第8話 決戦①
2週間後、今日が決戦の日だ。
俺は短剣を腰に差し、準備を済ませた。
「行くよ!ソフィ!!」
「うん。」
この2週間で魔力操作はだいぶ慣れてきた。
そこら辺のチンピラなら、もう負ける気はしなかった。
俺たちは街の外へ続く橋へ向かった。
そこには既にカーネルたちが集まっているはずだ。
「お、来た来た、こっちだぞ~!」
「あ!カーネルさんだ!」
「ほら、コイツらが俺の頼れる隊員達だ!」
カーネルは自分の後ろに立つ5人の隊員を親指で指した。
「騎士団 第6部隊副隊長!カーネル様の右腕兼妻のミルネっす!ヨロシクっす!」
水色の三つ編みを揺らしながら、ミルネが前に出る。
小柄な体つきと可愛らしい顔立ち、とても騎士団の副隊長には見えなかった。
「え~!カーネルさん結婚してたの!?」
「してね~よ、コイツが勝手に言ってるだけだよ」
「自分はまだ結婚できる年じゃないんで我慢してるんすよ!」
「じゃあ2人は付き合ってるってことか?」
「そうっす!あと数年待てば奥さんっす!」
「付き合ってもねぇし、その気もねぇよ。」
「え~!カーネル様ひどいっすよ~!!」
なんだ、この部隊は変人が2人もいるのか...
「俺たちも名乗ったほうが良いか?」
「いや、大丈夫だ俺から伝えてる。」
カーネルは唇を尖らせたミルネの頭を押さえながら言った。
「さっさと行きてぇし、俺が手短に紹介する。」
「右からカイン、オルガ、レーン、シェリー!はい、お終い!」
隊員達はカーネルの行動に呆れているようだった。
こんな隊長でこの部隊は大丈夫なのか。
「ほら、早くいくぞ~お前ら~!」
カーネルは先頭を切って歩き始める。
ミルネもカーネルの横を歩き始めた。
「シェリー...だっけ?隊長がアレでお前らも大変だな。」
「確かに変な人だけど、そこが隊長の良い所だからね。」
「女好きのドМも良い所か?」
「まぁ、ある意味、良い所ではあるな!」
「もう皆、隊長に聞こえるよ?」
どうやら、カーネルも意外と慕われているようだな。
皆とても仲がよさそうだ。
しばらく歩いたが、変わらない森が続く。
「お前らって何歳なんだ?」
「私は18だよ。」
シェリーが手を挙げる。
「俺は21。」
「17!」
「19です。」
シェリーに続いてカイン、オルガ、レーンの順で答えていく。
「若いのに皆しっかりしてるんだな。」
「まぁ隊長がコレだからな!」
「俺らが居ないと隊長はすぐ問題を起こすしな。」
しばらく他愛もない話を続け歩いていくと廃砦が段々と見えてきた。
ツタに覆われた廃砦は、まるで時間から切り離されたように静まり返っていた。
鳥の声すら聞こえない。ただ風だけが、やけに耳に残る。
「本当に黒牙はこんな所に居るのか?」
「隊長の情報力は舐めない方が良いよ、私達の下着の色まで知ってるんだから。」
「は?噓だろ?」
「もちろん嘘だよ。」
やっぱり変人は3人かもしれない。
「最後に作戦を改めて伝えておく。」
「俺が先頭で囮になる、その間ソフィ、カレン、ミルネはアジトに乗り込め。」
「他は俺と地上にいる奴らを相手にして、後でソフィ達に合流。」
「ただし、中の状況は分からねぇ。想定外は必ず起きると思え。」
カーネルが剣を天に掲げた。
全員、顔を見合う。
「お前ら戦いが終わったら皆で飲みに行こうぜ、俺が奢ってやる。」
「だから全員勝ちに行くぞ!!」
俺たちはカーネルに続いて砦へと走り出した。
走っていくと木々が晴れて開けた場所に出た。
