第9話 決戦②
カーネルたちが一気に地面をけった。
「行くよ!ソフィ!ミルネさん!」
俺たちはカーネルたちが作った隙を通り抜け、砦へと乗り込んだ。
「ここは任せろ!」
「ありがとう!カーネルさん!」
俺たちは砦の奥へと進んだ。
「誰も居ないのか?」
砦の中は少し薄暗く不気味だった。
壁には血痕が飛び散っており、血生臭さが充満していた。
俺たちの足音がやけに大きく感じた。
「おーい!誰かいませんかー!」
カレンが大声で奥に向かって叫ぶ
返事はなかった。
「...一応、警戒しといた方が良いっすね。」
1階を歩いていると、奥から階段が見えてきた。
階段の前で、3人の足が止まる。
砦の奥は、静かすぎた。
「...ねぇ、ミルネさん」
カレンがぽつりと声を出した。
「ミルネさん、さっきから、ずっと気になってたんだけど...」
「どうしたんすか?」
「砦に入ってから妙に落ち着いてるよね、お腹でも痛いの?」
ミルネの肩が一瞬だけ揺れた。
「...そうっすか?」
「多分カーネルが居ないからだと思うぞ」
砦に入るまでカーネルにベッタリだった変人だ。
どうせ理由なんてそのくらいだろう。
「いやいや、そんなんじゃないっすよ!」
「ただ、昔を思い出しただけっす。」
「昔?」
カレンが聞き返す。
ミルネは、しばらく黙っていた。
砦の中は静かすぎて、呼吸の音だけがやけに響く。
やがて、ぽつりと口を開く。
「...昔っすね、自分の村、魔女信徒に襲われて……全部、やられたっす。」
その一言で、空気が変わった。
カレンの表情が引き締まる。
俺は魔女信徒って何?とカレンに聞きたかったが、
雰囲気的に聞けなかった...
「家族も、村の人も、全部殺されたっす」
ミルネはそれだけ言うと、一度だけ息を吐いた。
まるで天気の話でもするみたいな口調だった。
けど、空気は重くなっていた。
「...ミルネさん」
「その時に、あ~もう死ぬって思ったっす。」
「でも、死ななかったっす」
少しだけ間を置く。
「カーネル様と、そこで初めて出会ったっす」
その名前が出た瞬間、声の温度が少しだけ変わった。
「ボロボロになりながら、助けてくれたんすよ」
「それで騎士団に入ったの?」
「そうっす」
ミルネは頷いた。
「最初は全然ダメだったっす。気持ち悪いとか、男の癖にとか、言われたっす」
俺は言葉を失った。
ミルネはそれでも淡々と続ける。
「でもカーネル様だけは、「じゃあお前、俺の部隊来いよ」って言ってくれて」
「えっとミルネさん?さっき何て言ったの?お、男の癖に...?」
どうやらカレンも同じ所で引っ掛かったらしい。
「気づいて無かったっすか?自分、男っすよ。」
「いや待って!?」
「私ずっと女の子だと思ってたんだけど!?」
「よく言われるっす。」
水色の三つ編みを揺らしながら、ミルネが肩をすくめ笑った。
小柄な体に整った顔立ち。
正直、今でも男には見えない。
「それより、今は任務中っす。」
その言葉で俺たちは我に返った。
ここは敵のアジトのど真ん中だ。
のんびり立ち話をしている場合じゃない。
「...そうだった。」
カレンが小さく頷く。
俺たちは再び警戒しながら階段を上り始めた。
ゆっくり一段ずつ上っていく。
階段を上るたびに、鼓動が早まる。
二階には、一つだけ大きな扉があった。
「居るね。」
カレンがそう呟き、剣を抜いた。
カレンの一言で無意識に短剣を握る手が強張った。
扉の向こうからは何も聞こえない。
だが、確かに人の気配だけは感じる。
まるで獲物を待つ獣のように。
「開けるぞ。」
ゆっくりと扉を開く。
居た。
忘れるはずがない。
初めて植え付けられた恐怖。
あの日の事が鮮明に脳裏によぎった。
部屋の真ん中に立っていたのは、あの金髪の男だった。
「会うのは...これで3回目だな、嬢ちゃん。」
「ソフィ!危ないっ!」
カレンに手を引かれる。
その時、ナイフが俺の顔を掠めた。
数本の髪が宙を舞う。
「っ...!」
「前より良い顔するじゃねえか。」
男が手を開いた。
その瞬間。
手のひらがぬるりと裂ける。
肉の奥から黒い刃がぬるりと這い出してきた。
「っ...!」
背筋に冷たいものが走る。
あの日と同じだ。
身体が勝手に後ずさろうとする。
「うげぇ、キモイっすねコイツ...」
ミルネが露骨に顔をしかめる。
「良いな。」
「怯えた顔も、嫌悪した顔も。俺は全部好きだぜ。」
「俺の名前はロイ、あの世への土産話にでもしてくれよ。」
ロイは口を大きく歪めて笑い、黒い刃を指先で弄びながら、一歩前へ出る。
「ソフィ!ミルネさん!行くよ!」
俺たちは勢いよく地面を蹴った。
ロイの周りにナイフが次々と浮かび上がる。
1本、2本と増え続け気づけば、10本以上のナイフが宙に並んでいた。
ナイフが俺たちへ向けられ、一斉に放たれた。
「ッ!」
カレンが飛んできたナイフを弾き飛ばしていく。
次々と花火を散らしながら、カレンはロイとの距離を詰めていく。
次第にナイフのスピードが上がり、遂にカレンの体に傷が付く。
赤い線が走る。
それでもカレンは止まらない。
「ソフィ!今!!」
「分かってる!」
俺は魔力を手の平に集めた。
手が震える。
ロイの顔を見るだけで、あの日の恐怖が蘇る。
「喰らえ!」
魔力を圧縮し、一気に放つ。
青白く光る魔力が、轟音と共にロイへと突き進む。
ロイの目前へ到達した瞬間。
空間を揺るがすほどの爆音が響き渡り、爆煙が視界を包んだ。
部屋全体に亀裂が走る。
「当たった!」
思わず声が漏れる。
爆煙がゆっくりと晴れていく。
だが、その先には。
十数本のナイフが円陣を組むように宙を巡り、盾のようにロイを守っていた。
爆煙の中から現れたロイには、傷一つ付いていなかった。
「良い一撃だな。」
「だが、まだ足りねえな。」
ロイが指を鳴らした。
瞬間、宙に浮いていたナイフが一斉に軌道を変える。
「来るっす...」
ミルネが低く呟いく。
次の瞬間、ロイの姿が消えた。
(消えた...何処に行ったんだ...)
