーッと血の気が引いていく。

「え……? よ、四万五千リン……!? リリア様が毎月払う予定のお金は……【一万リン】ですよね……!?」

「お分かりになりましたかしら?」

 私は眼鏡のブリッジをクイと押し上げ、残酷な現実を解体した。

「リリアが毎月一万リンを支払っても、利息の四万五千リンにすら三万五千リン足りませんわ! つまり、彼女が支払ったお金は全額が利息に消え、一リンたりとも元本は減らない! どころか――毎月三万五千リンずつ、借金の元本がひとりでに【雪だるま式に膨れ上がっていく】のですわっ!」

「ひ……ひゃああああああああっっ!!」

 ミアが頭を抱えて絶叫した。

「払ってるのに! 毎月三万五千円ずつ借金が増えていくんですかぁぁぁっ!?」

「その通りよ! これぞ、アインシュタインが驚嘆した【複利】という名の怪物の真の姿ですわ!」

 私は立ち上がり、テラスの手すりから王都の街並みを見下ろした。

「複利とは、正しい投資に使い、時間を味方につければ、雪だるま式に資産を増やして凡人を大富豪へと押し上げる【最強の天使】となります。我がアークライト公爵家が、特許のロイヤリティを元手に再投資を繰り返し、資産を爆発的に増やしているようにね!

 しかし――! 年利十八%の高金利で複利を敵に回せば、それは一瞬で人間を骨の髄まで貪り食う【最悪の悪魔】へと変貌いたしますのよっっ!!」

「味方にすれば最強、敵に回せば地獄……!」

 ミアがゴクリと息を呑み、震え上がった。

「リリアはこれから、限度額に達するたびに二枚目、三枚目の悪徳金融の石板に手を染め……やがて利息を払うために別の高利貸しから金を借りる【多重債務の自転車操業】へ転落していくことでしょう。身の丈に合わない見栄を買い続けた者の末路は、いつの時代も自己破産と完全破滅ですわ」

 私の冷徹な分析に、テラスが静まり返る。

 すると――私の背後から、スッと暖かな気配が近づいてきた。

「……セシリア様」

 振り返ると、ノアがその長身を折り曲げ、至近距離から潤んだアメジストの瞳で私を見つめていた。

 その切れ長の瞳には、一片の曇りもない純度百パーセントの熱情と崇拝が宿っている。

「ノ、ノア様……? またお顔が近いですわ……」

「……愚かな見栄に溺れて自滅していく者たちと、数字の真理を見つめ、関わるすべての人間を豊かに導くあなた……。その絶対的な美しさに、俺の心臓はまたしても奪われました」

 ノアの白く長い指先が、私の耳元のサファイアの髪飾りにそっと触れた。

 触れ合う肌の熱に、私の心臓がドクンと跳ね上がる。

「セシリア様。俺の技術も、特許も、そしてこの命の鼓動さえも……すべてあなたのものです。あなたが望むなら、世界中の富をあなたのためだけに集める魔導演算網だって構築してみせます。どうか、一生俺をあなたの最も近くに投資し続けてください」

 至近距離で囁かれる、低く甘い美声!

 殺傷能力百パーセントの、国宝級イケメンによる重度溺愛の蕩け顔!

(重い! 相変わらず愛のボラティリティが天井知らずですのよノア様ーーーっっ! 私は単に、他人の自滅パターンを解説しただけの強欲会計士ですわよっ!)

「きゃあぁぁぁっ! 朝からノア様の独占投資アタックが炸裂してますぅぅっ!」

「だ、誰かミアの口にクロワッサンを詰め込みなさいっ! ノ、ノア様も席にお戻りなさいなっ!」

 真っ赤になって扇子で顔を隠す私と、満面の笑みで囃し立てるミア。

 不良債権を損切りし、無駄な固定費を削り、特許ビジネスで黒字化を達成した第1章は、これ以上ない大勝利で幕を閉じた。

 ――だが、私たちの進撃はここからが本番だ。

 私は扇子をバチンと閉じ、王都の青空へ向けて力強く指を突きつけた。

「家計の止血は完了いたしました! 次は――ノア様の特許回路を組み込んだ【新型魔導ランタン】を引っ提げ、王都のエネルギー市場へ本格参入いたしますわよっ! 中抜き商人どもを根こそぎ駆逐し、巨万の富を築き上げて差し上げますわ!」

 悪役令嬢セシリアの知財チートと快進撃は、いよいよ本格的なベンチャー企業急成長の嵐――第2章へと突入していくのだった――!

【巻末付録】セシリアお嬢様の3行マネー講座

「生活水準の下方硬直性」という見栄の罠に気をつけよ! 一度上げた贅沢な暮らしをプライドのために落とせないことこそが、多重債務への転落の第一歩ですわ!

複利は「味方にすれば最強、敵に回せば最悪の悪魔」! 投資での複利は資産を爆発的に増やしますが、高金利の借金(リボ払い)での複利は人生を一瞬で破滅させますことよ!

身の丈に合わない欲望は「未来の自由」を前借りしているだけ! 他人に誇示するための見栄の消費を今すぐやめ、自分自身の真の純資産を積み上げなさい!

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。