第5話 修行
「隙あり!」
カレンの木剣が俺の脇腹を直撃した。
「ぐぇっ!」
脇腹に走る痛みに顔を歪め、
後ろへ飛び退く。
強くなると決めたあの日から数日が経った。
俺は家の庭で今日もカレンの特訓を受けている。
「ねぇ、手加減って知ってる?」
脇腹を抑えながらカレンを睨む。
カレンの動きは段々見えるようになってきた。
しかし、体は追い付いてくれない。
防具を着けていても木剣の衝撃はとても痛い。
「強くなるんでしょ?頑張って!」
カレンが笑顔で治癒魔法を俺にかけた。
痛みは引いていくが、疲労は溜まったままだ。
それに比べてカレンは息一つ乱していなかった。
笑顔で木剣を振り回しているが、
とても女の子のものとは思えない一撃だ。
この世界に来る前の俺でも、
こんな動き出来なかっただろう。
「今のソフィは家畜魔獣よりも弱いんだから、もっと頑張らないとね~」
(家畜って...ちょっと言いすぎじゃないか?)
だが、それを否定できないのが悔しい。
実際、まだ俺の木の短剣は一度もカレンに届いていなかった。
「でも初日よりは動けてるし、そんなに焦らなくても大丈夫だよ!」
「でもさぁ...おかしくない?」
カレンはきょとんとした顔で首をかしげた。
「こんなに重い木剣を、あんなに早く振れるなんてさ。」
ずっと気になってはいた事がある。
それは、カレンの細い体のどこにそんな力があるのかだ。
「そりゃぁ魔力で身体強化してるし...あれ、言ってなかった?」
「最初に教えるべきでしょ普通!!」
「まぁまぁ、早いうちに知れて良かったじゃん?」
最初に教えてくれたらもっと早く知れただろって思ったが、
これ以上言っても無駄な気がしたので黙っておく。
「で、その身体強化ってどうするの?」
「魔力を全身に込めるだけだよ!」
「簡単にいうけどさぁ、魔力を込めるって...」
とりあえず全身に力を込めてみるが、
特に変わったことはなかった。
そもそも魔力というのが感じられなかった。
「そもそもさぁ、魔力ってのが良く分らないぞ」
「う~ん...ここから力が流れる感覚って言えばいいのかな」
自分の下腹部を指でさし、そう言った。
「集中して魔力が流れるのをイメージしてみて!」
目を閉じ自分の下腹部に集中した。
(魔力の流れをイメージ...)
しかし何も感じなかった。
ただ暗闇の中で、自分の内側を探るだけだった。
「何も感じない、もしかして魔力がないんじゃないの?」
「それは無いよ、魔力はどんな物にもあるからね。」
「もっと力を抜いてみて!」
再び目を瞑り、深く深呼吸した。
力を抜き、体から魔力が流れあふれるイメージをする。
最初はさっきと同じで何も感じなかった。
しかし、その時確かに下腹部に何かが流れる感覚がした。
「どう?何か感じた?」
「うん、少しだけ。」
「そう!それが魔力だよ!」
カレンが嬉しそうに飛び跳ね声を上げた。
「次は魔力を腕に送るイメージ!」
「腕に...」
その感覚を忘れないうちに、
腕へと流し込むイメージをした。
木の短剣を握る手に、微かな熱が集まる。
そして、そのまま短剣を振り下ろした。
その時、空気が唸った。
木の短剣とは思えない風圧が巻き起こり、
周囲の草が大きく揺れる。
前髪が風に煽られ、思わず目を見開く。
「え?」
ただ振っただけだった。
だが、その直後。
全身から力が抜けるような感覚に襲われた。
足に力が入らず、俺はその場に倒れ込む。
思わず自分の手を見た。
「ソフィ!大丈夫!?」
カレンが慌てて駆け寄ってくる。
その顔は、とても焦っているように見えた。
「魔力の込めすぎだよ!」
「込めすぎ?」
息を整えながら聞き返した。
「身体強化は少しずつ魔力を流すものなの!」
カレンは呆れたようにため息をついた。
「初めてだからって、いきなり全部流し込む人なんて初めて見たよ...」
「魔力を使い切ったら最悪死んじゃうんだから気を付けてよね!」
「先に言ってくれよ……」
俺は寝ころんだまま、思わずそう呟やく。
青い空はいつの間にか赤く染まり始めていた。
全身は疲れ切っていた。
それでも、ほんの少しだけ前に進めた気がした。
それから数日。
俺は毎日のように剣術と魔力を調節する練習を続けた。
最初は魔力を抑えすぎたり、
逆に流しすぎて動けなくなったりと苦戦の連続だった。
それでも繰り返すうちに感覚は掴め、
段々と調節が出来るようになっていた。
「ほらほら、今日も訓練するよ!」
カレンはいつものように笑顔で木剣をぶんぶん振り回していた。
その姿だけ見れば無邪気な女の子だ。
だが、その木剣が当たると洒落にならないほど痛い。
「今日こそ一発入れてやる!」
下腹部に流れる魔力を全身に巡らせる。
体は軽くなり、木の短剣を持つ手が楽になる。
「それじゃ、いくよ!」
カレンが木剣を構えた。
次の瞬間、カレンが地面を蹴る。
俺は木の短剣でカレンの木剣を受け止めた。
以前なら見えていても動けなかった、だが今は違う。
俺はカレンの動きに対応できるようになっていた。
受け止めた勢いのまま短剣を振るい、カレンに反撃をする。
カレンはヒョイと体を傾け攻撃を躱した。
「だいぶ動き良くなったね~」
そう言いながら、続けざまに放った俺の攻撃も軽々と受け流していく。
何度か打ち合い、
木の短剣で木剣を弾く。
カレンの脇が僅かに空いた。
俺は迷わず踏み込み、
間合いを一気に詰める。
届くと思った。
だが、カレンの姿は既にそこになかった。
空を切った短剣の勢いで、体が前へ流れる。
そのまま俺の背中に衝撃が走った。
「うっ!」
衝撃に息が詰まり、
俺は前のめりに倒れる。
振り返ると、
カレンはいつもの笑顔を浮かべていた。
「うん、これなら大丈夫かな」
カレンが小さく呟いた。
「いや~惜しかったね~!」
そう言いながらカレンが顔を覗き込んだ。
「そろそろ次の段階に進もうか。」
「次の段階?」
「実戦だよ。」
「実戦?」
嫌な予感がした。
カレンは満面の笑みを浮かべてる。
「その笑顔が一番怖いんだけど!?」
「大丈夫大丈夫! 弱い魔獣だから!」
カレンは軽い調子で言う。
だが、カレンの『大丈夫』は全く信用できない。
恐る恐るカレンに聞いてみる。
「ちなみに、その弱い魔獣って?」
「う~ん...牙で人くらいなら簡単に噛み砕く程度だよ!」
「全然弱くないだろ!」
カレンはケラケラと笑った。
どうやら俺に拒否権はないらしい。
明日が来るのが、少しだけ憂鬱だった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価をいただけると励みになります。