そこに、廃砦の入り口が静かに口を開けていた。
その時、カーネルの腹を謎の光が貫いた。
「カーネルっ!」
「狙撃だ!全員、俺から離れるな!」
次々と狙撃魔法がカーネルを襲う。
「クソっ!どっから撃ってきやがる!」
カーネルが顔を歪ませ叫ぶ。
「みんな見て!あそこ!」
カレンが砦の窓を指さした。
「オルガ!撃て!」
こちらも魔法で応戦する。
魔法は砦に直撃し煙幕を展開した。
「行くぞ!走れ!!」
カーネルは鞘から剣を抜き、先頭に躍り出た。
次々とまばらに放たれる狙撃魔法を、カーネルが剣で弾く。
俺たちはカーネルの背後に付いた。
ぞろぞろと砦からナイフや剣などを持った、黒牙のメンバーが出てくる。
「作戦通り行くぞ!」
カーネルたちが一気に地面をけった。
「行くよ!ソフィ!ミルネさん!」
俺たちはカーネルたちが作った隙を通り抜け、砦へと乗り込んだ。
「ここは任せろ!」
「ありがとう!カーネルさん!」
俺たちは砦の奥へと進んだ。
「隙アリィッッ!!!」
その時、カーネルの左腕が宙を舞った。
「痛ってぇなぁ!!」
「...マジかよ」
敵の一人が後ずさった。
骨が軋む音と共に、腕が再構築されていく。
カーネルは肩を回した。
「こういう反応、もう飽きたんだよ!」
「マジで痛てぇんだからな!」
「まさか...お前。肉盾のカーネルか!」
「ほぉん、俺の事を知ってるみたいだな。」
「だが俺は男に興味ねぇ!死ねぇ!」
カーネルは剣を振り下ろした。
剣を伝い肉を切り裂く感覚が広がる。
1人倒しても次々と黒牙のメンバーが襲い掛かってくる。
「次から次から、害虫みたいに集まってきやがって!」
腹を切り開かれ臓物が飛び出ようと、心臓を貫かれようと肉体は再生していく。
「いっっっっっでぇぇぇぇ!!」
息を切らしながらもカーネルは前に立ち続ける。
「隊長!前に出すぎです!」
カインが叫ぶ。
「うるせぇ!俺が前にいねぇと誰が盾になるんだよ!」
黒牙の刃が再びカーネルへ集中する。
その隙にオルガの魔法が敵陣へ突き刺さった。
「まとめて吹き飛べ!」
爆発と共に数人の黒牙が倒れる。
「ナイスだオルガ!」
外にいた黒牙のメンバーの半数を倒し切ったころには、全員が疲れ切っていた。
「はぁ、はぁ、粗方片付いたな。俺たちも中に入るぞ!」
その時、頭上に影ができた。
「お前ら!避けろっ!」
地面が砕け、土煙が舞い上がる。
「騎士団ってもよぉ...この程度かぁ?」
土埃が晴れると、そこには長髪を編んだ小柄な男が居た。
「誰だよ、お前。」
「てめぇなぁ、教養がねぇのかぁ?」
「人に名前聞くならよぉ、自分から名乗んだろうよぉ...」
「お前みたいな童貞に名乗る名などねぇよ。死にたくなきゃ引っ込んでろ。」
「隙ありっ!」
カインが男の背後を取った。
「カイン!避けろ!!!」
男の足元から黒い影が走り、地面から飛び出た黒い影がカインの腹を貫いた。
「酷いじゃねぇかよぉ、いきなり後ろからよぉ...」
「隊...長。」
カインの体から力が抜け、剣がドサッと音を立て地面に落ちた。
「カイン...?」
オルガの顔から血の気が引く。
その場にいた全員の背筋が凍りついた。
「隊長ぉ?怪我がない隊長なぁ...あぁ~お前かぁ...お前が肉盾かぁ...」
「今日は良い日だなぁ...こんな有名人に会えるなんてぇなぁ...」
「俺は副首領のビアン...今日ここで肉盾を殺す男の名だぁ...」
「死ぬのはお前だよ、租チン野郎。」
