第二話
五年前のことだ。
御影と天原は、この頃には既にバディを組んでおり、沢山の事件を解決し、活躍していた。署内では、御影刑事といえば、潜伏の御影。オーダーメイドで特別に製作された靴によって、尾行や潜伏を得意としていた。天原刑事といえば、捜査の天原。その溢れる好奇心から、事件の隠された真実に辿り着き、成果を上げてきた。
そんな二人に、今日も事件が立ちはだかる。
「今日、夜が明けた頃、老人の死体が発見された。外傷などはない。毒物によるものでもない。であるからして、殺人ではないという路線で見ている。老人であるから、寿命かもしれない。だが、その路線も考えた。見たところ被害者は90歳越え、あのようなご老人が夜中に街を歩けるとは思えないのだよ。つまり、行き詰まっている。君たちの意見も聞きたいということだよ。御影、天原コンビよ。」
御影と天原よりも地位が高く、上司であるこの女性は、偉そうに脚を組み、ボールペンをカチカチを鳴らしている。天原は数秒固まったあと、何かを思い出したように立ち上がった。
「まぁ、細かいことは置いといてだな。御影よ!」
天原は御影の背中を少々強めに叩き、ソファから腰を上げた。
「早速、捜査始めるぞ。」
「な、やるのか?」
「90歳なら寿命と考えるのが妥当じゃないのか??」
御影はすぐに、何かを思いついたように首をかしげる。
「いや、でも確かに、どうして外に出ているんだ??」
御影の頭の回転の速さに呆れたような顔をしている。
「お前はその場で考えすぎなんだよ。これはペーパーテストじゃないんだぞ。答えを探しに行っていいんだ。」
天原はそういって、自分のデスクの方へと、歩いて行った。
「それもそうだな。」
「君たちは本当に、"相棒"って感じだ。」
「長いんですよ。彼とはね。」
「まあ、頑張っておくれよ。最後の防波堤たちよ。」
「そんな格好のいい物ではないですよ。」
御影はそういって、天原の方へ向かていった。その背中を見ながら、女警部は、視線を液晶へと移した。映っているのは、リアルタイムで更新されていく事件の一覧。
「老人死亡、今は、昼間か。また80歳、殺人ではない、か。」
「一体、何が起きている。」
キーボードのEnterの打鍵音が大きく響いた。
「よし、まずはこんなところだろうな。色々調べまくって掴んだ情報を書き出しても、五行しか埋まらないとは、俺たちはいっつもこんな事件ばっかだな。なあ、御影よ。」
「そうだな。何故か署長がお気に入りで推薦しだしたんだ。お前をな。迷宮入りになりかけた事件を解決したルーキーだってね。」
「いいや、そいつは違うな。お気に入りだったのはお前の方さ。現行犯逮捕の御影とかキャッチコピーつけられてよ。そっからだぜ、潜伏のスペシャリストとか呼ばれ始めたのは。」
「そうだったかな。どちらにせよ、こんな面倒な立場にあるのは、あの署長のせいだよ。天原。恨むならあっちだ。」
「そうしとくよ。っと、ほれ、こんな雑談の間に五行が十行になったぞ。」
二人のデスクは、向かい合わせで繋がっている。これは、署長の特別措置だそうで、二人のバディとしての効果を最大に発揮させるためということらしい。そんな環境だからこそ、この距離感で捜査を進めることができる。御影のパソコンの画面に、通知が来た。御影と天原しか使えない特殊な連絡ツール。あらゆる情報を瞬時にやり取りできる。
「ふむ、分かっていることをまとめたという感じだな。」
御影の画面内には、十行程度の事件に関する記述がされている。だが、何か結論を導き出したというわけでもなく、警部から聞いた情報をただただ文字に起こしただけだ。
「まあそんな厳しいことを言わないでくれ。なんせ一件だけで何をどうしろっていうんだって話だ。」
「それもそうだがな。」
御影のスマホに、一つのメッセージが来た。警部からだった。
「もう一件、同様のものと思われる事件が発生した。これが何か役に立つといいのだが。」
そのメッセージの次に、資料が添付されてきた。
「天原、同様の事件がもう一件あったらしい。資料送るぞ。」
「やっぱり何かありそうだな。何も根拠はないけどな。」
「現場見に行くか?」
「ああ、そうしようじゃないか。準備だ、準備。カメラ忘れるんじゃねぇぞ、カメラ。」
「分かってる。」
二人は荷物をまとめて、現場に向かっていった。




