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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第4章 迷宮編

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第38話 記憶

少女は笑みを浮かべたまま、俺を見つめていた。


「うるせぇよ。」


俺は少女を睨みつけた。


「さっきから何なんだよ。嫌な記憶を勝手に見せやがって。」


白い空間には、相変わらず何もなかった。


壁も、床も、天井もない。


目の前にいる少女以外、何一つ存在していない。


なのに、俺は確かにここに立っていた。


「俺の過去を知ったような口を利きやがってさ!」


少女は何も言わなかった。


ただ、俺の言葉を聞いている。


その態度が気に入らなかった。


俺がどれだけ怒鳴ろうと何をしようと、何の意味もないとでも言いたげだった。


「答えろよ!」


俺は声を荒らげた。


「お前は何なんだって聞いてんだよ!」


少女は小さく首を傾げた。


「今は、そんなことはどうでもいいでしょう?」


「どうでもよくねぇだろ!」


「では、答えますか?」


「...は?」


少女は俺の目を見つめたまま、静かに問いかけた。


「貴方には何が残りましたか?」


また、それだ。


何度も何度も繰り返される質問。


俺が何を言おうと、何を聞こうと、少女は同じ場所へ話を戻してくる。


「っ...!」


俺は拳を握り締めた。


殴りたかった。


目の前にいるコイツを殴って、2度とあんな記憶を見せられない様にしたかった。


俺の過去を勝手に覗き込んで、分かったような顔をして。


俺が何を経験して、何を失って、どんな気持ちで生きてきたのか。


そんなもの、他人に好き勝手触れられていいはずがない。


1発殴れば、少しは気が済むかもしれない。


そう思った。


けれど。


俺は動けなかった。


少女は俺を見ている。


ただ、それだけだった。


身構える様子もない。


逃げようともしない。


俺が本当に殴るつもりなのか、それすら興味がないように見えた。


「クソ。」


握った拳に力を込める。


けれど、何もできなかった。


言葉も出てこない。


最強になった。


誰にも負けなくなった。


誰にも馬鹿にされなくなった。


誰も俺を傷つけられなくなった。


そうだ。


それでいい。


俺はずっと、そうやって生きてきた。


自分が最強だと言い聞かせていればよかった。


誰かに何かを言われても、力で黙らせればよかった。


誰かが俺を見て笑っていても、そいつを黙らせればよかった。


そうすれば、もう何も気にしなくて済んだ。


誰かの顔色を窺う必要もない。


誰かに嫌われることを恐れる必要もない。


誰かに見捨てられることを怖がる必要もない。


俺は一人で生きていける。


そう思っていた。


「...俺は、最強になったんだ。」


ようやく口から出た言葉は、それだった。


少女はあっさりと頷いた。


「はい。」


否定されると思っていた。


いや、否定してほしかったのかもしれない。


何か言い返して、俺が間違っていると証明してほしかったのかもしれない。


けれど少女は、ただ頷いただけだった。


「誰にも負けないくらい強くなった。誰も俺に逆らえなくなったんだ。」


自分に言い聞かせるように言葉を続ける。


「俺を馬鹿にする奴も、笑う奴も、全員黙らせてきた。」


「はい。」


「だから...」


そこで言葉が途切れた。


だから、何だ。


何が言いたい。


俺は何を証明しようとしている?


誰にも負けなかった。


誰にも逆らわせなかった。


誰にも傷つけられなかった。


それで、何が変わった?


俺は口を開いたまま、何も言えなくなった。


少女は相変わらず笑っていた。


そして、静かに尋ねた。


「それで、誰かに会いたくなりましたか?」


「誰かと話したくなりましたか?」


何も答えられなかった。


「誰かに、助けてほしいと思いましたか?」


「黙れよ。」


「誰かに、泣いてもいいと言ってほしかったですか?」


「黙れっ!」


俺は叫んだ。


声が白い空間に広がったのかどうかも分からない。


ただ、自分の喉が痛くなるほど叫んだ。


それでも少女は表情一つ変えなかった。


「貴方は、誰も近づけなくなりましたね。」


その言葉に、息が詰まった。


そうだ。


俺が強くなってから、誰も近づいてこなくなった。


俺に話しかける奴はいなくなった。


俺を笑う奴もいなくなった。


俺を馬鹿にする奴もいなくなった。


誰も俺に逆らわなくなった。


望んでいた通りだったはずだ。


母は俺を見るたびに泣いていた。


父は俺と目を合わせなくなった。


家の中でも、誰も俺に何も言わなくなった。


俺が何をしていても、誰も止めようとしなかった。


それでも、俺は最強だった。


誰にも負けない。


誰にも傷つけられない。


誰にも。


「それでいいんだよ。」


声が小さくなった。


「それでいいんだ。俺は一人で良かったんだ。」


そうだ。


最初から一人でよかった。


誰かを信じるから、裏切られたときに苦しくなる。


誰かを大切に思うから、失ったときに悲しくなる。


誰かに優しくされるから、その優しさがなくなったときに寂しくなる。


そんなものがあるから、傷つくんだ。


だったら、最初から何も持たなければいい。


何も期待しなければいい。


何も望まなければいい。


俺は一人でいい。


そうすれば、もう誰にも傷つけられない。


「本当に?」


少女が尋ねた。


「そうだ。」


俺はすぐに答えた。


迷う必要なんてない。


何度も自分に言い聞かせてきた言葉だ。


「では、どうして今、泣いているのですか?」


「...っ。」


頬に手を触れる。


濡れていた。


いつの間にか、涙が流れていた。


何なんだよ。


どうしてだ。


俺はもう、泣かないと決めたはずなのに。


兄貴と約束したはずなのに。


「うるせぇよ...」


声が震えた。


「俺は、俺はもう、何もいらねぇんだよ。」


誰もいらない。


友達も。


家族も。


誰かの優しさも。


誰かの言葉も。


そんなものがあるから、失ったときに苦しくなる。


そんなものがあるから、傷つく。


そんなものがあるから、泣くことになる。


だから、いらない。


全部いらない。


俺は俯いた。


涙が落ちていく。


拭おうとも思わなかった。


「もう何も、要らないんだ。」


少女はしばらく黙っていた。


そして、


「そうですか。」


と、静かに答えた。


少女が一歩近づく。


俺は反射的に身構えた。


「な、何だよ。」


少女は答えず、俺の頭にそっと手を置いた。


「何だよ急に...やめろよ。」


振り払おうとした。


けれど、その手は不思議と嫌ではなかった。


この空間に来てから嫌な感覚も、何もかもが和らいでいく感じ。


頭の霧が晴れていくような清々しい気持ち。


何故なのかは分からない。


ただ、俺は動かなかった。


そして、動けなかった。


少女は俺の頭に手を置いたまま、口を開いた。


「返すんです。」


「何をだよ...?」


少女の金色の髪が、白い空間の中で静かに揺れた。


その顔には、相変わらず笑みが浮かんでいた。


「この世界に来てからの■■■では無く、ソフィとしての記憶の全てです。」


「...は? 何の話だよ。」










「ソフィって誰の事だよ。」

読んでいただきありがとうございます。

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