カーネルが剣を強く握り、ビアンへ突きつける。
「その汚ねぇ面、更に酷くしてやる。」
「オルガ!レーン!シェリー!こいつは俺がやる。残りの雑魚共を頼んだ!」
地面を強く踏み込みビアンとの距離を詰める。
ビアンがカインの体を投げ飛ばした。
「ッッ...!」
カーネルは歯を食いしばる。
ビアンの足元から伸びた影が、槍のようにカーネルの肩や脇腹を次々と貫いた。
「ぐっ...!」
肉が裂け、骨が軋む。
だがカーネルは止まらない。
「まったく、良い性格してやがるぜ。」
次々と伸びる影を剣で弾く。
「意外とやるじゃんかぁ...部下を守れない盾がさぁ...」
ついにカーネルがビアンの間合いへ踏み込んだ。
だがビアンも黙ってはいない。
足元の影が槍となり、カーネルの心臓を貫いた。
「へぇ~これでも死なないんだぁ...」
「でも、痛いだろぉ?苦しいだろぉ?死にたいよなぁ...早く死ねよなぁ?」
「心臓なんか何度も潰れてんだよっ!」
カーネルが思いっきり、ローキックを喰らわした。
ビアンが砦の影の元まで吹き飛んだその時、
周囲に散らばった影の槍が一斉にビアンへ戻っていった。
「痛いじゃないかぁ、酷いなぁ、酷いよなぁ!!」
ビアンが大きく飛び跳ねカーネルに数本の槍と共に突っ込んでくる。
避けられた影の槍が何本も広く地面へ突き刺さった。
「なるほどな。」
「お前、自分の影しか操れねえんだろ。」
「なっ!」
「図星だな。」
カーネルがビアンの首を掴み、そのまま地面へ押し倒した。
自分の体でビアンの影を完全に覆い隠す。
「これでお前の影は使えないな。」
ビアンが口角を上げた。
「甘いんだよなぁ...肉盾ぇ!」
「あ?どういう意味だよ。」
その時だった。
周囲に突き刺さった影の槍が、一斉にビアンへと吸い寄せられていく。
そのうちの一本が、シェリーの頭を貫いた。
槍は血を引きずるように、そのままビアンの元へ戻っていく。
「...は?」
カーネルの顔にシェリーの血が飛び跳ねる。
次第に首をつかむ手が強まっていく。
「死んだ、死んだぁ!」
「2回!2回も部下を死なせたぁ!」
苦しげに喉を鳴らしながらビアンが笑う。
「お前がだぁ!」
「肉盾の役割も果たせてねぇんだよぉ!!!」
「...お前はもう黙れ。」
指が食い込む。
ビアンの首から嫌な音が鳴った。
顔が赤黒く変色し、口から泡が溢れる。
「肉盾を殺せたぁ...」
ビアンは憎ったらしい顔のまま動かなくなった。
「...お前!お前が!」
カーネルは動かなくなったビアンの体を何度も踏みつける。
「隊長!もうやめてください!」
「離せ!レーン!オルガ!」
レーンとオルガが必死にカーネルを引き剥がす。
「もう良いでしょう!冷静になってください!」
「隊長!しっかりしてくれよ!」
地面には原型を失ったビアンの死体。
それでもカーネルの怒りは収まらなかった。
「隊長...今は前を向いてください...」
レーンが涙を流しながら力なく言った。
カーネルは握り締めていた拳をゆっくり開く。
「...悪かった。」
内臓の飛び出た者、体が裂けている者、まるで地獄のような光景だった。
「...オルガ、レーン、行くぞソフィ達が待ってる。」
「「はい!」」
カーネルは生き残った2人を連れて砦へ入っていく。
戦いはまだ始まったばかりだった。
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