「上っす!」
ミルネの声に反応し、天井を見上げた。
ナイフが、俺の真上に振り下ろされる。
俺は短剣でロイのナイフを防いぐ。
「っ...!」
強い力で地面に押し付けられる。
「いい動きだ。」
ロイの指先がわずかに動く。
その瞬間、ミルネの背後に黒い刃が現れた。
「ミルネッ!」
ミルネは体を捻り、ナイフを避ける。
ナイフはひらりと方向を変えカレンへと向う。
「カレン!!」
「え...?」
カレンの動きが一瞬遅れた。
「...っ!!」
カレンの腹に、刃が深く突き刺さった。
カレンの口元から血が噴き出す。
「カレン!!」
カレンの膝が崩れ落ちた。
床に赤い血がが落ちる。
ロイは満足そうに目を細めた。
「いいねえ。」
「良い崩れ方だ。」
ミルネの歯が軋む。
「っ、お前...!」
ミルネが踏み込む。
「危ねえなあ。」
ミルネの剣とロイのナイフが重なり合う。
「カレンッ!」
俺はカレンの元へ駆け寄り治癒魔法のスクロールを取り出した。
スクロールが淡く光り、カレンの傷をゆっくり塞いでいく。
しかし、スクロールは直ぐに光らなくなった。
「なんでっ!まだ傷は塞がって...!」
「ソフィ...」
カレンが俺の手を弱々しく握る。
「私は良いから...ミルネさんの方を...」
カレンの腕から力が抜け落ちる。
「カレン!」
俺はカレンの手首を掴む。
(...まだ脈がある!)
「ソフィ!危ないっす!」
「はっ!」
飛んできたナイフを手の平で受け止める。
「い、痛ってぇ...!」
手の平をナイフが貫通し血を流す。
貫通したナイフが上へと浮き上がり俺の手を切り裂いた。
「あ゛っ゛!」
血が手のひらから噴き出し、地面に血溜まりを作っていく。
「良いなあ良い声するなあ!」
ロイがミルネの攻撃を受け流しながら叫んだ。
ミルネが踏み込む。
「こっちに集中しろっす!」
ミルネが剣を大きく振り下ろした。
「お前は詰まんねえよ、三つ編み。」
ロイがミルネの首を掴む
「がっ...離せっす!」
ミルネがロイの手を引っ掻く。
首が段々と強く締め付けられる。
「死ねよ。」
ロイがナイフをミルネの側頭部に突き立てる。
「カーネル様...ッ!!」
噴き出した血が床に滴り落ちる。
「...は?」
ロイの両手が綺麗に切断され床に落ちていた。
「俺の大切な仲間に汚ねぇ手で触んじゃねぇよカス。」
「カーネル様ッ!」
ロイの目の前には、ミルネを抱きかかえたカーネルが立っていた。
「誰だあ!?」
「男に名乗る名などねぇよ。」
カーネルがロイに剣を向けた。
「「隊長!」」
遅れてレーンとオルガが到着する。
「お前らはカレンとソフィの手当てをしろ。」
「敵の前で人の心配かあ!!」
ロイがナイフをカーネルに向かって飛ばす。
1本、また1本とナイフがカーネルに突き刺さっていく。
「ナイフ飛ばす事しか出来ねぇのかよ、お前。」
「っっ!!!」
カーネルがゆっくりロイへと歩き出す。
「く、来るんじゃねえ!」
ロイがナイフを一気に飛ばし、奥の扉へと走る。
「させるか!!」
俺は手の平に集めた魔力をロイの足に放つ。
魔力の光は地面を削りながらロイの足を吹き飛ばした。
「クソがっ!!!」
ロイは足から血を流し、床に這いつくばっいた。
「じゃあな糞野郎。」
カーネルがロイの首に剣を突き立てた。
ロイの体から力が抜け落ち、目から光が失われた。




