第一話
光が差す。するとそこには、影ができる。だが、影を気にする人間など、この世の中にはそうそういない。影よりも光の方が目立つからだ。キラキラしているヤツらと、陰気なヤツ、どちらの方が目に入ってくるかといえば、それはもちろん、キラキラしているヤツだ。そういう世界を恨むヤツらは沢山いる。だが、それが人間とは限らない。
警察という職業に就く人間は、それはもう正義感の強い人間、安定思考な人間などそういう人間が多い。そんな人間たちの中に、好奇心でのし上がってきた人間がいれば、一際目立つことだろう。そう、この男、キラキラしている側の人間、天原太陽。
天原は、ロビーのソファに座り、ノートパソコンと睨めっこしている。だが、集中ができないのか、入口の方を定期的に見ていた。誰かを待っているのか、侵入者を警戒しているのか。
彼が睨めっこしているのは、現在、この街で続出しているとある事件の捜査資料であった。机の上には、パソコンの他に、スマートフォンやメモ帳、カメラ、新聞紙などが、ぐちゃぐちゃと広げられている。
そうしている内に、天原の耳には、聞き馴染みのある足音が聞こえてきた。彼の相棒、御影光だ。御影の足音は少し独特だった。彼の履いている靴の特殊な素材は、足音を極限まで吸収する。だが、その普通ではない足音を、天原は覚えているのだ。
「こっちだ、こっち。」
天原が入口の方へ叫ぶと、御影はそれに気づいて天原の座っているソファの方へと歩いてきた。天原の叫びは思ったよりも大きかったらしく、周りにいた人間も天原の方向を向いていた。だが、それに天原は気づくこともなかった。
御影はソファに腰掛けた。
「全く、声がでかいぞ。少しは周りに気を遣ったらどうだ。」
「どうせ周りも気にしちゃいないさ。それよりもほら、ようやくだぞ。御影。」
天原は、御影に見えるようにパソコンの画面を見せる。そこに映っているのは、この街の地図のようだ。だが、一般的な地図ではないようで、点のようなものが沢山あり、それが画面内を動き回っていた。
「これは、カラスの位置情報か。あの御伽話のような仮説はよせと言っただろう。」
「それがおとぎバナシじゃないかもしれないぞ。こいつら、やっぱり動きがおかしいんだよ。」
「見せてみろ。」
御影は天原のパソコンを手に取り、リアルタイムで表示されたその位置情報を確認した。単独で行動するカラスも何匹かいるものの、複数で行動するカラスが多い。
「これが分かったところで、群れで行動しているとしか判断できないだろう。」
「ああ、そうだったな。この位置情報だけ見たって、分かることはそれだけだ。だが、事件の現場、日時、諸々重ね合わせてみると、こうなるわけだ。」
天原は、御影が持つパソコンのキーボードを手慣れた手つきで操作すると、画面の表示が変わった。カラスの位置情報に加えて、事件の場所、日時などの、五つのWが全て表示され、カラスの行動と合わせてみることができるようになった。
「ふむ、なるほど。天原、今回も一本取られたようだな。分かった。今回の捜査も協力しよう。」
「そう来なくちゃな!」
御影と天原はアメリカンなハイタッチをした。手と手がぶつかるその音は、ロビー内に響き渡った。
彼らが街一帯に生息するカラスにGPSをつけるということをしたのには、しっかりとした理由があった。事の発端は、五年前にまでさかのぼる。




